<研究に関すること>
大学院統合生命科学研究科 特任教授 坊農秀雅
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<報道に関すること>
広島大学広報室
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(注: *は半角@に置き換えてください)
広島大学大学院統合生命科学研究科の小野擁子大学院生(当時)と坊農秀雅特任教授は、公共データベースや精密な転写物参照配列セットであるFANTOM-CATを活用した解析によって生体内の低酸素応答性を探索的に評価する手法を構築しました。
低酸素刺激によって発現変動する遺伝子は、低酸素誘導因子1(HIF-1)に代表される低酸素応答システムの発見など、活発に研究されています。本研究グループでは、公共の遺伝子発現データベースを用いて低酸素応答性遺伝子の研究を進めており、その研究の中で非コードRNAの代謝に関連のある遺伝子群の発現が低下していることに気がつきました。そこで、低酸素状況下で非コードRNAの代謝に影響する遺伝子にはどのような特徴を持つ遺伝子が多いのか、また低酸素状況下で非コードRNAを含む多く転写産物がどのように遺伝子発現しているのかを詳細に調べることにしました。
低酸素条件下で発現が抑制された“非コードRNAの代謝に関係する遺伝子群”はリボソームRNAに関連する遺伝子群が多いことを明らかにしました。転写産物の網羅的な低酸素応答性評価の結果、低酸素応答によりミトコンドリアDNA由来の転写産物の発現が抑制されていることがわかりました。加えて、アンチセンス鎖に着目した解析では、大半の転写産物は低酸素応答遺伝子群と同様の発現制御パターンを示す一方で、センス-アンチセンスで異なる発現制御パターンを示す遺伝子群があることを明らかにしました。
この研究で用いられた解析手法は、低酸素応答の分野のみならず他の研究分野にも展開可能な手法と考えています。
本研究成果はLife Science Allianceに掲載されました。
【背景】
酸素は生命機能の維持に必須であり、細胞には酸素欠乏(低酸素)に対応するための厳密な分子機構が備わっています。1990年代の低酸素誘導因子1 (HIF-1)の発見により低酸素に対する生体反応の研究は躍進し、生命の酸素利用機構の解明に貢献したとして、2019年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
本研究グループは、公共データベースから遺伝子発現データを網羅的に集積し、データ駆動的に低酸素応答性遺伝子を見出す手法を発表してきました(https://doi.org/10.3390/biomedicines8010010, https://doi.org/10.3390/biomedicines9050582 )。この研究を進める中で、低酸素条件下では、非コードRNAの代謝に関わる遺伝子群の発現が抑制される傾向にあることに気がつきました。しかしながら、低酸素条件下での非コードRNAの代謝についてはまだ不明なことが多いため、非コードRNAも含めて網羅的に低酸素応答性を評価することにいたしました。
非コードRNAを含む転写産物の網羅的な参照配列セットは、理研のFANTOMプロジェクトにより構築されたFANTOM-CATを用いました。このFANTOM-CATにはコーディング遺伝子のみならず、非コードRNAの情報が豊富に含まれています。この参照配列セットを活用することにより、今まで知られていなかった転写産物の低酸素応答性も評価することが可能になります。
【研究成果の内容】
本研究では、ヒトの低酸素RNA-seqデータを使用し、使用する参照配列別に大きく二つの解析を行いました(図1)。
まず、コーディング遺伝子のみの参照配列に着目した解析では、低酸素による発現低下遺伝子がリボソーマルRNAに関わる遺伝子の関係性が示されました。
非コードRNAも含めた転写産物に着目した解析では、FANTOM-CATを参照配列に使用しました。低酸素刺激下では、ミトコンドリアDNA由来の転写物の発現が低下していました。アンチセンス鎖に着目した解析では遺伝子発現制御(PGK1とTAF9B)の関係性が示唆されました。
本研究では最終的な結果だけでなく、すべてのデータと解析に用いたプログラムを公開しています。これらは低酸素研究のみならず、これからの生命科学研究の重要なリソースとして活用されることが期待されます。
【今後の展開】
開発した解析手法は、有用物質生産生物のゲノム編集に向けて、その遺伝子発現データを大規模に解析するための強力なツールとなることが期待されます。
図1 本研究の全体図
※参照配列:ここでは転写産物の参照配列のことを指す。各転写産物の発現量を定量するために参照する配列のこと。
※非コードRNA:タンパク質をコードしないRNAのこと。
※パスウェイ:遺伝子やタンパク質の相互作用を経路図として表したもの。代謝経路やシグナル伝達系、タンパク間相互作用、遺伝子の制御関係などのこと。
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掲載日 : 2022年10月13日
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