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【研究成果】nSybはシナプス小胞融合だけでなくロドプシンの光受容膜への輸送にも機能する

本研究成果のポイント

  • SNAREファミリータンパク質(※1)の1つで、シナプス小胞(※2)の融合に関わることが知られているnSybが、ロドプシンを含むポストゴルジ小胞の光受容膜への融合にも機能することを示した。
  • 新たに生合成された光受容タンパク質ロドプシンと光受容膜から光依存的エンドサイトーシス(※3)により細胞内に取り込まれたロドプシンが、リサイクリングエンドソームで(※4)混じり合い、共に光受容膜へと送られることを発見した。
  • Rab5は通説とは異なり光受容膜からのロドプシンのエンドサイトーシスには機能せず、ロドプシンを含む多胞体(MVE) (※5)の形成に必要であることを示した。

概要

 生体内で機能する細胞の多くは極性を持っている。細胞極性の形成と維持には生合成されたタンパク質を特異的な細胞膜ドメイン(極)に送る極性輸送が必要である。ショウジョウバエ視細胞は、光受容膜・ストーク膜・細胞体膜・軸索という4つの異なる細胞膜ドメインを持つ明瞭な極性細胞であり、極性輸送研究に適したモデル細胞である。広島大学大学院統合生命科学研究科の佐藤明子教授らのグループは、ショウジョウバエ視細胞をモデルとして用い、これまで極性輸送に関わる様々な因子を同定してきた。膜融合因子SNAREの1つであるnSybはシナプス小胞の融合に関与することが知られていたが、本研究においてnSybが光受容膜への極性輸送にも関わることが明らかになった。同グループは、ロドプシンが光依存的にエンドサイトーシスされることを既に報告していたが、本研究ではさらに、このエンドサイトーシスされたロドプシンと新たに生合成されたロドプシンは、リサイクリングエンドソームにおいて合流し、共に光受容膜へと輸送されることも見出した。また、ショウジョウバエ視細胞ではRab5はエンドサイトーシスに必要と考えられてきたが、Rab5はロドプシンの光依存的エンドサイトーシスそのものには必要ではなく、取り込まれたロドプシンを含む多胞体の形成の必要であることも見出した。視細胞におけるロドプシン輸送の欠損は、網膜変性症の原因になることが知られており、本研究によるロドプシンの極性輸送の解明は網膜変性症の発症メカニズムの解明と治療法の確立に寄与するものと考えられる。

 

論文情報

  • 掲載雑誌名: Journal of Cell Science
  • 論文名: Functions of neuronal Synaptobrevin in the post-Golgi transport of Rhodopsin in Drosophila  photoreceptors.
  • 著者名: Yamashita H, Ochi Y, Yamada Y, Sasaki S, Tago T, Satoh T, Satoh AK.
  • DOI: doi.org/10.1242/jcs.260196
  • 掲載日時: 2022 Dec 15
    Research Highlight にて紹介

発表内容

【背景】
 生体内で機能する細胞の多くは極性を持っている。細胞極性の形成と維持には生合成されたタンパク質を特異的な細胞膜ドメイン(極)に送る極性輸送が必要である。ショウジョウバエ視細胞は、光受容膜・ストーク膜・細胞体膜・軸索という4つの異なる細胞膜ドメインを持つ明瞭な極性細胞であり、極性輸送研究に適したモデル細胞である。広島大学大学院統合生命科学研究科の佐藤明子教授らのグループは、ショウジョウバエ視細胞をモデルとして用い、これまで極性輸送に関わる様々な因子やオルガネラを同定してきた。特に光受容タンパク質ロドプシンの光受容膜へのポストゴルジ輸送では、本来エンドサイトーシス経路で機能するとされていたリサイクリングエンドソームがポストゴルジ輸送の経路に含まれており、ロドプシンはこのオルガネラを通った後に光受容膜へと輸送されることを報告していた(Satoh et al., 2005 Development; Li* and Satoh* et al., 2007 J Cell Biology;Otsuka et al., 2019 J Cell Science)。さらに、このリサイクリングエンドソームが、ショウジョウバエ培養細胞・哺乳類培養細胞・ウニ幼生においてゴルジ体のトランス側へ付着と解離を繰り返していること、この過程で膜タンパク質の選別と選択的輸送を行うことを見出した(Fujii et al., 2020 J Cell Science;Fujii et al., 2020 Communication and Integrated Biology)。これらのことから、リサイクリングエンドソームが、ゴルジ体の接着と解離により、生合成されたタンパク質の一部を取り込み、極性輸送を行うオルガネラと考えるに至った。しかし、リサイクリングエンドソームとゴルジ体の接着と解離の分子機構、また、この過程におけるエンドサイトーシスされた積荷タンパク質の輸送と生合成された積荷タンパク質の輸送の関係は明らかになっていなかった。

