広島大学 大学院医系科学研究科
准教授 柳瀬 雄輝
TEL: 082-257-5338
E-mail: yyanase*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
本研究成果のポイント
- 血液凝固反応の過程で活性化される凝固・線溶因子(※1)が補体成分のC5からC5aを産生することがわかりました。
- 血液凝固・線溶因子の活性化により産生されたC5aは、ヒト皮膚マスト細胞(※2)および末梢血好塩基球(※3)を活性化し、ヒスタミン等の膨疹形成物質を放出することがわかりました。
- 上記の反応は、セリンプロテアーゼ阻害薬(※4)やC5a受容体の拮抗薬で抑制できることがわかりました。
- 血液凝固反応を阻害する物質やC5a受容体の拮抗薬が、慢性蕁麻疹(じんましん)の新しい治療薬として応用されることが期待されます。
概要
広島大学大学院医系科学研究科皮膚科学の秀道広教授、同治療薬効学の柳瀬雄輝准教授と小澤孝一郎教授らの研究グループは、長い間原因不明とされてきた慢性蕁麻疹が起こるしくみに関する研究を行ってきました。慢性蕁麻疹は明らかな誘因が無く、毎日膨疹が出没する疾患です。膨疹は、皮膚組織内のマスト細胞や末梢血管内を循環している好塩基球からヒスタミンが遊離され、皮膚の微小血管に作用して血漿が皮膚組織内に漏れ出ることで形成されると考えられていますが、その詳細は良く解っていませんでした。これまでの研究により、血管壁を構成する血管内皮細胞や末梢血単球が外因系凝固反応の開始因子である組織因子(TF)を発現し、局所的な血液凝固反応の駆動と血管透過性(※5)亢進に寄与することを明らかにしてきましたが、血液凝固反応とマスト細胞・好塩基球活性化の関係は不明なままでした。
今回の研究では、血液凝固反応により生じる活性化血液凝固因子(※6)が、これまで考えられてきた直接作用ではなく、補体系(※7)を介してマスト細胞・好塩基球のヒスタミン放出を起こすことを証明しました。これまで血液凝固反応と慢性蕁麻疹の病態は全く別の現象として考えられてきましたが、今回の研究結果から、2つの反応が組み合わさることでマスト細胞・好塩基球の活性化が起こることが明らかになりました。本研究成果は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」オンライン版に掲載されました。
用語解説
(※1) 凝固・線溶因子
凝固因子は血液凝固反応に関わり、線溶因子は凝固反応によって生じた血液凝固物の分解に関わる。
(※2) マスト細胞
組織に存在し、細胞内でヒスタミンやプロテアーゼを産生・貯蔵し、刺激等により細胞外に放出する。即時型アレルギーの原因細胞と考えられている。
(※3) 好塩基球
血液中にわずかに存在する白血球の一種。細胞内でヒスタミンを産生・貯蔵し、刺激等により細胞外に放出する。
(※4) セリンプロテアーゼ阻害薬
セリンプロテアーゼとは、アミノ酸のセリンに作用してタンパク質を分解する酵素の総称。凝固因子の多くは活性化するとセリンプロテアーゼ活性を持ち、下流の凝固因子を分解する。セリンプロテアーゼ阻害薬は、それらの反応を阻害することにより血液凝固反応を抑制する。臨床的には、ナファモスタット(フサン)等が使われている。
(※5) 血管透過性
血管の内壁は血管内皮細胞が互いに結合してバリア構造を形成することにより、通常は細胞・血漿タンパク質等の物質は通過できない。一方で、炎症、アレルギー反応等の病的な状態になると、血管内皮細胞同士の結合が弱まり、血管外に血液成分が漏出して、炎症の増悪・浮腫・膨疹を生じる。
(※6) 活性化血液凝固因子
活性化血液凝固因子の多くはセリンプロテアーゼ活性を持ち、下流の凝固因子を分解して活性化型の凝固因子を産生する。
(※7) 補体系
生体に侵入した病原微生物などを排除するための免疫反応を媒介するタンパク質。補体はC1からC9の9種類あり、C5がセリンプロテアーゼ(蛋白分解酵素)によって分解されるとC5aとC5bが産生され、特にC5aはC5a受容体(C5aR)を介してマスト細胞を活性化することが知られている。
論文情報
- 掲載誌: The Journal of Allergy and Clinical Immunology
- 論文タイトル: Coagulation factors induce human skin mast cell- and basophil-degranulation via
activation of complement 5 and the C5a receptor - 著者名: Yuhki Yanase, Yoshimi Matsuo, Shunsuke Takahagi, Tomoko Kawaguchi, Kazue Uchida,
Kaori Ishii, Akio Tanaka, Daiki Matsubara, Koichiro Ozawa, Michihiro Hide.
- 報道発表資料(400.15 KB)
- 論文掲載ページ (The Journal of Allergy and Clinical Immunologyに移動します)
- 広島大学研究者総覧 (秀 道広 教授)
- 広島大学研究者総覧 (柳瀬 雄輝 准教授)