大学院医系科学研究科 未病・予防医学共同研究講座
教授 杉山 政則
TEL: 082-257-5280
E-mail: sugi*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
広島大学 未病・予防医科学共創研究所と広島駅弁当(株)の、植物乳酸菌の醗酵技術を活用した研究成果に基づく共同研究商品が、「明日の食卓」ブランドとして、2021年4月に上市されます。まずは、在宅者(主に高齢者)向け配食、企業向け配食の2つのカテゴリーで提供されます。
2020年度、広島大学 未病・予防医科学共創研究所と広島駅弁当(株)は、3カ年の共同研究契約を結びました。
明日の食卓商品について
在宅高齢者向け配食弁当
- 医科学的アプローチ
ごはんにはGABAを高生産する、機能性植物乳酸菌G-15の菌体と醗酵物としてのGABAを含んでいます。
※1食当たり GABA: 40mg(推定値) - 栄養学的アプローチ
エネルギー 600kcal / たんぱく質 25g
カルシウム 230mg / ビタミンD 2.75μg
フレイル予防に重要とされる栄養素を「日本人の食事摂取基準(厚生労働省)」に掲げる1日の目標量、推奨量の1/3を目安にしています。
企業向け配食弁当
- 医科学的アプローチ
ごはんにはGABAを高生産する、機能性植物乳酸菌G-15の菌体と醗酵物としてのGABAを含んでいます。
※1食当たり GABA: 40mg(推定値) - 栄養学的アプローチ
「日本人の食事摂取基準」に準拠した栄養バランス食で1日の摂取目標の1/3に相当する「食物繊維7g」以上が摂取できます。
※1食あたり600kcal~700kcal
概要
広島駅弁当(株)は健康長寿社会の実現のために、フレイル予防・改善、免疫力の維持・向上に有効なメニューの開発(高齢者向けの機能性惣菜や飲料)の開発を行なっています。
他方、広島大学 未病・予防医科学共創研究所を構成する共同研究講座「未病・予防医学」では、植物乳酸菌の醗酵技術を活用した生活習慣病予防・改善ならびに肺炎予防に有効なプロバイオティクス研究を推進していることから、フレイル予防改善に資する配食メニューの開発に向けて共同研究することになりました。
惣菜等の成果物に関しては、広島大学病院 栄養管理部の長尾晶子管理栄養士がアドバイザーとなり、在宅者(主に高齢者)向け配食、高齢者施設食、ドラッグストア、企業向け配食に役立てる予定です。具体的には、まず、植物乳酸菌の醗酵技術を利用して、血圧降下作用や精神安定に有効なアミノ酸であるGABA含する有惣菜の開発、肺炎の起因菌ジンジバリス菌に有効な食品の開発、オルニチンやシトルリンを高含有する食品の開発、免疫力の向上を目的とした機能性食品の開発を引き続き目指しています。
背景
2040年頃には、いわゆる団塊ジュニア世代が高齢者となり、高齢者人口がピークを迎える一方、現役世代が急激に減少します。このような中で社会の活力を維持、向上しつつ、「全世代型社会保障」を実現していくためには、高齢者をはじめとする意欲のある方々が社会で役割を持って活躍できるよう、多様な就労・社会参加ができる環境整備を進めることが必要であり、その前提として、特に、予防・健康づくりを強化して、健康寿命の延伸を図ることが求められています。
加齢による心身の脆弱が起きることをフレイルと呼びます。ヒトは加齢によって運動の予備能力も低下し、さまざまなストレスに対して心身の脆弱に繋がります。フレイルそのもので今すぐ何か問題が起きるわけではありませんが、体重の減少や気力の低下、活動度の減少などが複合的に起きるため、やがて心身の活力が低下してしまうのです。サルコペニア(筋肉の喪失)ということばも耳にすることが多くなってきました。
人間は筋肉があるからこそ、体を動かし活動することができる。これを喪失すると転倒や骨折のリスクが高まり、ひいては寝たきり状態になってしまいかねません。従って、フレイルとサルコペニアは互いにリンクし合い、片方のリスクが高まると、もう片方のリスクが顕在化するので、同時に予防していく必要があります。ヒトが元気を失い介護を受けることにより経済損失は6,000億円と言われています。フレイルやサルコペニアになり、介護状態になってしまうと生活が不自由になるだけでなく、家族にも負担がかかることになります。
そこで、フレイルにならないようにすることがきわめて重要で、サルコペニアを回避する生活習慣を心掛ければ、自ずとフレイルを回避することにもつながります。この両者を予防するには「食べること」と「動くこと」です。筋肉量を維持するためには良質なタンパク質を摂取することが重要で、転倒や骨折の予防には牛乳魚などのカルシウムも摂ることが大切です。さらに、発酵食品の摂取も有益です。
今後の展望
現在、広島駅弁当グループが行っている事業、在宅者(主に高齢者)向け配食、企業向け配食、高齢者福祉施設・病院での食提供・運営、量販店・ドラッグストアへの卸売りにおいて、本共同研究により立ち上げた、「明日の食卓」ブランドに集約していく計画です。
4月より販売開始される、在宅者(主に高齢者)向け配食、企業向け配食においては、機能性表示食品の届出を現在行っています。また、高齢者福祉施設・病院、量販店・ドラッグストア向けの商品の開発に向けて共同研究し、それぞれのカテゴリーにおいて機能性表示食品の開発を目指します。さらに、生活習慣病の予防・改善、介護予防・改善(フレイル予防・改善)に資する商品の開発に向けた共同研究を行い、「明日の食卓」ブランドの確立の先にある、健康長寿社会の実現を目指します。