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【研究成果】豪雨洪水による橋梁崩壊事象の調査分析から中小橋梁の課題と対策 ~西日本豪雨による三篠川水系の橋梁の崩壊事象の調査分析から~

本研究成果のポイント

 2018年7月の西日本豪雨による三篠川水系の橋梁の崩壊事象の調査分析から、河川の重要な施設設計の基となる洪水時流量や推定流体力を石積み式橋脚の平衡安定問題から、以下のことを明らかにしました。

1) 橋を崩壊に至らしめた推定流体力と推定流量を算定し、鈑桁橋梁(プレートガーダー橋)の崩壊メカニズムを明らかにしました。

2) 洪水事象によって橋梁が崩壊するほどの、計画設計時の想定を大きく越える洪水が実際に生じたことから、例え増水し橋桁まで水位が達しても、橋桁の流体力を含めて崩壊しにくい橋梁設計ならびに、既存の中小橋梁に対する耐流水構造と耐流失対策が必要です。また、重力式橋脚であってもフーチングの改修等によってその流体力に抵抗できる設計や補強対策が望まれます。

3) 調査対象とした被災橋の調査分析によって、被災した橋桁に作用したと推定された最大洪水流体力は、橋桁の重量に対して、kh=0.397相当であったことが判明し、このことは通常の耐震設計の2倍の値になったことは、このような山間部の橋ではもはや標準的な耐震性能よりも橋の耐洪水対策が必要なことを示唆します。

4) 近年の雨量強度50mm/h から80mm/h 以上の降水が断続的に続く危険な集中豪雨が現れるようになり、既存の中小橋梁の橋桁部に越水する危険性がある場合には、超過洪水に対する橋脚と橋桁の安定性・安全性を高めておく設計が必要です。

5) 洪水による各地の中小河川に架かる橋梁の流失を防ぐために、橋梁設計において、流水荷重を想定するとともに、耐流水性と抗力係数を低減し、流出しにくい橋桁断面と流水に対して転倒しにくい橋脚によって、橋梁が崩壊に至らしめない技術や崩壊したとしても復旧が容易な対策が望まれます。
 

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の有尾一郎助教らによる研究グループは、流失したJR三篠川鉄道橋の現地被災調査と洪水時の水文・水理・構造解析に基づいて、崩壊の原因となる状況を評価しました。これらの解析は、将来の中小橋梁構造物の設計要素や対策に役立ちます。
 第1三篠川橋梁の崩壊問題に焦点を当てて、橋の構造安定性の崩壊トリガーをその崩壊メカニズムを明らかにするために、洪水時に生じた破壊力を分析しました。
橋脚と橋桁の構造安定計算により、崩壊の原因となった洪水時の橋桁への洪水流体力が明らかになりました。
 特に、流水の流体力が橋桁部分に作用する場合、構造安定性の観点から、橋梁の崩壊につながる洪水流体力を推定しました。解析によって明らかになった破壊プロセスと条件に基づいて、効果的な方法で洪水に対する中小河川の橋梁構造の耐力を高めるのに役立つ設計要素を特定しました。
 本研究成果は、2022年6月22日に、Journal of Bridge Engineering (ASCE)に掲載されました。

図1:三篠川第一橋梁の被災

図2:三篠川第一橋梁の被災

図3:FEM解析による洪水時限界状態の石積橋脚の応力分析

図4:[参考] 同水系の同じ鈑桁橋梁タイプの安駄橋の崩壊事象

背景

 2018年7月の西日本豪雨では、社会インフラやライフラインに甚大で広範囲にわたる被害をもたらしました。橋梁群の損傷状況と損傷した橋梁の原因を具体的かつ定量的に分析できる特定の事例は、構造的および複雑なエンジニアリングの問題を克服するために価値があります。このような事象は、崩壊の原因や災害事象の振舞いを正しく理解し、設計や対策に還元させ、構造モデル解析の精度も比較検証できるので、とても有用であり、将来の橋梁の設計法や施工法の改善に役立ちます。また、洪水時に橋を流出させるなどの対策を講じることもできます。
 本調査では、流失したJR三篠川鉄道橋の現地調査を実施し、被災橋の現地調査に基づく洪水時の水文・水理・構造解析に基づいて、崩壊の原因となる状況を評価しました。これらの解析は、将来の中小橋梁構造物の設計要素や対策に役立ちます。

 近年、集中豪雨などの自然災害による洪水被害が増加しており、世界中で多くの報告が発表されています。河川の氾濫による橋梁の被害も各地で報告されています。2021年7月にドイツの西ヨーロッパで、同年8月に中国で記録的な降雨が観測されました。特にドイツの一部の地域では、河川が堤防を越え、鉄砲水が橋梁インフラに重大な被害をもたらしました。予期しにくい降雨により河川の流量と流速が増加し、水位が上昇し橋が崩壊してしまうことが生じています。

