広島大学 脳・こころ・感性科学研究センターの濱聖司研究員、山脇成人特任教授、大学院先進理工系科学研究科の古居彬助教、辻敏夫教授の研究グループは、脳卒中がストレス適応力を低下させ、脳卒中後うつ病を発症し、様々な高次脳機能障害を伴うことを発見しました。さらに、機械学習を用いることで脳卒中後うつ病の下位症状(うつ、意欲低下、不安)が比較的高い精度で推定できることを提案しました。
広島大学の研究グループは、これまでCT・MRIを用いた脳卒中後うつ病の脳画像解析研究から、脳卒中後うつ病は『抑うつ気分』と『意欲低下』の二大症状に分類され、各々異なる神経基盤が関与し、リハビリテーションを阻害する大きな要因になることを報告してきました(Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci 2007; Int J Geriatr Psychiatry 2007; Am J Geriatr Psychiatry 2013)。また、不安症状が合併すると症状が重症化することも知られていることから、脳卒中後うつ病は、『抑うつ気分』、『意欲低下』と『不安』といった下位症状までを正確に診断する必要があります。
ヒトは精神的なストレスに対して対処する能力があります。しかし、脳卒中によって脳の特定の領域が障害されると、徐々にストレス適応力が低下し、脳卒中後うつ病を発症する(『閾値仮説』)が提唱されていますが、まだ証明されていません。
本研究では、日比野病院に入院してリハビリテーションを行った脳卒中患者274名に対して気分障害(うつ、意欲低下、不安)を測定し、日常生活動作の自立度、麻痺の程度、ストレスを自覚する強さ、高次脳機能との関連性について独自の機械学習モデルを用いて解析しました。
その結果、今回提案するモデルを用いることで、一般的な方法よりも比較的高い精度で抑うつ気分、意欲低下、不安を識別可能であることを確認しました。また、このモデルの中の指標で『ストレスを自覚する強さ』が三つの気分障害の識別に最も関係することから、脳卒中によって脳の特定の領域が損傷を受けて少しずつストレス適応力が低下していくことが脳卒中後うつを発症する原因であることを示しました。
今後は検査項目と解析手法を工夫し、誰でも簡単に脳卒中後うつ病の診断ができる技術を開発して脳卒中患者さんのリハビリテーション効果の向上に繋げていきたいと思います。
この研究成果は、イギリスの科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。
- 掲載誌: Scientific Reports
- 論文タイトル: Relationships between motor and cognitive functions and subsequent post‑stroke mood disorders revealed by machine learning analysis”(機械学習を用いた脳卒中患者の気分障害と認知・身体機能の関係解析)
- 著者名: Seiji Hama 濱 聖司1,2*, KazumasaYoshimura 吉村 和真3, AkikoYanagawa 柳川 亜紀子1,2, Koji Shimonaga下永 皓司1, Akira Furui 古居 彬4, Zu Soh 曽 智4, Shinya Nishino 西野 真弥4, Harutoyo Hirano 平野 陽豊5, ShigetoYamawaki 山脇 成人6 & ToshioTsuji 辻 敏夫4*
所属: 1広島大学 大学院医系科学研究科(医)脳神経外科学、2信愛会 日比野病院リハビリテーション科、
3広島大学 大学院工学研究科、4広島大学 大学院先進理工系科学研究科、5静岡大学 学術院工学領域、
6広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター