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【研究成果】AI技術により普段の地盤の揺れから地震時の揺れやすさを自動的に推定する技術を開発

本研究成果のポイント

  • 地盤における普段の揺れ (微動*1)の計測データから、地震時の揺れやすさ (地盤増幅特性*2)を高精度に推定する人工知能 (AI)技術を世界で初めて開発しました。
  • AI技術のひとつである深層ニューラルネットワーク (*3)を活用して、多数の地点の地震データおよび微動データを学習させることで、単点での微動データから自動的に地盤増幅特性を推定する手法を提案しました。
  • 微動はいつでもどこでも計測可能なことから、詳細な地盤調査や長期間の地震観測を実施することなく、簡便に地盤増幅特性を推定することが可能となり、将来の強震動予測の高精度化に資するものと期待されます。

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科のPan Da大学院生、三浦弘之准教授、九州大学大学院人間環境学研究院の神野達夫教授、重藤迪子助教および中国電力株式会社の阿比留哲生らによる研究グループは、人工知能 (AI)技術のひとつである深層ニューラルネットワークを用いて、地盤の微動データから地震時の地盤増幅特性を自動的かつ高精度に推定する技術を開発しました。
本技術により、ボーリング調査や長期間の地震観測を実施することなく、普段の揺れを単点で計測するだけで簡便に地盤増幅特性を得ることができるため、将来の地震に対して精度の高い強震動予測が可能になるものと期待されます。
本研究成果をまとめた論文が、米国地震学会の学術雑誌「Bulletin of the Seismological Society of America (BSSA)」に採択され、4月5日に米国地震学会のライブラリにオンライン掲載されました。

発表内容

【背景】

将来の大地震への防災対策を考えるには、想定される地震に対して、どの程度の揺れや被害が予測されるのかを、あらかじめ推定しておくことが必要となります。大地震時の揺れを予測する技術は強震動予測と呼ばれ、これを行うには、想定される地震の震源の特徴や地震波の伝播経路の影響、地盤による地震波の増幅の影響を考慮する必要があります (図1)。特に地盤増幅特性は、局所的な変化が大きいこと、地震による揺れ方 (周波数特性あるいは周期特性)に大きな影響を及ぼすことから、建物や社会基盤施設への影響を考えるためには非常に重要な情報となっています。
一方で、地盤増幅特性を把握するには、ボーリング調査や長期間の地震観測データが必要でした。しかし、これらの調査や観測には、多大な労力や時間を要することから、任意の地点で地盤増幅特性を把握することは困難でした。このため、簡便な方法で地盤増幅特性を推定する技術が検討されてきました。
地盤は普段から非常に小さい振幅 (髪の毛1本の太さ程度)で揺れており、その揺れは微動と呼ばれています (図2)。微動はいつでもどこでも計測可能であることから、地盤の特徴を把握するために用いられてきました。微動データから地盤増幅特性を得るには、複数の地点の微動を同時に計測し、それらを解析して地盤の構造を推定した上で、理論的に計算する必要がありました。しかし、この手法には、複数の地点での同時観測が必要となる上、精度良く地盤の構造を推定することも容易でないこと、等の問題がありました。このため、単点での微動データから直接的に地盤増幅特性を推定する技術が望まれていました。
計測した微動データから得られる水平動と上下動のスペクトル振幅比 (MHVR) (*4)は、過去の研究から地盤増幅特性と近い形状となることは知られていましたが、微動は複雑な波動場で生じていることもあり、その関係を理論的に説明することは難しく、精度良く地盤増幅特性を推定することは困難でした。

図1 地震による地震波の伝播と地盤による増幅

【研究成果の内容】

本研究では、中国地方の多数の地震観測点において得られた地震データおよび微動データを深層ニューラルネットワークによって学習させることで、MHVRから直接地盤増幅特性を推定する技術を開発しました (図3)。ニューラルネットワークによる学習では、地盤増幅特性の複雑な形状 (凹凸など)を再現できるような手法を検討した上で、学習に用いるデータを様々に変化させて学習を繰り返すことにより、汎用的なモデルとなるように工夫しました。
深層ニューラルネットワークを利用することで、従来の統計手法では再現が困難だった複雑な関係式を組み立てることが可能となり、MHVRから精度良く地盤増幅特性を推定できることがわかりました (図4)。さらに、本手法により、従来の統計的手法よりも高精度に地盤増幅特性を推定できること、中国地方以外の地点においても適用可能であること、を明らかにしました。
本技術により、大がかりな調査や観測をすることなく、普段の揺れを単点で計測するだけで地震時の揺れやすさを自動的に把握できることから、地盤増幅特性の評価が格段に省力化されます。このため、多数の地点の地盤増幅特性を簡便・迅速に把握可能であり、より高精度な強震動予測に役立つものと期待されます。

