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【研究成果】線維症治療薬開発のAMED研究費を獲得 ~ 令和2年度「橋渡し研究戦略的推進プログラム」採択 ~

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の「橋渡し研究戦略的推進プログラム」に、横崎恭之創発教授(トランスレーショナルリサーチセンター インテグリン-マトリクス治療科学講座)の研究提案が採択されました(全国71 件申請11 件採択の一つ)(令和2年8月3日採択)。またひとつ、広大発医薬の一歩が国の支援を受け踏み出されました。

本研究のポイント

  •  肝硬変や肺線維症などの「線維症」では各臓器の正常細胞が次第に失われ、致命的となります。現在根本的な治療薬がありません。肝硬変とその予備群は、国内で500 万人、世界では3 億人以上1)2)と見積もられ、がん同様治療薬が渇望される領域です。
  •  原因である組織線維化は実質細胞の間質細胞へのおきかわりで、肺、肝臓、心臓、腎臓、皮膚を始めあらゆる部位に生じ、コラーゲンなどマトリックス蛋白の過剰な沈着を伴います。マトリックス蛋白の受容体である「インテグリン」分子は、当然ながら深く関与しています。近年線維化は必ずしも非可逆的でないとわかり、24 種類のインテグリンの中の真犯人が同定できれば、それを拘束する抗体が、線維化を抑制する医薬として浮かび上がります。
  •  広島大学の横崎恭之創発教授らはこの分野における世界屈指の研究チームで、1995 年にインテグリンの一つを発見しています。採択課題「ヒト化インテグリンα8β1 機能阻害抗体の肝抗線維化剤への育成 (シーズPreB; 支援拠点岡山大学)」では、α8 抗体を医薬開発のレールにのせ臨床試験を行うため、抗体の身体検査と予備試験を行います。

概要

約20年前、インテグリンβ6 鎖ノックアウトマウスがブレオマイシン肺線維症に抵抗性との発表が、研究者の間を駆け巡りました。その時、研究代表者はαvβ6 でなく、別のα8β1が思い浮び、線維化治療標的としてはより有利ではないかと直感しました。何故なら、αvβ6は上皮細胞に限局するインテグリンで、α8β1 は対照的に間葉系組織だけに発現しています。
そこは線維症の発症母地であり、線維化形成の根幹をなす線維芽細胞、筋線維芽細胞が由来します。α8β1 の抗体作製は、世界の複数グループが取組みましたが、技術的な要因で困難を極めていました。本研究代表および分担者らは、NEDO の支援を得て生物圏研究科松田教授(当時)と共同で2009 年ニワトリを宿主とした抗α8β1 阻害抗体を作製しました3)。マウス線維症モデルへの投与結果は薬理効果を十分に期待させ4)、2019 年には抗体ヒト化(hYZ3)に成功しました。

線維症はまだ何も治療薬剤がなく、多くは徐々にそして確実に悪化し、患者の不安は恐怖とも言えます。この進行を止める(改善する)ことは大きな意義をもち、また切迫した問題です。本研究では、hYZ3 の医薬としてのゴールまでの基本プロセスである非臨床試験を開始できるよう、本薬に求められる試験項目、プロトコールを確定することを目的とします。
具体的には、そのために必要なデータの収集解析および予備実験を行います。線維化は肺、肝、腎、心などの諸臓器に見られますが、今回は、我が国での線維化予備群500 万人以上と推定される肝臓の線維症を対象とします。期待される成果としては、1)試験プロトコールの完成、2)その中で必要な薬効・薬理マーカーの同定、3)免疫原性の確認のための実験方法の確立、4)製造品の純度の確定です。同時に、ニワトリ抗体が臨床医薬へ展開可能であることも大きなトピックとなるでしょう。
なお本研究には共同研究講座のパートナーである武田薬品工業の協力を得ます。同社は対象疾患こそ異なるものの同じくインテグリン抗体 (抗α4β7;Vedolizumab)を消化器疾患を適応として上市しており、本研究で互いに協力すれば、それは双方にとって医薬開発の実践面でのかけがえのない有益なものとなると期待できます。

広島大学では、こうした基礎研究のシーズを臨床試験へ橋渡ししていくトランスレーショナル リサーチ センター(Translational Research Center、TRC)を通じて、今後も創薬研究開発に注力していきます。

参考文献
1) Younossi ZM、et al. Global epidemiology of nonalcoholic fatty liver disease-Meta-analytic assessment of prevalence、 incidence、 and outcomes. Hepatology 64:73-84. 2016
2) Estes C、et al. Modeling the epidemic of nonalcoholic fatty liver disease demonstrates an exponential increase in burden of disease. Hepatology 67: 123-33、 2018
3) インテグリンα8β1 特異的モノクローナル抗体. 特許5765814. (PCT/JP2013/059368、 既移行国 米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、スイス、台湾)
4) インテグリンα8β1 の機能を阻害する事による線維化の抑制. 特許5733546.(PCT/JP2013/059368、既移行国 中国)

【お問い合わせ先】

【技術的なお問い合わせ先】
 広島大学トランスレーショナルリサーチセンター 横崎 恭之 創発教授
 Tel:082-257-1523 FAX:082-257-1788
 E-mail: yokosaki*hiroshima-u.ac.jp
【共同研究講座に関するお問い合わせ先】
 広島大学学術・社会連携室 シニアURA 天ヶ瀬 晴信 PhD
 Tel:082-257-1988 E-mail: amagase*hiroshima-u.ac.jp
 (注: *は半角@に置き換えてください)


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