• ホームHome
  • 【研究成果】光の強度を2000倍に増強する酸化チタン~太陽電池、抗ウイルス、水素製造の高効率化へ~

【研究成果】光の強度を2000倍に増強する酸化チタン~太陽電池、抗ウイルス、水素製造の高効率化へ~

本研究成果のポイント

  • 空気清浄、抗菌コート、最先端の研究では太陽電池、水素製造、更に新型コロナウイルスの不活化の研究に、「光と酸化チタン」が使われています。
  • その酸化チタンで、光の強度を2000倍以上に増強する効果を発見しました。
  • この効果は、太陽電池、光触媒(空気清浄、防汚、浄水、水素製造など)、新型コロナウイルスの不活の高効率化など、幅広い利用が期待されます。

概要

理学研究科の大学院生 花谷快渡氏(博士前期修了)、吉原久未氏(博士前期修了)、坂本全教氏(博士後期修了)、自然科学研究支援開発センター(研究開発部門)の齋藤健一教授の研究グループは、非常に優れた半導体である酸化チタン(※1)で、光の巨大な増強効果を実現しました。特色は、①極めてシンプルな製法で試料(多孔質フィルム)を作製 ②半導体としての最大の増強度 ③応用性が大変高い酸化チタン で実現です。

製法は、酸化チタンのナノ粒子に常温で荷重(5 kg程)をかけ、多孔質フィルムを作りました。このフィルムに光を照射すると、酸化チタンナノ粒子のアンテナ効果(※2)により、光を高効率に集めることができました。更に、多孔質フィルムを形成しているナノ粒子間のすきま(ナノギャップ)で、各粒子で集められた光が重なり、増強効果が飛躍的に増加しました。ナノギャップの数と距離を圧力で制御し、増強度(※3)が2000倍以上と半導体で世界最大値を実現しました。その他、三次元ナノ空間でのシミュレーションより、理論的にも増強効果を検証しました。なお、ナノギャップが多数ある特徴的なフィルムの作製はこれまでになかったため、「ナノギャップリッチ」の酸化チタンフィルムと命名しました。

本成果は基礎研究ですが、その先には多数の応用が広がっています。具体的には、強い光触媒効果(※4)を有する酸化チタンを用い、新型コロナウイルスの不活化の研究が、世界中で始まっています。その酸化チタンにおいて、増強効果で光を高効率に捕集すること、これは光触媒効果の著しい向上につながり、各種ウイルスの不活化、光触媒効果(空気清浄、防汚、浄水、水素製造)、太陽電池の変換効率など、大きな波及効果が期待されます。

本成果は、アメリカ化学会の学術誌The Journal of Physical Chemistry Lettersのオンライン版に公開されました。なお、本論文の成果は、当該雑誌の表紙として掲載されました。

図1 酸化チタンのナノギャップフィルムによる光増強効果のイメージ図。

太陽電池、水素製造、新型コロナウイルスの不活化の高効率化が期待される。
研究内容は、掲載誌の表紙に採択された。

用語解説

(※1) 酸化チタン
金属であるチタンの酸化物で、優れた半導体。チタンは軽く安定なため、腕時計、ゴルフクラブ、生体インプラント材料など広く使われている。

(※2) アンテナ効果
電波を集めるTVや携帯電話のアンテナのように、ナノ粒子が光を集める効果を指す。ナノ粒子の大きさ、形状、物質や周囲の媒体の屈折率、光の吸収などにより、どの波長の光をどれだけ効率よく集めることができるかが決まる。

(※3) 増強度
ナノ粒子のアンテナ効果による光の集まり方を示す尺度。具体的には、ナノ粒子のある時と無い時に光強度の比から、増強度を算出する。

(※4) 光触媒
光が当たることで、表面で強力な酸化力が生まれ、汚れ(有機物)や細菌などの有害物質を除去できる。半導体に特有の現象で、そのメカニズムは光を吸収し、電子と正孔が生じることが重要。この電子と正孔を取り出すと太陽電池になる。光触媒では、電子と正孔が表面の物質と酸化や還元反応を行う。特に酸化チタンは、優れた光触媒効果を有する。

論文情報

  • 掲載誌: The Journal of Physical Chemistry Letters
  • 論文タイトル: Nanogap-Rich TiO2 Film for 2000-Fold Field Enhancement with High Reproducibility
  • 著者名: Kaito Hanatani1, Kumi Yoshihara1, Masanori Sakamoto1, Ken-ichi Saitow1, 2, 3, *
               1. 広島大学 大学院理学研究科(化学専攻)
               2. 広島大学 自然科学研究支援開発センター(研究開発部門 物質科学部)
               3. 広島大学 大学院先進理工系科学研究科(基礎化学)
               責任著者
  • DOI: 10.1021/acs.jpclett.0c02286

研究支援

・内閣府 最先端・次世代研究開発支援プログラム(グリーン・イノベーション)
・科学研究費補助金 基盤研究(A)、(B)
・公益財団法人JKA 補助事業

【お問い合わせ先】

広島大学 自然科学研究支援開発センター 研究開発部門(物質科学部)
広島大学 大学院理学研究科 化学専攻(併任) 
広島大学 大学院先進理工系科学研究科 基礎化学(併任) 
教授 齋藤 健一
TEL: 082-424-7487
E-mail: saitow*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


up