大学院先端物質科学研究科 藤島実教授は、シリコンライブラリ株式会社(本社:川崎市)と共同で超低電力ミリ波通信用モジュール」を開発し、1080/60pの非圧縮映像通信に成功しました。
この技術により、従来消費電力等の問題で据え置き型機器でしか使えなかった非圧縮無線伝送技術を、電源供給されないビデオカメラ、ディジタルカメラ或いは携帯電話などあらゆる携帯機器にも適用でき、1080/60pのようなHD画像をHDMIケーブルで接続するという煩わしい作業をせずにディジタルテレビで再生することが可能となります。
なお、今回の成果は2010年6月15日(火)~18日(金)に米国ハワイで開催される2010 Symposium on VLSI Circuitsにおいて学会発表しました。
近年、ディジタルテレビの高画質化の流れは急速に進んでいます。各社フルスペックハイビジョンなどの名称で高画質を競っていますが、その流れを後押ししているのがHDMI(High Definition Multimedia Interface)という家電向け画像、音声伝送規格です。HDMIはディジタル家電市場でデファクトスタンダードになったばかりでなく、PC、モバイル機器市場でも採用の広がりを見せています。
しかしながら、これまでの技術では消費電力が非常に高く、モバイル機器への適用はできないという問題がありました。
今回開発した技術は60GHz帯のチャネルを3チャネル使用し、HDMIプロトコルのデータをそのまま無線データ化して送受信するものです。これによりディジタル処理を不要にし、また、モジュレーションにASK(Amplitude Shift Keying)を採用する事により、PLLの代わりにFLL(Frequency Locked Loop)を周波数修正に適用し、さらに出力段の構成を工夫したことにより1チャネル当たり、送信側で51mW、受信側で116mWという超低消費電力を達成しました。これは、これまで報告された60GHz帯ミリ波トランシーバの最低消費電力の1/2以下となり、ワイヤレスHDMIの無電源化を可能にするものです。
また、90nmのCMOSプロセスを使った送受信テストチップは半田バンプのフリップチップで小型パッチアンテナ基板に実装し、非圧縮のフルHD映像(1080/60p)の伝送が可能であることを実証いたしました。
今後も高速インターフェイスのソリューションの一つとしてワイヤレス技術を継続して開発し、製品化を目指します。
なお、今回の研究開発は、広島大学がシリコンライブラリ株式会社と共同で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受けた「半導体アプリケーションプロジェクト/ワイヤレスHDMIモジュールの研究開発」で実施したものです。
開発品の主な特長
●HDMIの TMDS Linkで伝送される3チャネルのデータをそのまま60GHz帯の3つのチャネルに載せることで、通常別チップで実現されるDSPを排しました。さらに、 ASK(Amplitude Shift Keying)モジュレーションと、通常動作時に一部動作を止めるFLL(Frequency Locked Loop)、およびCMOS化されたモジュレータの組み合わせによって、大幅な低消費電力化を果たすと共にシステムの小型化に貢献しています。
●アンテナにはアレイ状の小型パッチタイプを開発し、半田バンプを用いたフリップチップ実装によるアンテナとチップのモジュール化によって、低消費電力化、小型化、さらに低コスト化を実現しつつ1m以上の通信距離を実現しています。通信距離のアプリケーションが必要とする通信距離によってアンテナの大きさ、アレイ数、およびドライバの最適化を行い、さらなる小型化、低消費電力化が可能です。
![]() 送受信モジュールのブロックダイアグラム |
![]() モジュール断面図 |
■シリコンライブラリ株式会社について
シリコンライブラリ株式会社は2005年創業の高速インターフェイスに特化したIP(Intellectual Properties)ライセンスの販売及びLSIのファブレス企業です。本社を川崎市に置き、京都市、宮崎市、及び米国サンノゼ市にも開発拠点を持ち、特にHDMIにおいては、日本国内だけでなく、米国、中国、台湾など数多くの企業にIPのライセンス及びLSIの販売を行っております。
シリコンライブラリ株式会社の詳細につきましては、以下のURLをご参照下さい。
http://www.siliconlib.com/
【本件に関するお問い合わせ先】
藤島 実
広島大学大学院先端物質科学研究科
TEL:082-424-6269
E-Mail:fuji(AT)hiroshima-u.ac.jp ※(AT)は@に置き換えてください。