広島大学 大学院 先進理工系科学研究科
教授 片桐 清文
TEL: 082-424-4555
E-mail: kktgr*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
本研究成果のポイント
- 代表的な「複合アニオン化合物」である金属酸窒化物(※1)を毒性の高いアンモニアガスを用いた従来の合成法に代わり、安全な尿素を窒素源として用いて合成する方法を開発しました
- 用いる尿素の量によって、金属酸窒化物中の酸素と窒素の比を制御することにも成功しました。この制御によって、得られる金属酸窒化物のバンドギャップ(※2)が変化し、それに伴ってその色調を調整ができることも明らかにしました。
- この金属酸窒化物は有毒な元素を含まず、安全なプロセスで合成できるため、従来の重金属を含む無機顔料に代わる環境に優しい新しい色材として期待できます。
概要
広島大学大学院先進理工系科学研究科 片桐 清文 教授らの研究グループは、北海道大学大学院工学研究院 鱒渕 友治 准教授らのグループとの共同研究により、金属が酸素と窒素の両方と結合した金属酸窒化物を、毒性の高いアンモニアガスの代わりに安全かつ安価な尿素を窒素源に用いて合成する方法、さらにはその酸素/窒素比を制御することで、得られる金属酸窒化物の色調を制御する技術を開発しました。本研究で開発した金属酸窒化物は安全・安価な素材とプロセスで得られるため、現在、使用が制限されつつある重金属を含有する無機顔料に代わる新たな色材になることが期待されます。
本研究成果は、米国化学会の学術誌「Inorganic Chemistry」オンライン版に掲載されました。
この研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究「複合アニオン化合物の新規化学物理機能の創出」(課題番号: 19H04699)、基盤研究(B) (課題番号: 20H02439)などの支援を受けて実施されました。
本研究のイメージ図(Supplementary journal coverに採択)
(参考文献1)Katagiri, K.; Hayashi, Y.; Yoshiyuki, R.; Inumaru, K.; Uchiyama, T.; Nagata, N.; Uchimoto, Y.; Miyoshi, A.; Maeda, K. Mechanistic Insight on the Formation of GaN:ZnO Solid Solution from Zn-Ga Layered Double Hydroxide Using Urea as the Nitriding Agent. Inorg. Chem. 2018, 57, 13953−13962.
(参考文献2)Okada, R.; Katagiri, K.; Masubuchi, Y.; Inumaru, K. Preparation of LaTiO2N Using Hydrothermally Synthesized La2Ti2O7 as a Precursor and Urea as a Nitriding Agent. Eur. J. Inorg. Chem. 2019, 2019, 1257−1264.
用語解説
(※1) 金属酸窒化物
金属酸化物が金属元素と酸素から構成された物質であるのに対し、金属酸窒化物は、金属元素と酸素に加え、窒素を含んだ物質。酸素はO2-イオン、窒素はN3-イオン、すなわちアニオン(陰イオン)として結晶中に含まれるので、「複合アニオン化合物」と呼ばれる物質群になります。
(※2) バンドギャップ
半導体や絶縁体における電子が存在できないエネルギー帯で、価電子帯の最上部と伝導帯の最下部のエネルギー差がバンドギャップのエネルギーと定義されます。この値がその物質が吸収できる光の波長と対応し、バンドギャップが狭いと可視光の吸収が可能になり、有色の物質となります。
論文情報
- 掲載誌: Inorganic Chemistry
- 論文タイトル: Environmentally Benign Synthesis and Color Tuning of Strontium−Tantalum Perovskite Oxynitride and Its Solid Solutions
- 著者名: 坂田 拓也1, 2、吉行 里紗1、岡田 凌輝1、漆谷 想太3、樽谷 直紀3、片桐 清文3*、犬丸 啓3、小山 恭平4、鱒渕 友治5 (*責任著者)
1. 広島大学 大学院工学研究科 応用化学専攻
2. 広島県立総合技術研究所 西部工業技術センター
3. 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 応用化学プログラム
4. 北海道大学 大学院総合化学院 物質化学コース
5. 北海道大学 大学院工学研究院 応用化学部門 - DOI: 10.1021/acs.inorgchem.0c03758