 日本国内でも水害が多発しています。例えば、2018年7月に西日本豪雨が発生し、2019年9月に台風19号が房総半島地域を襲い、2020年7月に球磨川の洪水により道路や橋梁などのライフラインが切断され、交通ネットワークの被害リスクが高まっています。
 被災地の住民が通常の生活を再開するためには、交通網の迅速な復旧が重要ですが、被害を受けた構造物や緊急時の復旧には、地域性に左右され、十分な機材・人手不足や予算の削減などの多くの課題に悩まされます。
橋梁インフラの災害後の復旧は、災害の規模や被災地の状況など、いくつかの要因の影響を受けます。地方農村部では、一般に、被災現場の工事査定等を受けて申請手続きを経て、復旧計画や工事に着手し、完成まで数年かかることもあります。
 大雨の後に孤立した村をつなぐ橋が損傷したり流出したりすると、車両が他の目的地を通過して到達したり、助けを提供したりすることができなくなります。また、給水管が破損した場合、災害後の期間に深刻な不便が生じる可能性があります。
したがって、被災地ではこのような被害を受けた橋梁の迅速な復旧が強く望まれます。
 2020年7月球磨川水系のいくつかの大きな橋が洪水で流出し、危機管理、防災、および橋を越えた橋での流出を防ぐための設計や対策の必要性が再確認されています。
 本調査では、2018年7月の大雨時に橋梁に生じた実際の被害を調査し、洪水時の危険水位の流体力学により既存の鉄道橋のプレートガーダーに生じた破壊力を検討し、既存の橋設計の脆弱性が浮き彫りになってきました。
 実際の橋梁構造を分析し、2018年7月の豪雨による橋梁の損傷を調査することにより、流出した鉄道橋のプレートガーダー橋の崩壊に至らしめた、危険な洪水の水位での流体力を推定し、橋の脆弱性を判断しました。
橋梁設計における流水負荷の冗長性の必要性を分析し、当初の想定流体負荷を実際の構造物の構造解析による等価水平支持力を比較しました。
 したがって、再建には、既存の橋桁の流水抵抗性能を研究するための重要な構造工学の視点において、橋の損傷調査に基づいて将来の中小規模の河川橋の設計改善を要約します。具体的な対策についても説明します。
したがって、洪水時の流体力、流速、流量などの水理特性の推定値は、重力式橋脚の崩壊イベントを使用して導き出されます。
典型的なプレートガーダー橋の崩壊につながります。
 さらに、計画された高水量を超える中小橋梁を流出させないための対策を公表論文で提案しています。
 橋は交通のライフラインにおいて重要な構造物であり、一度崩壊して流された橋を復元することは困難です。
 したがって、実際の構造サイズ、損傷の程度、性能の低下、実際のシナリオと設計条件の違い、および流出調査できるため、損傷イベントと損傷の原因を具体的かつ定量的に分析できる事例は、工学的に価値があります。
このような場合を利用することは、橋梁崩壊の原因を分析し、洪水に強い橋梁を設計する方法を決定する上で重要な設計ファクターです。
 橋梁工学の知識と設計条件を活用し、設計ファクターを用いて既存の橋梁の耐流水評価を客観的に検討することにより、洪水時の橋梁の流出崩壊を回避するための対策を講じる必要があります。
 この研究では、洗い流しによって引き起こされた橋の崩壊を分析します。この結果により、浮力を考慮した橋桁重量に対する流体力の比に基づいて、等価耐震性を比較・検証することができます。

研究の成果の内容

●橋梁における水平荷重は、一般に地震や風が想定されています。しかし、橋に及ぼす地震(や風)の影響は、橋の形式・構造・基礎地盤の性質のみならず、そのときの地震の動力学特性により極めて複雑であり、これを正確に算定することは不可能です。橋梁の設計においては、構造物重量の水平分力の割合で示される、設計震度khが用いられます。構造物の耐震設計において、地震時標準水平震度kh0=0.2とされています。

●一方、2018年の西日本豪雨の洪水被害調査において、被災した橋桁に作用したと推定された最大洪水流体力は、橋桁の重量に対して、kh=0.397相当であったことが判明しました。このことは、通常の耐震設計の2倍の値を示し、もはや支承の抵抗が弾性限界を超えているものと考えられます。また、橋桁は水位が到達しないような(計画高水位)高さで計画されています。しかし、洪水時はその高さを超えて、橋桁部に複雑に作用する流体力が長時間続くことになり、水平反力が抵抗できなくなるとき、橋が流出することになります。

●この橋梁崩壊事象が地震時の作用力と異なる点として、地震のような振幅運動ではなく、橋桁が洪水で浸水しその流体力が橋軸直角方向の流下方向に作用しますから、その力を受け流すか、あるいは、強固に抵抗し続けなければ崩壊することを意味します。既存の橋の設計は、そのような洪水に伴う付加的な水平力に対しては想定しておらず設計していませんから流出崩壊の危険があります。今回対象とした橋梁の崩壊調査から構造体の平衡安定分析によって、洪水時流体力を等価な地震時水平震度khに換算することで、これまで他の災害で崩壊していた事象も(被害レベル相当)指標的に地震時の水平換算力の相対的な比率として、設計対比評価ができたことが研究の大きな成果です。このことは、耐震性能の向上だけでなく、今後の超過洪水に対する橋の耐洪水設計の性能向上においても必要なことであり、必要な設計ファクターを考慮すべき分析結果です。

