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【研究成果】デジタルオブジェクトの表面触感を予測・数値化できる触感デジタルデザイン支援ツールを公開

研究成果のポイント

  • 表面テクスチャのハイトマップ画像を入力すると、それを人が触ったときの粗さ感、凹凸感、滑り感などの触感を高精度に予測できるアルゴリズムを開発しました。
  • また、CADソフトウェアで作成したオブジェクトデータを指定すると、そのハイトマップ画像を生成できるアルゴリズムを開発しました。
  • これらを組み合わせることで、CADで作成したデジタルオブジェクトデータから、物理的サンプル作成を一切はさむことなく、触感スコアを予測してユーザに表示することが可能となりました。

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の栗田雄一教授は、触感デジタルデザインを支援するツールとして、表面テクスチャのハイトマップ画像(※1)を入力すると、それを人が触ったときの粗さ感、凹凸感、滑り感などの触感を高精度に予測できるアルゴリズムを開発し、研究発表を行って優秀講演賞を受賞しました。また2022年4月、ウェブページ上で本アルゴリズムを実装したソフトウェアを一般公開しました。さらに株式会社アプリクラフトと連携して、CADソフトウェアで作成したオブジェクトデータの表面テクスチャを指定すると、そのハイトマップ画像を生成できるアルゴリズムを開発し、(株)アプリクラフト社のウェブサイトで一般公開をしました。これらを組み合わせることで、CADで作成したデジタルオブジェクトデータから、物理的サンプル作成を一切はさむことなく、触感スコアを予測してユーザに表示することが可能になりました。

背景

 工業製品をデザインする際、持ちやすさや触り心地などの要素は、製品の質感や付加価値を決める重要な物理的要素です。しかし、客観的評価指標がないために、商品開発のプロセスにおいて検討・評価が難しく、視覚・聴覚などと比較すると触感のデザインは軽視されているのが現状です。触感を定量評価するための技術はこれまでも存在しますが、試作サンプルに対して人の指もしくは疑似指が触ったときの反応を計測することが前提であり、サンプルの物理的製作が前提でした。しかし様々な要因から、人的・原材料・輸送コストが高騰しており、物理試作コストは急激に増加しています。またカーボンニュートラルやSDGsを考慮しても廃棄を伴う試行錯誤は望ましくなく、物理試作を最低限に抑えながら品質を向上するためのデジタルデザインツールへのニーズがこれまでになく高まっています(図1)。

研究成果の内容

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の栗田雄一教授は、触感デジタルデザインを支援するツールとして、ハイトマップ画像を入力すると、それを人が触ったときの触感を予測できるアルゴリズムを開発し、2022年4月、ウェブページ上で一般公開しました(図2)。製品の手触りは、表面の細かな凹凸や形状(テクスチャ)により変わります。我々は、さまざまなテクスチャパターンをウレタン樹脂で切削造形したサンプルを製作して被験者に触ってもらい、そのときに感じた粗さ感,凹凸感,滑り感などの触感をアンケートで取得して、触感データベースを構築しました。またテクスチャパターンをハイトマップで表現した上で、空間周波数の特定成分を用いた特徴量を用いた機械学習により、粗さ感で決定係数0.9以上,凹凸や滑り感で0.8以上の高い推定精度を達成しました。また、このアルゴリズムを搭載したソフトウェアをウェブサイトで公開しました。
  さらに、(株)アプリクラフトと連携して、CADソフトウェアで作成したオブジェクトの表面テクスチャを指定すると、そのハイトマップ画像を生成できるアルゴリズムを開発し、3 D CADソフトウェアRhinoceros(※2)上で動作する、このアルゴリズムを搭載したソフトウェアを(株)アプリクラフト社のウェブサイトで一般公開しました(図3)。上記の触感予測ソフトウェアと組み合わせることで、CADソフトウェアで作成したオブジェクトデータから、物理サンプル製作を一切することなく、人が触ったときに感じるであろう触感スコアの予測値を得ることができます。
 本研究成果は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) A-STEPトライアウトタイプ(JPMJTM20R8)で得られた結果を活用して得られました。また、本研究成果は、第22回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会で発表され、優秀講演賞を受賞しました。

<発表論文>
今岡恭司,山本義政,栗田雄一,離散ウェーブレット変換に基づくSubband Height Map を用いた触感推定,第22回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会, 1F1-02,2021 ( 優秀講演賞 受賞 )

今後の展開

 手触りをよくすることは、製品の操作性や安全性を高めるだけでなく、製品への評価や愛着を高めることにつながります。またカーボンニュートラルやSDGsに配慮した、廃棄を伴う試行錯誤を最低限に抑える触感デジタルデザインを支援する技術により、良い触感が正しく評価され、ユーザにとって安全で使いやすい製品を手に入れやすくなることが期待できます。

参考情報

図1 物理サンプル製作を最小限できる、触感を考慮した開発フロー

図2.ハイトマップ画像から触感を予測できるソフトウェア

(ウェブサイト:www.bsys.hiroshima-u.ac.jp/kurita/work_j_digitalhapt2022.html

図3.オブジェクト表面のハイトマップを生成できるソフトウェア

(ウェブサイト:www.applicraft.com

用語解説

(※1)ハイトマップ画像
  本来は三次元の情報である高さを含んだテクスチャの形状を、高さを画素値で表現した二次元データとして表現することで、二次元グレースケール画像で表現したもの。

(※2)Rhinoceros
 フリーフォームNURBS(Non-Uniform Rational B-Spline:非一様有理Bスプライン)モデリングに特化した商用の製造業向け3次元CADソフトウェア(3Dサーフェスモデラー)です。開発はRobert McNeel & Associatesで、日本での販売はアプリクラフト社により行われています。

【お問い合わせ先】

大学院先進理工系科学研究科 教授 栗田 雄一
Tel:082-424-7678 FAX:082-424-2387
E-mail:ykurita*hiroshima-u.ac.jp

株式会社アプリクラフト 中島 淳雄
Tel:03-6825-8431 FAX:03-6825-8432
E-mail:info*applicraft.com
(*は@に置き換えてください。)


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