【研究成果の内容】
 本研究では、リサイクリングエンドソームとゴルジ体の接着と解離の分子機構を明らかにするために、この領域に局在するSNAREであるSybの解析を行った。残念ながらSyb欠損はロドプシンを含む検討したすべての膜タンパク質の輸送に影響を与えなかったが、神経細胞特異的なSybパラログ、nSyb の欠損視細胞を解析したところ、重篤なRh1輸送欠損を示した。nSybはシナプスに局在し、小胞の融合に必要なSNAREタンパク質である。本研究では、nSyb がシナプス小胞に加えて、生合成されたロドプシンの輸送に関わるRab11と共に、ゴルジ体に付着したリサイクリングエンドソームと光受容膜基部のポストゴルジ小胞局在することを見出し、ロドプシンの極性輸送に必須の因子であることを示した。
 また、nSybは、初期エンドソームにも局在していた。この局在と一致して、nSyb欠損のもたらす光受容膜への輸送欠損により細胞内に蓄積するロドプシンの一部が、光依存的に光受容膜からエンドサイトーシスされてきた成分であることを見出した。さらに、Rab11 などのこれまで生合成されたロドプシンの極性輸送に関わることが報告されていた遺伝子の欠損でも、エンドサイトーシスされたロドプシンが生合成されたロドプシンとともに細胞質に蓄積し、両者がリサイクリングエンドソームで混じり合うことがわかった。
 このエンドサイトーシスされたロドプシンの輸送を研究する過程では、光依存的なロドプシンの光受容膜からエンドサイトーシスを阻害する目的で、この過程に関わると報告されていたRab5とArr1の機能欠損を用いた。Arr1欠損は実際にロドプシンの光依存的なエンドサイトーシスを阻害したが、Rab5機能欠損はこの過程を阻害せず、代わりにエンドサイトーシスのあとの初期エンドソームと多胞体の形成を阻害した。従って、ショウジョウバエ視細胞におけるRab5の機能は、細胞膜からのエンドサイトーシスそのものではなく、その後の初期エンドソームや多胞体の形成であることが分かった。

【今後の展開】
 このたびの発見により、エンドサイトーシスされた積荷タンパク質の輸送と生合成された積荷タンパク質はリサイクングエンドソームで混じり合い、一緒に光受容膜へと輸送されること、また、この輸送にnSyb が機能することがわかった。nSybはシナプス小胞の融合に関わるSNAREであることが報告されていたが、本研究から、光受容膜への融合にも関わる因子であることが明らかとなった。膜交通分野では、SNAREファミリータンパク質は、細胞内の様々なオルガネラ膜と小胞の融合の特異性を決定し、また、融合を引き起こす原動力と考えられている。しかし、本研究では、nSyb が複数の膜融合過程に機能することを示し、膜・オルガネラの融合特異性の決定へのSNAREの役割が限られていることを示唆した。今後は、その他のSNAREファミリータンパク質についても解析を行い、SNAREの膜・オルガネラ特異性の決定能力についての検証を行いたい。

 

【参考資料】

図.ロドプシンの輸送経路モデル
 小胞体で生合成されたロドプシンがゴルジ体に輸送された後、リサイクリングエンドソームを経由して光受容膜へと輸送されること、また、ロドプシンが光依存的にエンドサイトーシスされて多胞体に送られ分解されることが同グループの以前の研究により明らかになっている。本研究では、光依存的に細胞内に取り込まれたロドプシンの一部が、リサイクリングエンドソームに運ばれ、生合成されたロドプシンとともに光受容膜へと輸送されることを示した。また、同グループは、ゴルジ体のトランス側にリサイクリングエンドソームが付着していることを報告していたが、本研究により、生合成されたロドプシンとエンドサイトーシスされたロドプシンがゴルジ体トランス側に付着したリサイクリングエンドソームで合流することで、効率的に光受容膜に送られていることがわかった。

【用語説明】

(※1) SNAREファミリータンパク質
細胞内小胞輸送において、小胞と標的膜との間の融合を引き起こすSNAREドメインを持つ一群のタンパク質。細胞内には数十種類存在する。

(※2) シナプス小胞
神経細胞の終末において、カルシウム濃度の上昇に伴ってシナプスに融合し、内包する神経伝達物質を分泌する。

(※3) エンドサイトーシス
細胞が細胞外の物質を取り込む過程。食作用・飲作用ともいう。

(※4) リサイクリングエンドソーム(RE)
エンドサイトーシス(食作用・飲作用)によって細胞内に取り込んだ物質を、再び細胞膜へと戻す役割をもつ細胞小器官。

(※5) 多胞体
エンドサイトーシス(食作用・飲作用)によって細胞内に取り込んだ物質を分解する役割を持つ細胞小器官。後期エンドソームとも呼ばれ、初期エンドソームが成熟して形成される。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
 大学院統合生命科学研究科 佐藤 明子
 Tel:082-424-6507 FAX:082-424-0759
 E-mail:aksatoh*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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