広島大学 両生類研究センター
准教授 三浦郁夫
TEL: 082-424-7323
E-mail: imiura*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
本研究成果のポイント
- 生物は通常、2本の性染色体(※1)を持つのに対し、オスが3本のX染色体と3本のY染色体、メスが6本のX染色体をもつカエルを台湾で発見しました。
- 3本の染色体が三つ巴式に融合した結果、性染色体が6本に増えたことを明らかにしました。
- 融合した3本の染色体は全て、潜在的性染色体(※2)、つまり、性決定の候補遺伝子を含む染色体であることから、融合した染色体の選択はランダムではなく、必然的選択である可能性を示しました。このことは、複合型性染色体(※3)誕生の進化学的理由として新しい解釈となります。とくに、このカエルは鳥とヒト(さらに魚やカモノハシ)の性染色体を合わせもつ初めての脊椎動物となります。
概要
広島大学両生類研究センターの三浦郁夫准教授および大学院生2人(桑名知碧と檜垣友哉)と、台湾、オーストラリア、ドイツ、ブラジルおよびタイの国際共同チームは、台湾に生息するスインホーハナサキガエル(図a)の染色体を解析しました。その結果、生物は通常2本の性染色体を持つのに対し、このカエルは6本の性染色体(※1)(♂X1Y1X2Y2X3Y3-♀X1X1X2X2X3X3)を持つこと(図b)、それは、3本の染色体が三つ巴式に融合して誕生したことを明らかにしました(図c)。さらに、3本のうち、1本は鳥やカモノハシ(および魚)、もう1本はヒトなど真獣類の性決定遺伝子をもつことがわかりました(図d)。
本研究成果は、融合した染色体がいずれも潜在的性染色体(※2)であったことから、融合染色体の選択はランダムではなく、必然的選択であった可能性を示します。このことは、複合型性染色体(※3)誕生の進化学的理由としては新しい解釈であり、性染色体の進化(および取り替え(※2)))機構解明の糸口になると考えています。
本研究成果は、「Cells」オンライン版(early版)に掲載されました。
用語解説
(※1) 性染色体
オスとメスの性を決める遺伝子が性決定遺伝子であり、それを含む染色体を性染色体、それ以外の染色体を常染色体と呼ぶ。
(※2) 潜在的性染色体と取り替え
性染色体は1種類ではなく、カエルの場合は少なくとも6種類が存在する。この6本の染色体を潜在的性染色体と呼ぶ。通常、1本が性染色体として機能する場合、他の5本は常染色体として控えているが、集団間の交雑や新しい集団の遺伝的分化が進むと、別の染色体が性染色体へと切り替わる。これを性染色体の取り替え(ターンオーバー)と呼ぶ。
(※3) 複合型性染色体
性染色体と常染色体が融合したのが複合型性染色体。ただし、このカエルの場合、もとのX染色体とY染色体の形が同じなので、3本のうち、どれがもとの性染色体かはまだ同定されていない。
論文情報
- 掲載誌: Cells
- 論文タイトル: Evolution of a multiple sex-chromosome system by three-sequential translocations among potential sex-chromosomes in the Taiwanese frog Odorrana swinhoana
- 著者名: 三浦郁夫1, 2,*, Foyez Shams2, Si-Min Lin3, 1, Marcelo de Bello Cioffi4, Thomas Liehr5, Ahmed Al‐Rikabi5, Chiao Kuwana6, Kornsorn Srikulnath7,1, Yuya Higaki6 and Tariq Ezaz2,1
1. 広島大学両生類研究センター
2. Center for Conservation Ecology and Genomics, University of Canberra, Australia
3. School of Life Sciences, National Taiwan Normal University, Taiwan
4. Departamento de Genética e Evolução, Universidade Federal de São Carlos, Brazil
5. Institute of Human Genetics, University Hospital Jena, Germany
6. 広島大学 大学院 統合生命科学研究科
7. Department of Genetics, Faculty of Science, Kasetsart University, Thailand
*責任著者 - DOI: https://doi.org/10.3390/cells10030661