 三篠川水系の被災した橋梁(橋脚・橋桁等) の現場の崩壊状況から、河川の重要な施設設計の基となる洪水時流量や推定流体力を石積み式橋脚の平衡安定問題から、以下のことが明らかになりました。

1) 一様流速の仮定で、2018年三篠川の洪水による橋梁の崩壊事象の調査分析から、橋脚と橋桁に対する構造の平衡安定条件から、崩壊に至らしめた推定流体力と推定流量を算定し、その推定限界値と水理特性値を明らかにしました。

2) 洪水事象によって橋梁が崩壊し、計画設計時の想定を大きく越える洪水が実際に生じたことから、例え増水し橋桁まで水位が達しても、橋桁の流体力を含めて崩壊しにくい橋梁設計ならびに、既存の中小橋梁に対する耐流水構造と耐流失対策が急がれます。また、重力式橋脚であってもフーチングの改修等によってその流体力に抵抗できる設計や補強対策が望まれます。

3) 本橋の被災検証から、計画高水流量の1.37 倍以上を算出するとともに、増水時橋桁が浸からないように、橋脚高さ(桁下空間) の確保が必要です。越流しても桁高に受ける抵抗力を小さくできる橋梁構造が望まれます。

4) 調査対象とした被災橋の調査分析によって、被災した橋桁に作用したと推定された最大洪水流体力は、橋桁の重量に対して、kh=0.397相当であったことが判明し、このことは通常の耐震設計の2倍の値になったことは、もはや標準的な耐震性能よりも橋の耐洪水性能が必要なことを示唆します。

5) 近年の雨量強度50mm/h から80mm/h 以上の降水が断続的に続く危険な集中豪雨が現れるようになり、既存の中小橋梁の橋桁部に越水する危険性がある場合には、流水に対する橋脚と橋桁の安定性・安全性を確認しておく必要があります。

6) 洪水による各地の中小河川に架かる橋梁の流失を防ぐために、橋梁設計において、流水荷重を想定するとともに、耐流水性と抗力係数を低減し、流出しにくい橋桁断面と流水に対して転倒しにくい橋脚によって、橋梁が崩壊に至らしめない技術や崩壊したとしても復旧が容易な対策が望まれます。

今後の展開

 気候変動による洪水外力や水害が深刻化する中で、今回被災調査対象とした典型的なプレートガーダー橋の流出崩壊分析から、最大洪水流体力の外力を想定した耐洪水の新しい橋梁設計ガイドラインを作成する必要があります。災害後の復旧計画を強化するなど、既存の橋に対する十分な対策も考える必要性があります。

 従来は河川側で想定する計画高水位(と計画流量)という目標として橋が設計されており、橋が地域の河道状態や実被害を考慮したものになっておらず、また超過洪水後の水工構造物の被害レベルの指標がありませんでした。流体力等の物理指標を、既存の耐震設計概念に等価に換算させることで、地域の対洪水設計を考慮した効率的な橋の設計概念(真に質の高いインフラ設計)が必要です。交通の容量や接続条件に応じた、洪水・津波に対して十分に強靱な形状・構造を考えていかなければなりません。

 これまで水害等で被災した橋梁を現地調査してきた膨大な画像データを基に、災害後の橋の被害損傷レベルを数値指標化するために独自の損傷度/健全度を最近の機械学習AI技術の認知機能を応用し、被災橋の主要な骨格構造の損傷レベルから最適な復旧技術に役立たせる最適な復旧システムを構築し、防災上迅速な対応に役立たせる研究開発を検討しています。

【参考資料】

1)    (参考)土木学会構造工学委員会 災害時の緊急架設を目的とした緊急仮設橋に関する調査研究活動
       https://committees.jsce.or.jp/struct18/node/1
2)    広島大学図書館 学術研究報告「2018年西日本豪雨による三篠川水系の橋梁流出事象の現地被害調査報告」 http://doi.org/10.15027/52397
3)    インフラの被害調査記録
   https://bridge2.hiroshima-u.ac.jp/disaster/disaster-2020.htm

論文情報

論文タイトル : Investigation of Bridge Collapse Phenomena due to Heavy Rain Floods: Structural, Hydraulic, and Hydrological Analysis 
著者 : Ichiro Ario*, Tatsuya Yamashita, Ryota Tsubaki, Shin-ichi Kawamura, Tatsuhiko Uchida, Gakuho Watanabe, and Akimasa Fujiwara
 * Corresponding author(責任著者)
掲載論文 : Journal of Bridge Engineering (ASCE)
DOI : 10.1061/(ASCE)BE.1943-5592.0001905 

【お問い合わせ先】

大学院先進理工系科学研究科 助教 有尾一郎
Tel:082-424-7792
E-mail:mario*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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