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胃ろうと薬剤耐性菌保菌率との関係を初めて証明 広島県内の長期療養施設での保菌調査

研究成果のポイント

  • 病院と異なり、細菌検査が行われることが少ない長期療養施設(介護老人保健施設、特別養護老人ホーム)における薬剤耐性菌の状況は明らかになっておらず、さらに、その保菌状態が入所者の長期予後にどのように影響を及ぼすかについても明らかになっていません。
  • 本研究では広島県下の介護老人保健施設3施設と特別養護老人ホーム3施設に入所中の178名の口腔と直腸の保菌調査を行いました。さらに、経過を追えなかった32人を除く146名の入所者の臨床情報、経過との関連を多施設共同、前向き観察研究として解析しました。
  • その結果、薬剤耐性菌と緑膿菌の保菌率が特に経腸栄養(胃ろうなど)を実施している入所者で有意に高いことを初めて見出しました。さらに緑膿菌の保菌は死亡率とも関連していることが分かり海外の医学雑誌に発表しました。

発表内容

【研究の背景】
 薬剤耐性菌の蔓延は世界でも喫緊の課題で、国内では2016 年、政府が薬剤耐性対策(AMR)アクションプランを策定、それに基づいて対策が推進されています。厚労省院内感染対策サーベイランスによって、病院での薬剤耐性菌の状況は把握できるものの、検査をすることが少ない長期療養施設での実態は分からず、耐性菌の保菌が予後に影響を与えるかについても不明でした。

【研究成果の内容】
 広島大学と国立感染研薬剤耐性研究センターは共同で、広島県下の6長期療養施設(介護老人保健施設3施設と特別養護老人ホーム3施設)入所中の178名に対し、口腔と直腸の薬剤耐性菌の保菌調査を行い、それに引き続いて1年以上の前向き観察研究を行いました。口腔と直腸からそれぞれサンプルを採取し、薬剤耐性菌スクリーニング培地を使用し、薬剤耐性菌の検出を行いました。
 その結果、口腔では何等かの耐性菌を有している割合は17.4%で、介護老人保健施設と特別養護老人ホームで差は見られなかった一方で、直腸では54.5%の入所者が何らかの耐性菌を保菌していました。ESBL産生耐性菌は42.7%の入所者が保菌しており、特別養護老人ホーム入所者の方が有意に保菌していることがわかり、ESBL産生耐性菌の検出も緑膿菌の検出も経管栄養が行われている入所者に有意に検出される結果となりました。死亡率に関しては、緑膿菌を保菌した入所者が有意に悪く、生存期間の短縮を認めました。全ゲノム解析を行ったところ、緑膿菌においては、バイオフィルムを形成しやすい系統ST235が多く検出されました。
 本研究の結果から、長期療養施設でも薬剤耐性対策、特に緑膿菌保菌に対する対策が必要であることが示唆されます。
 なお、本研究は厚生労働科学研究費2019年及び2022年度「新興・再興感染症および予防接種政策推進研究事業」、AMED 2021年度「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」の支援を受けて実施したものです。

【今後の展開】
 今回の調査結果をもとに、薬剤耐性対策を行うことによって長期療養施設における薬剤耐性菌のコントロールと予後の延長に貢献することが期待されます。

用語解説

*ESBL産生耐性菌 Extended-Spectrum β-lactamase (基質拡張性β-ラクタマーゼ)のこと。ペニシリン、第一〜第三世代セファロスポリンを分解し耐性を示す細菌。本研究では腸内細菌目細菌に絞って検討している。近年、我が国ではESBL産生大腸菌の分離率が上昇を続けており、2020年の統計によるとJANIS参加医療機関では入院患者で大腸菌が分離された患者の約1/4からESBL産生大腸菌が分離されている。

論文情報

  • 掲載誌:Gerontology
  • 論文タイトル: Oral and Rectal Colonization by Antimicrobial-Resistant Gram-Negative Bacteria and Their Association with Death among Residents of Long-Term Care Facilities:A Prospective,Multicenter, Observational, Cohort Study
  • 著者:梶原俊毅*、矢原耕史*、吉川峰加、春田梓、川田-松尾美樹、Le Nguyen-Tra Mi、荒井千夏、竹内真帆、北村徳一、菅原庸、久恒順三、鹿山鎮男、太田耕司、津賀一弘、小松澤均、大毛宏喜、菅井基行*
      *Corresponding Author(責任著者)
  • DOI 番号:https://doi.org/10.1159/000525759
【お問い合わせ先】

広島大学病院 広報・調査担当役 古市
Tel:082-257-5418 FAX:082-257-5087
E-mail:byo-toku-chousa*hiroshima-u.ac.jp(*は半角@に置き換えてください)


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