• ホームHome
  • 【研究成果】多様な条件でDNAに誘発される変異をハイスループットに解析できる技術を開発

【研究成果】多様な条件でDNAに誘発される変異をハイスループットに解析できる技術を開発

研究成果のポイント

  • 染色体DNAに生じる変異は、がんを含むさまざまな疾病の要因となっている。
  • さまざまな化学物質や放射線は、DNAに対する変異原として、それぞれに特徴的な変異原性を持っている。
  • 本研究では、さまざまな変異原がヒト細胞内で誘発する変異について、その頻度と変異配列を、高感度かつ簡便に解析することを可能とする技術を開発した。
  • 本技術は、多様な変異原の変異原性、および、変異誘発の分子メカニズムの解析などに応用することが可能であり、変異抑制法の開発などにもつながることが期待される。

概要

 大学院医系科学研究科(薬)の河合秀彦 准教授、紙谷浩之 教授のグループ[岩田廉 薬学部生、海老駿吾 薬学部生(当時)、杉原竜誠 薬学部生(当時)、増田翔吾 大学院生(薬) 、藤原千穂 薬学部生、自然科学研究支援開発センター 木村真吾 技術職員(当時)]は、古くからDNAの変異解析に用いられてきたsupF遺伝子を含むシャトルベクターと、修復機構を欠損した大腸菌株および次世代シーケンシング(NGS)技術とを組み合わせることによって、ヒト細胞内で生じる変異を、高感度かつ簡便に、多検体を同時解析することができる技術を開発しました。この技術は、さまざまな変異原やヒト細胞に用いることが可能であることから、汎用性が高く、将来的にさまざまな変異原の変異誘発の分子機構の解析や発がん研究などにも応用されることが期待されます。

論文情報

  • 論文題目:Development of a versatile high-throughput mutagenesis assay with multiplexed short read NGS using DNA-barcoded supF shuttle vector library amplified in E. coli
  • 著者名:Hidehiko Kawai*,1, Ren Iwata1, Shungo Ebi1, Ryusei Sugihara1, Shogo Masuda1, Chiho Fujiwara1, Shingo Kimura2, and Hiroyuki Kamiya*,1
    *:責任著者
    1:広島大学大学院医系科学研究科 
    2:広島大学自然科学研究支援開発センター
  • 掲載誌:eLife
  • DOI:  10.7554/eLife.83780.

発表内容

【研究の背景】
 ゲノムDNAに生じる変異は、がんを含むさまざまな疾病の要因となります。変異の解析を目的とした実験手法はこれまでに数多く開発され、新規化合物を含むさまざまな化学物質や放射線などの変異原性やその変異誘発機構の研究などに用いられてきました。Amber suppressor tRNAをコードしているsupF遺伝子を持つシャトルベクター用いた変異解析法は、細菌あるいは哺乳類細胞において誘発される変異の誘発頻度やスペクトル解析に有用であり、古くから高感度な変異解析手法の一つとして用いられてきました。この手法では、シャトルベクターに、試験管内で特定の位置に特定のDNA損傷を導入することも可能であることから、DNA修復機構や変異誘発の特定のメカニズムの解析にも用いることもできます。この方法は、非常に汎用性が高い変異解析法であるものの、得られる変異スペクトルには、検出バイアスがあることが知られており、また正確な変異解析の結果を得るためには、熟練した技術と時間を要し、多検体の解析や低頻度の変異解析に用いることはできませんでした。そこで本研究では、このsupF遺伝子を用いた変異解析に次世代シーケシング(NGS)技術を応用することで、より効率的に変異スペクトルを同定する方法の開発を目的として実験を行いました。

研究成果の内容

 supF遺伝子を用いた変異解析法は、さまざまな変異原によって誘発される変異の頻度やスペクトルの解析に広く用いられてきました。本研究では、この変異解析方法にNGS技術を組み合わせることで、汎用性が高く、低コストで多検体を変異検出することが可能となる方法を開発しました。
 まず、ヒト細胞と大腸菌で複製されるsupF遺伝子を含むシャトルベクターに12塩基のランダム配列を分子バーコードとして挿入することで、各supF遺伝子をバーコードライブラリー化し、NGS解析のシーケンシングエラーの除去、および、各supF遺伝子の変異イベントの区別にバーコード配列を用いることとしました。このバーコードライブラリーの作製法を確立後、変異検出用の実験とNGS解析のパイプラインを構築しました(図1)。
 シャルベクターごとに分子バーコードを挿入することで、(i)~(iv)までのさまざまな処理条件のサンプルについて、複数を混ぜた状態でNGS解析がすることが可能です。そのため、低コストでさまざまな変異解析をハイスループットに行うことが可能となっています。
 本研究では、皮膚がんなどで特徴的な変異配列(変異シグネチャー)を有することで知られる紫外線を用いて、新しい解析技術による変異検出の感度と精度の検証を行いました。実験の結果、想定以上に高精度かつ簡便に変異検出が可能であることが明らかとなり、紫外線照射による新しい変異シグネチャーの存在を示唆する結果を得ることもできました。
 本技術を用いることで、従来の手法では得ることができなかった解析バイアスのない変異スペクトルのデータを効率良く検出できることが明らかとなりました。

図1.supF遺伝子シャトルベクター(SV)と次世代シーケンサーを用いた新しい変異解析法の概略

今後の展開

 本研究で開発した技術は、さまざまな変異解析の研究に応用することが可能である。新しい化学物質の変異原性試験、DNA損傷修復の分子機構解析、発がんメカニズムの解明などの研究にも貢献することが期待される。

用語解説

※変異:DNA塩基の置換、欠失、挿入などによる、遺伝子の塩基配列の恒久的な変化のこと。変異は、自然に生成されるほか、環境中のさまざまな変異原によっても誘発される。DNA損傷の修復機構やDNAの複製機構が関与する。
※次世代シーケンシング(NGS):高速に大量の核酸の塩基配列を決定することができる装置(次世代シーケンサー)を用いて、塩基配列決定を行うこと。
※Amber suppressor tRNA:終止コドンの一つであるUAG(amber)コドンをアミノ酸のコドンとして読み取るtRNA。このtRNAを発現している大腸菌ではUAGの位置でmRNAの翻訳が終結しない。
※シャトルベクター:大腸菌やヒト細胞など、異なる種の細胞で複製維持されるベクターのこと。
※バイアス:検出される変異の偏り。
※変異シグネチャー:各変異原と強く相関する変異の特徴的なパターンのこと。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
大学院医系科学研究科 准教授 河合 秀彦
Tel:082-257-5300 FAX:082-257-5334
E-mail:kawaih*hiroshima-u.ac.jp
大学院医系科学研究科 教授 紙谷 浩之
Tel:082-257-5301 FAX:082-257-5334
E-mail:hirokam*hiroshima-u.ac.jp

<報道に関すること>
広島大学広報室 
Tel:082-424-4383 FAX:082-424-6040
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


up