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【研究成果】白い鉄錆で安全にUVカット ~酸化チタンを代替する日焼け止めクリーム素材として期待~

概要

1.国立研究開発法人物質・材料研究機構、北海道大学、および広島大学からなる研究チームは、紫外線(UV)を吸収する無色の二核鉄イオン(図の紫色の球、不安定)を多孔質シリカ(二酸化ケイ素)で安定化させた酸化鉄系材料を開発しました。本研究成果は、今後性能を高めることで、安全性に懸念が残る酸化チタン(化粧品や日焼け止めクリームのUV防止材)の代替品として期待できます。

2.酸化チタンは白色顔料やUV防止材(主に反射させ無害化する散乱材)、光触媒などとして、化粧品や日用品、食品、医薬品、建材等の分野で幅広く利用されていますが、2020年にEUによって発がん分類区分2に指定されたのを皮切りに、フランスでは食品利用が禁止されるなど、その利用と製造が制限されつつあります。国内では使用は制限されていませんが、現在の酸化チタンへの依存度とその市場規模を鑑みると、酸化チタン代替材料の開発は重要な社会課題と言えます。

3.水(やOH基)を配位した二核鉄イオンは、赤色顔料等として食品にも利用されている酸化鉄とは異なり、UVを吸収することで酸化チタン以上の光触媒作用を示しますが、合成も難しく、また不安定であることが知られています。二核鉄イオンは酵素やタンパク質中には遍在するため、その安定化には古くから興味が持たれていましたが、生成物の安全性や安定性には課題が残っていました。今回、研究チームは、同イオンをその多核化・酸化鉄への結晶化が制限される微細構造の多孔質シリカ粉末(白色)内部に埋め込むことで、安定化させることに成功しました。こうして得られた白色のUV吸収材は、有害な光触媒作用が低減され、この粉末を用いた日焼け止めクリームは、現行の酸化チタンに匹敵する性能と安定性を示しました。

4.今回、酸化チタンよりも安全な物質で白色のUV防止材(吸収し無害化する吸収材)を合成できる指針が得られ、今後、化粧品や日焼け止めクリームへの応用が期待できます。また、安定化に用いる多孔質シリカの微細構造によっては、鉄二核イオンの高い光触媒作用を維持させることも可能なため、空気清浄機等の光触媒への応用を目指していきます。

5.本研究は、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の井出裕介主幹研究員と、北海道大学 触媒科学研究所の峯真也博士研究員、鳥屋尾隆助教、清水研一教授、広島大学 大学院先進理工系科学研究科の津野地直助教らからなる研究チームにより、日本学術振興会 科学研究費助成事業(21H02034)の支援を受けて実施されています。

6.本研究成果は、学術誌Materials Today Nanoオンライン版にて2022年5月26日に公開されました。

研究の背景

 酸化チタン、特にナノメーターサイズの粒子は、白色顔料やUV防止材(吸収材というより散乱材)、光触媒などとして、化粧品や日用品、食品、医薬品、建材等の分野で幅広く利用されているものの、2020年にEUによって(ナノサイズによる細胞毒性等に起因する)発がん分類区分2に指定されたのを皮切りに、フランスでは食品利用が禁止されるなど、その利用・製造が制限されつつあります。国内では使用は禁止されておらず、また、人間に対しての発癌性の立証には今後更なる調査が必要との研究論文が散見されます。しかし現在の酸化チタンへの依存度とその市場規模を鑑みると、安心・安全な酸化チタン代替材料の開発は重要な社会課題と言えます。
 酸化チタン代替材料の最有力候補は、地球上で最も安価、かつ、最も生体親和性に優れる酸化物半導体、酸化鉄/水酸化鉄です。しかし酸化鉄はエネルギーギャップ(バンドギャップ)が狭いため主に可視光を吸収する(赤色等の顔料として汎用)ので、白色顔料やUV吸収材には利用できません。対照的に二核鉄イオンは酸化鉄に比べてエネルギーギャップが拡いためUVを吸収し(無色)、酸化チタン以上の光触媒活性を示します。しかし二核の鉄イオンは極めて不安定(単核の鉄イオンのみがpH < 0の強酸性溶液中では安定で、pHが少しでも上昇すれば加水分解・縮合が進行し、即座に着色したクラスターやナノ結晶が生成)であり、二核鉄イオンの状態で縮合を止めるには安定性や安全性の面で課題が残っていました。
 

