• ホームHome
  • 【研究成果】加速度センサーにより計測した揺れから実建物の振動特性を表すモデルを高精度に推定する方法を提案

【研究成果】加速度センサーにより計測した揺れから実建物の振動特性を表すモデルを高精度に推定する方法を提案

本研究成果のポイント

     

   ・ 建物に加速度センサーを設置し、計測された揺れから、実建物の振動特性を表すモデルを高精度に推定する
   方法を提案しました。
 ・ 既往研究の多くは、建物が弾性範囲に収まる比較的小さな地震が主な対象でしたが、
     本研究では、大地震により建物が大きく損傷するレベルのモデルを作成することを初めて可能としました。
       これにより、地震被災後における建物の損傷検知や、今後起こり得る地震に対する応答予測などへの展開が
       期待されます。

概要

 元本学学生の上坂卓也氏(現:関西電力株式会社)、広島大学大学院先進理工系科学研究科の鍋島国彦助教と
中村尚弘教授、株式会社竹中工務店技術研究所の鈴木琢也主席研究員らによる研究グループは、逆解析法(*1)の一つであるモーダル反復誤差修正法(*2)を用い、実建物の振動特性を表す振動モデルを、観測された加速度記録から高精度に推定する方法を提案しました。
本方法により、観測された加速度記録から、大地震時までを視野に入れた建物振動モデルを得ることができるため、地震被災後における建物の損傷予測や、今後起こり得る地震に対する応答予測などへの展開が期待されます。
本研究成果をまとめた論文が、国際地震工学会の学術雑誌「EarthquakeEngineering & Structural Dynamics (EESD)」に採択され、2021 年11 月1 日に国際地震工学会のライブラリにオンライン掲載されています。

背景

 建物が大地震に襲われたとき、どのような挙動をし、どのような被害が出るかを事前に予測することは重要です。このためには、設計情報から解析するモデルを作成し、これを地震応答解析することにより推定することが一般的です。しかし、建物の設計段階と竣工後とでは、経年劣化や地震被災などにより、建物の振動特性に乖離が生じることがあります。また竣工直後でも、設計値と比してやや安全側となっている場合があります。今後いつ起きるか分からない地震に備えるためには、現実の建物の特性を把握し、構造的な健全性を評価しておくことが重要です。これを実現する一つの試みとして、建物にセンサーを設置し、計測された揺れから建物振動モデルを構築する試みがなされており、これを支える基盤技術として「逆解析」があります。これまで様々な逆解析法で建物振動モデルの推定がなされてきましたが、その多くは適用範囲に制限があったり、設計では一般的に用いられないモデルを扱っていたりと、非常に限定された条件の下で研究展開がなされてきました。特に、大地震レベルを視野に入れると、モデル推定は非常に困難になるため、研究対象として殆ど扱われてきませんでした。
 一方で近年、本研究グループの鈴木琢也主席研究員により、モデル化を問わない汎用的な逆解析法である「モーダル反復誤差修正法」が提案されました。本手法は、解析結果をターゲット(例えば、観測記録)に適合させる手法で、換言すれば、解析結果の誤差が小さくなるようにパラメータを調整していく手法です。この手法には、効率的な調整が行えるよう様々な工夫が施されており、種々の問題に適用できる可能性を秘めていました。そこで本研究グループは、この手法に着目し、大地震レベルを視野に入れた建物振動モデルの推定を試みました。

研究成果の内容

 本研究では、Eーディフェンス(*3)で実施された実大振動台実験(図1)のデータをもとに、建物に設置された加速度計の計測データから、大地震時を視野に入れた、剛性低下型のトリリニア履歴特性(図2、および*4)を有する建物振動モデルを高精度に推定する方法を提案しました。
 モーダル反復誤差修正法を利用することで、従来の方法では困難だった、大地震時の建物振動モデルを推定することが可能となり、実験で観測された加速度記録を、概ね妥当な精度で再現できることが分かりました(図3)。
 本成果により、建物モデル推定に対するモーダル反復誤差修正法の有効性が確認されました。将来的には、地震被災後における建物の損傷検知や、今後起こり得る地震に対する応答予測などへの展開が期待されます。

図1 加振実験に用いられた実大10 層RC 造試験体の概観図

図2 建物モデルの模式図

図3 解析結果の例(JMA-Kobe-50%)

今後の展開

 本研究により、大地震時を視野に入れた高精度な建物振動モデルを推定することが可能となったため、今後は地震被災後における建物の損傷評価法の構築などを目指します。

用語解説

*1 順解析と逆解析:順解析とは、仮定した数理モデルにパラメータを設定し、物理現象を予測する一連の流れを指し、原因(数理モデルのパラメータ)から結果(物理現象)を予測することに該当します。これに対して逆解析は、結果(物理現象)から原因(数理モデルのパラメータ)を推定することを指します。
*2 モーダル反復誤差修正法:本研究グループの鈴木琢也主席研究員により考案された新しい逆解析手法です。結果に対する各パラメータの感度情報(パラメータの変化に対してどれくらい敏感に結果が変化するか)を評価し、その情報を加工して効率的にパラメータを推定していく手法です。汎用的な手法であるため、本研究を含む様々な逆解析問題に適用できる可能性を秘めています。
*3 E-ディフェンス:兵庫県にある実大規模の構造物を実際に破壊し、破壊メカニズムの解明や耐震補強効果の検証等を行う実験施設のことです。実大規模で様々な加振実験が実施されており、実験データが公開されています。
*4 履歴特性、剛性低下型トリリニア:「履歴特性」とは、荷重と変形の関係を特徴づけるものです。大地震時のように一定の変形レベルを超えると、荷重の載荷・除荷の繰返しにおいて、荷重と変形の関係が履歴(図2)を描くことから履歴特性と呼ばれています。「剛性低下型トリリニア」とは履歴特性の種類を表し(図2)、構造設計の応答解析でも良く用いられています。

論文情報

・論文題目: Physical parameters identification for full-scale ten-story
   reinforced concrete building with degrading tri-linear model by modal
   iterative error correction method
・ 著者:上坂 卓也 1、鍋島 国彦2,*、中村 尚弘2、鈴木 琢也3
   1: 元広島大学大学院生(現:関西電力(株))
   2: 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 建築学プログラム
   3: (株)竹中工務店 技術研究所
   *: 責任著者
・掲載雑誌:Earthquake Engineering & Structural Dynamics
・ DOI: 10.1002/eqe.3560

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>

広島大学 大学院先進理工系科学研究科
助教 鍋島国彦
Tel: 082-424-7793
E-mail:kunihiko-nabeshima@hiroshima-u.ac.jp

広島大学 大学院先進理工系科学研究科
教授 中村尚弘
Tel: 082-424-7794
E-mail: naohiro3@hiroshima-u.ac.jp

【取材・報道に関すること】

広島大学広報室
TEL: 082-424-4518
E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


up