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【研究成果】クオラムセンシング阻害活性を有する新規アゾキシアルケン化合物の発見ー薬剤耐性菌の出現を抑える感染症治療薬への応用に期待ー

研究成果のポイント

  • 放線菌 Streptomyces sp. TOHO-M025 株を大量培養したところ、新規アゾキシアルケン化合物の蓄積を見いだしました。
  • 本化合物の構造解析を行ったところ、maniwamycin F のアミド基がメトキシカルボニル基に置換された新規アゾキシアルケン化合物(maniwamycin G と命名)であることを明らかにしました。
  • 本化合物は、他の maniwamycin 類と同様にクオラムセンシング阻害活性を有しており、本知見をもとにして薬剤耐性化の抑制効果が期待できます。

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科(旧 大学院先端物質科学研究科)・広島大学健康長寿研究拠点の荒川賢治准教授の研究グループは、東邦大学薬学部の安齊洋次郎博士・福本敦博士の研究グループとの共同研究により、放線菌 Streptomyces sp.TOHO-M025 株が生産する新規アゾキシアルケン化合物 maniwamycin G の単離・構造決定・生合成解析・生物活性評価を行いました。

 TOHO-M025 株を大量培養したところ、分子式 C12H22N2O4 の新規化合物maniwamycin Gが得られ 、 二次元NMRによる構造解析を行ったところ、maniwamycin Fの1 級アミドがメトキシカルボニル基に置換されたことがわかりました。本化合物の立体化学を決定するとともに、炭素起源および窒素起源に関して、標識化合物の取り込み実験により立証しました。Maniwamycin G の生理活性試験と
して、検定菌クロモバクテリウム・ビオラセウムの紫色色素ビオラセイン生産を調べたところ、本化合物も他の maniwamycin 類と同様にクオラムセンシング阻害活性を呈することが明らかとなりました。クオラムセンシングを阻害することにより、毒素生産やバイオフィルム形成の抑制効果が期待できます。また、本化合物は抗菌活性を持たないため、「毒素・バイオフィルム形成が出来ない菌」が生育します。そのため、
薬剤耐性菌の顕出頻度を極力低減した感染症治療薬創製への応用が期待できます。

 本研究成果は、2022 年 6 月 11 日にアメリカ化学会の学術誌「Journal of Natural Products」に掲載され、当該号の表紙に採用されました。

背景

 微生物は、抗生物質、抗がん剤、免疫抑制剤など顕著な生理活性を有する天然有機化合物を生産してきており、我々人類の健康長寿に多大な貢献をしてくれています。
微生物の中でも「放線菌」とよばれる原核生物は、今までに見出された微生物由来の12,000 種類を超える抗生物質の約7割を生産していると言われており、さらに2015 年ノーベル生理学医学賞を受賞された北里大学・大村 智先生が開発された抗寄生虫薬エバーメクチンも放線菌由来の化合物です。我々は放線菌 Streptomyces sp. TOHO-M025 株から新規化合物 maniwamycin G を取得しました。

研究成果の内容

 放線菌 Streptomyces sp. TOHO-M025 株を大量培養したところ、分子式C12H22N2O4 の新規化合物 maniwamycin G が得られ、二次元 NMR による構造解析を行ったところ、maniwamycin F の 1 級アミドがメトキシカルボニル基に置換されたことがわかりました。改良 Mosher 法および円二色性スペクトルの測定により、本化合物の絶対立体配置を (2R,3S)と決定しました。また、maniwamycin G の生合成起源を明らかにするために、同位体標識化合物の取り込み実験を行ったところ、炭素起源は 4 つの酢酸 (C-1’,2’, C-3’,4’, C-5’,6’, C-4,5) および L-セリン
(C-1〜C-3) であること、窒素起源に関して、C-2 に結合した Nα 位は L-セリン、ヘキセニルアミンユニットにおける Nβ 位は L-グルタミン酸由来であること、を立証しました。
 Maniwamycin G の生理活性試験として、検定菌クロモバクテリウム・ビオラセウムの紫色色素ビオラセイン生産を調べたところ、本化合物も他の maniwamycin 類と同様にクオラムセンシング阻害活性を呈することが明らかとなりました。

今後の展開

 Maniwamycin G は抗菌活性を持たないため、クオラムセンシングによる毒素生産やバイオフィルム形成のみを阻害できます。抗生物質の頻用により無作為に菌を死滅させてしまうと、その結果薬剤耐性菌が出現してしまうのですが、このクオラムセンシング阻害機構を利用することで、「毒素生産をしない病原菌」が生育することになります。そのため、薬剤耐性菌の顕出頻度を極力低減した感染症治療薬創製への応用が期待できます。

参考資料

用語説明

  • 放線菌 抗生物質・抗がん剤など我々の健康長寿に役立つ生理活性物質を生産する微生物の総称。
  • 改良 Mosher 法 有機化合物の二級水酸基の立体化学を決定する方法。(R)-もしくは(S)-MTPA エステルに変換し、それらの化学シフトの差で立体化学を決定する。
  • 円二色性スペクトル 物質が円偏光を吸収する際に左円偏光と右円偏光に対して吸光度に差が生じる現象を円に植生といい、これを波長に応じてプロットしたものを円二色性スペクトルという。
  • クオラムセンシング 主にグラム陰性菌における抗生物質や色素、毒素、バイオフィルム生産などに関与する代謝誘導システム。この機構を阻害することで当該菌の毒素生産・バイフォフィルム生産を抑えられるので、近年は「クオラムセンシング阻害剤」を開発し、薬剤耐性菌の出現頻度を低減化する試みが盛んに行われています。

論文情報

  •  掲載雑誌:Journal of Natural Products
  •  DOI:10.1021/acs.jnatprod.2c00131
  •  論文題目:Isolation, Biosynthetic Investigation, and Biological Evaluation of Maniwamycin G, an Azoxyalkene Compound from Streptomyces sp. TOHO-M025
  •  著者:著者名:達川綾香 1, 田中悠 2,3, 長野遥 2,3, 福本敦 4, 安齊洋次郎 4, 荒川賢治 1,2,3*

     1:広島大学大学院先端物質科学研究科(現 大学院統合生命科学研究科)
     2 : 広島大学大学院統合生命科学研究科
     3 : 広島大学健康長寿研究拠点
     4 : 東邦大学薬学部
     *:責任著者

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
大学院統合生命科学研究科 准教授 荒川賢治
Tel:082-424-7767
E-mail:karakawa*hiroshima-u.ac.jp

<報道に関すること>
広島大学 広報室
Tel:082-424-4383
Email:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

(注:*は@に置き換えてください。)


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