研究内容と成果

 今回、物質・材料研究機構(NIMS)、北海道大学、広島大学らの研究チームは、市販の多孔質シリカと単核鉄イオン([Fe(H2O)6]3+)溶液とを混合することで、UVを吸収しつつ有害な光触媒作用が低減された白色粉体を得る事に成功しました。また同粉末を天然オイルと混ぜペーストを作成し日焼け止めクリームとしての性能も評価したところ、現行の酸化チタンに匹敵する性能と安定性を示すことも分かりました。こういった機能が多孔質シリカの細孔に固定された二核鉄イオン(図)に起因することが、北海道大学の研究チームによる構造解析により明らかとなりました。
 二核鉄イオンは、酵素やタンパク質など天然には遍在するものの(図)、人工的に合成できた例は限られていました(Osadchii et al., ACS Catal. 2018, 8, 5542等)。しかもそういった従来研究では、生成物の安全性や安定性に懸念があり、また生成物が着色するといった課題がありました。安全性や安定性の懸念がなく(少なく)、二核鉄イオンがフィットし(周りに反応物がアクセスできないので)光触媒作用を低減できる微細構造を有する多孔質シリカを見つけられたことが、今回の発見の鍵と言えます。
 本材料の安全性に関しては今後詳細な検討が必要ですが、用いた多孔質シリカが体内の組織を通過し難い数マイクロメーターの粒子のため、現行の酸化チタンナノ粒子で懸念される細胞毒性は示さないと期待できます。
 

今後の展開

 今回は、多孔質シリカの一種で二核鉄イオンを安定化・光触媒低活性化し、白色のUV防止材(吸収材)を設計できる指針を示したと言えます。多孔質シリカの中には粘土鉱物など食品利用も可能な程安全なものもあります。さらに、微細構造の異なる多彩な材料を利用でき、微細構造によっては二核鉄イオンを高い光触媒作用を維持しつつ安定化することもできます。よって、UV吸収材のみならず、光触媒としても期待できるため、現在の酸化チタンの全用途の代替、あるいは、酸化チタンでは対応できなかった用途の開拓を目指していきます。
 

論文情報

題目:Layered Silicate Stabilises Diiron to Mimic UV-Shielding TiO2 Nanoparticle
著者:Hamza El-Hosainy, Shinya Mine, Takashi Toyao, Ken-ichi Shimizu, Nao Tsunoji, Mohaed Esmat, Esmail Doustkhah, Maged El-Kemary and Yusuke Ide
雑誌:Materials Today Nano (doi.org/10.1016/j.mtnano.2022.100227)
掲載日時:2022年5月26日

【お問い合わせ先】

<本研究に関すること>

国立研究開発法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 ナノマテリアル分野 メソスケール物質化学グループ
主幹研究員/グループリーダー代行 井出裕介(いでゆうすけ)
E-mail: IDE.Yusuke*nims.go.jp
TEL: 029-860-4826
URL: https://samurai.nims.go.jp/profiles/ide_yusuke?locale=ja

北海道大学 触媒科学研究所 触媒材料研究部門 清水研究室
博士研究員 峯真也(みねしんや)
E-mail: mine*cat.hokudai.ac.jp
助教 鳥屋尾隆(とやおたかし)
E-mail: toyao*cat.hokudai.ac.jp
TEL: 011-706-9165
教授 清水研一(しみずけんいち)
E-mail: kshimizu*cat.hokudai.ac.jp
TEL: 011-706-9164
URL: https://www.cat.hokudai.ac.jp/shimizu/index.html

広島大学大学院 先進理工系科学研究科 応用化学プログラム 環境触媒化学研究室
助教 津野地直(つのじなお)
E-mail: tnao7373*hiroshima-u.ac.jp
TEL: 082-424-7606
URL: https://catalche.hiroshima-u.ac.jp/m_tsunoji.html

<報道・広報に関すること>

国立研究開発法人物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
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国立大学法人北海道大学社会共創部広報課
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E-mail :jp-press*general.hokudai.ac.jp

国立大学法人広島大学 広報室
〒739-8511 広島県東広島市鏡山1-3-2
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E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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