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【研究成果】緑内障で障害される網膜神経節細胞の再生に寄与する可能性のある遺伝子をマウス網膜で同定

本研究成果のポイント

  • 神経突起伸張作用やストレス抵抗性をもつGタンパク共役型受容体3(GPR3)の網膜における発現や機能はこれまで不明でした。
  • マウス網膜神経節細胞にGPR3が発現し、加齢や虚血ストレスによる神経細胞死に対し神経保護作用を有することを解明しました。
  • GPR3はマウス視神経挫滅障害後の軸索再生を促進しました。
  • 緑内障や軸索変性疾患の病態解明や治療への応用が期待されます。

概要

 緑内障は、全世界で6,000万人以上が罹患している一般的な眼疾患で、網膜神経細胞死により不可逆的な失明に至ります。高眼圧(注1)が緑内障の一因とされ、進行抑制手段として眼圧降下療法が現在広く普及しています。しかしながら、眼圧降下薬無効例や、正常眼圧でも緑内障を発症する症例(正常眼圧緑内障)もあり、新規治療法の開発が期待されています。また、緑内障では網膜神経節細胞(注2)脱落に先んじて軸索退縮変性が生じることが報告されていますが、メカニズムについては不明です。
 Gタンパク質共役型受容体3(GPR3)は神経細胞に豊富に発現し、リガンド(注3)非存在下に恒常的Gs(注4)活性化能を有するGタンパク質共役型受容体(注5)です。これまで、GPR3は神経細胞では軸索伸張・細胞生存に寄与することが報告されています。本研究では、GPR3はマウス網膜神経節細胞に比較的多くの発現を認めました。また、GPR3ノックアウトマウス(注6)では加齢や虚血ストレスに対し、網膜神経節細胞の脆弱性を認めました。さらに網膜神経節細胞へのGPR3遺伝子導入は、視神経挫滅障害後の軸索再生を増強し、軸索再生惹起因子ザイモサン(注7)による軸索再生をも増強しました。したがって、網膜神経節細胞に発現するGPR3が、加齢や虚血ストレスに対し神経保護的に作用し、神経障害後の軸索再生促進に寄与し、緑内障病態と関連する可能性が示唆されました。
 本研究成果は2022年7月7日に「Neurobiology of Disease」誌に掲載されました。

用語解説

(注1)眼圧:眼球の内側から外側にかかる圧力。ヒト眼圧正常値は10~21mmHg。
(注2)網膜神経節細胞:網膜の最内側に位置する神経細胞で、視細胞からの情報を受け取り、視床、視床下部、上丘(中脳)に情報伝達する。
(注3)リガンド:細胞の表面に存在する特定の受容体に特異的に結合する物質。
(注4)Gs:GPRに共役するGタンパク質の1種で、アデニル酸シクラーゼを活性化し、細胞内cAMPを上昇させる。
(注5)Gタンパク質共役型受容体(GPR):細胞外の神経伝達物質やホルモンを、Gタンパク質(三量体タンパク)を介して細胞内へシグナル伝達する受容体。ヒトでは800種以上のGPRの存在が示唆されている。
(注6)ノックアウトマウス:特定遺伝子が無効化された遺伝子組換えマウス。
(注7)ザイモサン:Toll様受容体2(TLR2)のリガンドで、自然免疫などの炎症反応に関与する。

論文情報

  • 掲載誌: Neurobiology of Disease
  • 論文タイトル: GPR3 expression in retinal ganglion cells contributes to neuron survival and accelerates axonal regeneration after optic nerve crush in mice
  • 著者名: 益田俊1,3, 田中茂1*, 白榊紘子1, 外丸祐介3, 原田佳奈1, 秀和泉1, 木内良明2, 酒井規雄1
    1. 広島大学 医系科学研究科 神経薬理学
    2. 広島大学 医系科学研究科 視覚病態学
    3. 広島大学 自然科学研究支援センター
    *責任著者
  • DOI: 10.1016/j.nbd.2022.105811
【お問い合わせ先】

<研究に関すること>

大学院医系科学研究科 神経薬理学

講師 田中 茂

Tel:082-257-5142

FAX:082-257-5144

E-mail:tanakamd*hiroshima-u.ac.jp



<報道に関すること>

広島大学広報室

Tel:082-424-3701

E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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