大学院先進理工系科学研究科 教授 松木一弘
Tel:082-424-7554
E-mail:matsugi*hiroshima-u.ac.jp
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広島大学大学院先進理工系科学研究科の松木一弘教授、末次憲一郎客員教授、田井宏樹大学院生、岩男広飛学部生らの研究グループは、電子パラメーターΔMK を用いる迅速かつ適切な合金設計に基づいて、今回融点が 270°C以上の電子回路実装用高温鉛フリーはんだ合金及びフラックス接合システムを開発しました。
とくにBi系はんだ材料の合金成分により、材料の延性と強度とのバランスのとれた接合組成を発見し、Ni及びCu電極材料との接合に優れた表面処理材の選択を行い、活性剤であるハロゲン成分の調整によって、接合部に腐食などのダメージを与えない接合システムを開発しました。
このBi系高温はんだ材料を用いた接合システムにより、コロナ殺菌クリーナの電源基板で搭載部品との接合を行い、電源回路基板の実機実装を実施、コロナ殺菌クリーナとしての製品特性をクリアすることに成功しました。
本開発製品は本学内はもちろん、国内の電子機器企業や大学などで実機使用が開始されており、2021年世界で初めて実用化を達成することができました。
現在高温鉛はんだ(融点250°C以上)の鉛フリー代替品が世界中でまだどこも開発されておらず、毎年世界で高温鉛はんだが 6000 トン使用され続けています。上記のコロナ殺菌クリーナ電源基板の実機実用化により、今後すべての電気電子製品において、エレクトロニクス製品のオール鉛フリー化への道筋をつけることができました。
高温鉛フリーはんだ製品を使用した実用化製品は世界で初めてであり、このたび本開発製品は現在日本電子回路基板工業会本部(東京西荻窪)の回路会館ショールームに展示され、国内の多くの電子実装回路実装研究者や技術者に公開されて高い関心を集めています。
鉛はんだの歴史が5000年と言われているなか、地球環境保護の動きに伴い20世紀末から、世界中でエレクトロニクス製品に使用されているはんだの鉛フリー化が進展しました。2010 年頃には世界のエレクトロニクス製品に使用される鉛はんだの80%が鉛フリー化されました。しかしながら残り20%は融点が250°C以上の高温鉛はんだであり、この鉛フリー化の開発が世界的に困難で現在まで鉛フリー化できず残されたままとなっていました。
同研究グループは2011年より電子パラメーターΔMK を用いた合金設計を行い、高温鉛フリーはんだ材料の研究を開始しました。ビスマスに添加元素を加えた合金材料の引張特性を調べたところ、当時業界では延び特性はゼロ、すなわち延びはないと言われていたビスマス系合金が、数十パーセント以上の延びを有することを2013年業界に先駆けて発見しました。当時世界的に高温鉛フリーはんだ材料の開発が行き詰っていたたなか、新たな方向性を見いだす画期的な発見となりました。さらにこのBi系はんだ合金の研究を継続して検討を行い、このたび電極金属表面処理材並びに特殊ハロゲン成分含有フラックスを用いた接合システムの開発に成功しました。
高温鉛はんだが依然として削減されないなか、本開発システムのエレクトロ二クス実製品への実機搭載による実用化の早期実現が世界的に要望されていました。
電子パラメーターΔMK を用いる迅速かつ適切な合金設計に基づいて、融点が270°C以上の電子回路実装用高温鉛フリーはんだ合金及びフラックス接合システムの開発を行いました。今回とくに Bi 系はんだ材料の合金成分により、材料の延性と強度とのバランスのとれた接合材料組成を発見しました(図1)。またNi及びCu電極材料との接合特性に優れた表面処理材の選択を行い、活性剤の種類やハロゲン成分含有量によって接合部に、腐食などのダメージを与えない接合システムを開発することができました。
なおこのBi系はんだ材料の接合については熱だけでなく、微小部品の接合を考えブルーレーザー*2による接合の検討を行い、レーザー光を用いた接合プロセスでも可能なことを明らかにしました(図2)。
図1.延性と強度に優れた材料組成の合金組織
図2.微小部品(L;1mm、W:0.5mm)の接合にブルーレーザーで接合
このBi系高温はんだ材料を用いた実用化に際し、接合部に熱負荷のかかる電源部への適用を検討しました。対象製品としてコロナ殺菌クリーナを選択し、この製品の電源基板において電源基板の中央部に中部品が搭載されていてはんだ接合部に密接しており、電源基板から発生する熱によって接合劣化加速の可能性が考えられました。このために今回高温特性に優れたBi系高温鉛フリーはんだの適応を検討し、とくに接合条件については加熱時の部品電極、基板電極との接合界面状態の解析分析を繰り返して絞り込みました。その結果、電源回路基板への実機実装後も、コロナ殺菌クリーナの製品特性をクリアすることに成功しました(図3)。
図3.コロナ殺菌クリーナ電源基板の一部にBi系高温鉛フリーはんだ実装搭載
本開発製品は本学内はもちろん、電子機器企業や東大、京大等、世界の高温鉛フリーはんだ研究のリーダーである大学研究室などにおいて実際に現在使用されており、Bi系高温鉛フリーはんだ材料を用いた接合システムでの世界初実用化を達成することができました。またコロナ殺菌クリーナ電源基板の実機実用化により、現行高温鉛はんだの代替化が可能となり、今後すべての電気電子製品においてオール鉛フリーエレクトロニクス製品化への道筋をつけることができました(図4)。
図4.Bi系高温鉛フリーはんだの実用化によるオール鉛フリーエレクトロニクス製品への道筋
大学院先進理工系科学研究科 教授 松木一弘
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掲載日 : 2023年02月06日
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