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【研究成果】ゴルジ体の集合と分散の分子機構の解明

本研究成果のポイント

  • ショウジョウバエの分散型ゴルジ体(※1)は細胞内を活発に移動し、トランス側で接着と解離を繰り返していた。
  • ショウジョウバエにおけるゴルジ体の分離にはSec71(※2)が必要であり、Sec71の機能を阻害すると、哺乳類細胞のようにゴルジ体が集合した。
  • 動植物種により異なるゴルジ体の散在型・集合型という2つの状態が、ゴルジ体の接着と解離の活性のバランスによって決まっていることを示唆した。

概要

ゴルジ体はシス嚢,メディアル嚢,トランス嚢,トランスゴルジ網が積み重なったゴルジ層板(Golgi stack)(※3)を基本単位としており、1つの細胞内には10-100以上ものゴルジ層板が存在します。このゴルジ層板の細胞内での分布は種によって異なっており、ショウジョウバエ・線虫・植物などでは、細胞質中に散在しているのに対して、哺乳類細胞では、核周辺部に集合しています。哺乳類におけるゴルジ層板の集合化には微小管(※4)が必要ですが、最近、微小管が正常に形成されていても、ある種の生理学的条件下や、ALS, パーキンソン病, アルツハイマー病といった神経変性疾患による病理学的条件下では、ゴルジ層板が散在することが報告されました。これらのことから、哺乳類におけるゴルジ層板の集合のメカニズムと機能が注目されています。

広島大学大学院統合生命科学研究科の佐藤明子准教授らのグループと理化学研究所光量子工学研究センター生細胞超解像度イメージング研究チーム(チームリーダー: 中野明彦)は、本研究で、①ハエの分散型ゴルジ層板が細胞内を活発に移動し、トランス側で接着と解離を繰り返していること、②ハエにおけるゴルジ体の分離にはSec71が必要であり、Sec71欠損によりゴルジ層板は哺乳類のように集合型を示すことを見出しました。このたびの発見は、動植物種で行っているゴルジ層板の散在型・集合型という2つの状態が、ゴルジ層板の接着と解離の活性のバランスによって決まっていることを示唆しています。疾患細胞におけるゴルジ層板の散在は、ヒトのSec71ホモログであるBIG1, BIG2の活性の変化によりもたらされている可能性が考えられます。

(図) ゴルジ層板/REの融合と分離のモデル

ゴルジ層板とREは各々グレーとピンクで表しました。上の段はショウジョウバエ培養細胞(S2cell)、下の段はヒト培養細胞(HeLa cell)を示しています。無処理のS2細胞では、ゴルジ層板/REは融合と分離を繰り返しながら細胞中に分散しています。薬剤(BFA)を投与することでSec71の機能を欠損させると、ゴルジ層板/REの融合は正常ですが、分離が阻害されることによりREを中心としてゴルジ層板/REが集合ました。一方、ヒトなどの脊椎動物の細胞では、通常の状態でゴルジ層板/REは核周辺に集合しています。微小管重合阻害剤を投与するとゴルジ層板/REが細胞質中に分散することが知られています。また、最近、神経変性疾患細胞でも、同様のゴルジ層板の細胞質中への分散が報告されています。

用語解説

(※1) ゴルジ体
ホルモンや消化酵素などの分泌タンパク質や膜タンパク質の生合成に必要な細胞小器官であり、一端(シス面)から新規タンパク質を受け取り、もう一端(トランス面)からタンパク質を送り出す。

(※2) Sec71
小胞形成を誘導するARF1, ARF3 を活性化する役割を持つタンパク質(ARFGEF)の1つ。

(※3) ゴルジ層板(Golgi stack)
ゴルジ体の基本単位。シス嚢,メディアル嚢,トランス嚢,トランスゴルジ網が積み重なったパンケーキ状の構造をしており、1つの細胞内に10-100以上も存在する。

(※4) 微小管
細胞内に見られる直径約20nmの環状構造。αβチューブリンが重合することによって形成される。様々な細胞小器官や小胞などが微小管を足場にして移動する。

論文情報

  • 掲載誌: Journal of Cell Science
  • 論文タイトル: Sec71 separates Golgi stacks in Drosophila S2 cells.
  • 著者名: Fujii S, Kurokawa K, Tago T, Inaba R, Takiguchi A, Nakano A, Satoh T, Satoh AK.
  • DOI: 10.1242/jcs.245571.
【お問い合わせ先】

大学院統合生命科学研究科 
准教授 佐藤 明子
TEL: 082-424-6507
E-mail: aksatoh*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


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