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【研究成果】一般病床および介護施設向けの手引きを作成しました~ 新型コロナウイルスに感染した認知症の人の行動・心理症状にどのように対応するか ~(動画あり)

本研究成果のポイント

  • 本研究室が主となって実施した先般の研究調査では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第1波において、調査対象の入所系医療・介護施設の約6%が新型コロナウィルス陽性または疑いとなった、あるいは濃厚接触となった認知症の人がいたと回答しており、そのうち約4割が認知症に伴う行動・心理症状のために対応が困難であったと回答しました。
  • 調査結果を踏まえ、この度、一般病床および介護施設において新型コロナウイルスに感染した認知症の人の行動・心理症状への対応およびその結果として用いられることがある身体拘束について予防をどのように進めるか考え方をまとめた手引きを作成しました。

概要

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染流行は第3波が到来し、感染者数の増加による病床逼迫が問題となっています。病床が逼迫する中では、重症化リスクが高い高齢者であっても入院が困難となり、高齢者介護施設入所者が感染した場合でも施設入所を継続することを求められるケースも出てくると考えられます。

認知症の人が新型コロナウイルスに感染した場合、認知症に伴う症状、特に行動・心理症状(※1)への対応が課題であると言われています。例えば、感染に伴って認知症の症状が悪化したり、徘徊などによって隔離が困難であったりということが起こっていると言われています。また、新型コロナウイルス感染症ではせん妄(※2)が発症する危険性も高いことが報告されており、せん妄への対応も課題となります。こうした行動・心理症状やせん妄への対応は医療介護施設スタッフの負担にもつながります。

さらに、身体拘束は緊急やむを得ない場合以外には認められておらず、医療介護現場では身体拘束を減らすための取組を続けてきましたが、新型コロナウイルス感染症流行下においては、感染リスクコントロールのため認知症に伴う行動・心理症状やせん妄に対して身体拘束が必要となるケースもあると言われています。

以上より、新型コロナウイルス感染症に感染した認知症の人の行動・心理症状への対応および身体拘束に対する予防の取組は喫緊の課題と言えます。

本成果の根拠となる調査研究結果
広島大学 大学院医系科学研究科 共生社会医学講座の石井伸弥寄附講座教授は、これまでに一般社団法人日本老年医学会、広島大学公衆衛生学講座と共同で高齢者医療・介護施設および介護支援専門員を対象としたオンラインによる質問票調査を行い、認知症の人に対する新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響を調査しました。

その結果、調査対象となった入所系医療・介護施設の約6%が新型コロナウイルス陽性または疑いとなった、あるいは濃厚接触となった認知症の人がいたと回答しており、そのうち約4割の施設が認知症に伴う行動・心理症状のために対応が困難であったと回答しました。この調査結果に基づき、この度、下記手引きを作成しました。

本成果 一般病床および介護施設における新型コロナウイルス感染症もしくは疑い認知症高齢者の行動・心理症状の対応および身体拘束予防のための手引きの作成
今回、広島大学大学院医系科学研究科共生社会医学講座では、広島大学病院感染症科、広島大学公衆衛生学講座、広島大学精神神経医科学講座や国立長寿医療研究センターをはじめとする広島大学外の団体とともに、一般病床および介護施設における「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)もしくはその疑いがある認知症高齢者の行動・心理症状の対応および身体拘束予防のための手引き」を作成しました。

本手引きは、せん妄や行動・心理症状に対し予防的な対応を行う事によってそれらの発生リスクを低減させること、発生時適切に対応することで身体拘束に可能な限り至らないようにすること、感染リスクのコントロールという公衆衛生上の要請によって身体拘束が避けられない場合であっても人権に配慮したかたちで実施されるようにすること、これらを通して認知症高齢者の権利を守ることを目的として、医療・介護従事者が具体的にCOVID-19もしくはその疑いがある認知症高齢者に対してどのように対応するべきか、特にせん妄や行動・心理症状と身体拘束について現時点における考え方を整理したものです。

本手引きには次のような点に関する考え方を記載しています。

  • 行動・心理症状、せん妄への予防的対応
  • 行動・心理症状、せん妄に対する非薬物的、薬物的対応のポイント
  • 身体拘束に関する倫理的・法的検討
  • 身体拘束実施にあたっての留意点
  • 身体拘束実施の手続き

本手引きは一般病床、介護施設において、認知症高齢者の人権を十分に尊重しながら、新型コロナウイルスへの対応を実施できる医療・ケア体制の構築に資することが期待されます。

参考資料

新型コロナウイルス感染症第1波の認知症の人に対する影響を評価するために2020年6~7月にかけて実施した調査では、調査対象の入所系医療・介護施設の約6%が新型コロナウイルス陽性または疑いとなった、あるいは濃厚接触となった認知症の人がいたと回答しており、そのうち約4割が認知症に伴う行動・心理症状のために対応が困難であったと回答しました。

図1.医療介護施設におけるCOVID-19感染認知症者への対応について

図2.今回作成した手引き
※現時点のものであり、微修正が入ることがございます。

用語説明

(※1) 行動・心理症状
認知症に伴って生じる行動面、心理面の症状。周囲との関わりの中で生じてくると言われており、暴言や暴力、興奮、抑うつ、不安、不眠、幻覚・妄想、徘徊、不潔行動、介護への抵抗などを含みます。

(※2) せん妄
何らかの疾患の影響によって生じる一種の意識障害で、高齢者に多く発症します。突然発症し、幻覚・妄想や睡眠障害、注意や意識の障害などの症状を呈します。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学大学院 医系科学研究科 共生社会医学講座寄附講座
教授 石井 伸弥
TEL: 082-257-2018 
E-mail: sishii76*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


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