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  • 【研究成果】マウスモデルを用いHIV治療薬が小児発達障害のリスクを低減することを発見

【研究成果】マウスモデルを用いHIV治療薬が小児発達障害のリスクを低減することを発見

本研究成果のポイント

  • バルプロ酸は治療効果が高いてんかん治療薬ですが、妊娠中に内服すると児の知能指数の低下や自閉症スペクトラム障害など発達障害発症リスクが高くなることが広く知られています。
  •  ケモカインのはたらきを抑える薬であるマラビロクを授乳期に投与すると、バルプロ酸服用による発達障害のリスクを軽減することができました。

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科 石原康宏准教授、産業医科大学 辻真弓教授、徳島文理大学 伊藤康一教授、冨永貴志教授、カリフォルニア大学デービス校Christoph Vogel博士らから成る国際共同研究グループは、マウスモデルを用いた検討により、妊娠期のバルプロ酸服用によって仔に生じる発達障害について、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の治療薬であるマラビロクが奏功することを明らかにしました。バルプロ酸以外の発達障害のリスクを下げることができるか、あるいはヒトへ応用の可能性などについてはこれからの課題であり、丁寧な検証が求められます。

論文情報

  • 論文タイトル:A CCR5 antagonist, maraviroc, alleviates neural circuit dysfunction and behavioral disorders induced by prenatal valproate exposure.
  • 著 者:石原 康宏1,2,*, 本田 達也1, 石原 波1, 難波 楓1, 竹歳 麻紀子3,冨永 洋子3, 辻 真弓4, Christoph F.A. Vogel2,5, 山﨑 岳6, 伊藤 康一7, 冨永 貴志3.

      1. 広島大学 大学院統合生命科学研究科 生命医科学プログラム
      2. カリフォルニア大学デービス校 健康環境センター
      3. 徳島文理大学 神経科学研究所
    4. 産業医科大学 医学部 衛生学講座
    5. カリフォルニア大学デービス校 環境毒性学部
    6. 広島大学 大学院統合生命科学研究科 生命環境総合科学プログラム
    7. 徳島文理大学 香川薬学部 薬物治療学講座
      *.責任著者

  • 掲載雑誌:Journal of Neuroinflammation
  • DOI 番号:10.1186/s12974-022-02559-y

研究成果の内容

 妊娠中期に一度だけバルプロ酸を投与したマウスから産まれてきた仔は、成長後に空間認知機能の障害や社会性の異常など、発達障害様の行動を示しました。このような仔の海馬(学習行動などに関与する脳部位)では炎症が生じており、その神経細胞の興奮状態が異常に高まっていました。バルプロ酸を妊娠期に投与したマウスから産まれてきた仔の海馬で発現が変化する遺伝子を網羅的に調べたところ、炎症性ケモカインの一つであるCCL3の発現が上昇していることを突き止めました。CCL3の受容体であるCCR5を阻害するマラビロク(ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症治療薬)を授乳期に投与したところ、神経細胞の興奮を鎮めることができ、成長後の発達障害様の行動を示さなくなりました(図1)。本研究は、CCR5阻害薬マラビロクの、妊娠期にバルプロ酸を曝露された児の発達障害治療薬としての可能性を示唆しました。

図1. 妊娠期バルプロ酸服用の神経影響とマラビロクの作用点

【お問い合わせ先】

<本研究に関すること>
 広島大学大学院統合生命科学研究科 准教授 石原 康宏
 Tel:082-424-6529
 E-mail:ishiyasu*hiroshima-u.ac.jp

<報道に関すること>広島大学広報室 
 Tel:082-424-4383
 Email:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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