図2 計測された微動の例 (髪の毛の太さ=約80μm(マイクロメートル))

図3 本研究による解析の流れ

図4 MHVRから地盤増幅特性を推定する深層ニューラルネットワークの模式図

【今後の展開】

本研究で対象とした地盤増幅特性は、中小レベルの振幅時の揺れやすさを表したものであり、非常に大きな振幅時の地盤増幅特性は、本研究で対象とした地盤増幅特性と比べて、地盤の非線形の影響を受けてピークの周波数や増幅率が変化することが知られています。今後は、この非線形の影響も考慮できる地盤増幅特性の評価手法の構築を目指します。

用語解説

*1 微動:地盤は風や波浪などの自然活動、交通振動や工場などの人間活動の影響を受け、地震がなくても普段から非常に小さい振幅(髪の毛1本分程度)で揺れており、この揺れは微動と呼ばれています。微動は機材さえあればいつでもどこでも計測可能であることから、地盤の特徴を簡便に把握するために用いられています。
*2 地盤増幅特性:周波数と増幅率の関係を表します。増幅率は、地震波 (ここではS波)の振幅が地震基盤と呼ばれる硬質な基盤から地表面まで伝播する間に増幅される度合いを表します。地盤増幅特性は揺れやすさとも呼ばれ、局所的に大きく変化する場合もあることから、きめ細かな強震動予測を実施するには不可欠な情報となっています。
*3 深層ニューラルネットワーク:AI技術のひとつであり、深層学習とも呼ばれます。人間の神経細胞を模した多数の処理層を通して、あらかじめ与えたデータに対して順伝播と逆伝播を何度も繰り返し学習させることで、正解となるデータを精度良く再現するモデルを表します (図4)。近年では、代表的なAI技術として、画像認識や音声認識などの分野で幅広く利用されています。
*4 MHVR:Microtremor Horizontal to Vertical Spectral Ratio (微動の水平動/上下動スペクトル振幅比)の略。計測された微動データに対してフーリエ変換に基づくスペクトル解析を行うことで算出され、周波数と振幅比の関係として表されます。最も大きな振幅比を示す周波数は、地盤が最も揺れやすい周波数を表しています。

論文情報

  • 掲載誌: Bulletin of the Seismological Society of America
  • 論文タイトル: Deep Neural Network-based Estimation of Site Amplification Factor from Microtremor
  • 著者名: Pan Da1、 三浦 弘之1、 神野 達夫2、 重藤迪子2、 阿比留哲生3
    1: 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 建築学プログラム
    2: 九州大学 大学院人間環境学研究院 都市・建築学部門
    3: 中国電力株式会社 管財部門
  • DOI: https://doi.org/10.1785/0120210300
【お問い合わせ先】

<研究に関すること>

広島大学 大学院先進理工系科学研究科
准教授 三浦 弘之
Tel: 082-424-7798
E-mail: hmiura*hiroshima-u.ac.jp

九州大学 大学院人間環境学研究院
教授 神野 達夫
Tel: 092-802-5228
E-mail: kanno*arch.kyushu-u.ac.jp

中国電力株式会社 管財部門 (安全審査建築)
マネージャー 秋山 将光
Tel: 050-8202-3577
E-mail: 264707*pnet.energia.co.jp

<報道に関すること>
広島大学 広報室
Tel: 082-424-3749
E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp

九州大学 広報室
Tel: 092-802-2130
E-mail: r-press*jimu.kyushu-u.ac.jp

中国電力株式会社 地域共創本部 (報道)
副長 北野 広樹
Tel: 050-8202-3435
E-mail: 182429*pnet.energia.co.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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