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【研究成果】心房細動患者で歯周炎が心房組織の線維化に関連することを発見~歯周炎と心房細動の関係を解明するための一歩~

本研究成果のポイント

心臓手術時に左心房の一部である左心耳(注1)切除を行う心房細動患者を対象とした研究で、歯周炎症表面積(periodontal inflamed surface area:PISA)(注2)等の歯周炎の重症度・活動性を示す臨床指標が心房組織の線維化に関連することを明らかにしました。

概要

 広島大学保健管理センター宮内俊介助教、広島大学大学院医系科学研究科循環器内科学中野由紀子教授、口腔感染症プロジェクト研究センターを中心とした研究チームは心臓手術時に左心耳切除を行う心房細動患者を対象とした研究で、歯周炎の重症度・活動性を示す歯周炎症表面積、プロービング時の出血(bleeding on probing:BOP)、歯周ポケットの深さ(periodontal probing depth:PPD)が心房組織の線維化割合と関連することを明らかにしました。
 心房組織の線維化は心房細動の発症、重症化に重要な役割を果たし、心房線維化を抑制することで心房細動の発症予防、治療成績の改善につながります。今回の結果は、歯周炎が心房細動の修正可能な危険因子である可能性を示唆し、今後の研究で心房細動マネージメントにおけるセルフ口腔ケアや医科歯科連携診療の有効性が明らかになることが期待されます。
 本研究成果は、令和4年10月30日(米国東部時間)、米国科学誌「JACC: Clinical Electrophysiology」(オンライン版)に掲載されました。

論文情報

  • 掲載雑誌:JACC: Clinical Electrophysiology
  • 著者:Shunsuke Miyauchi, Hiromi Nishi, Kazuhisa Ouhara, DDS, Takehito Tokuyama, Yousaku Okubo, Sho Okamura, Shogo Miyamoto, Naoto Oguri, Yukimi Uotani, Taiichi Takasaki, Keijiro Katayama, Hisako Furusho, Mutsumi Miyauchi, Shinya Takahashi, Toru Hiyama, Yukiko Nakano*
    * Corresponding author(責任著者)
  • 論文題目:Relationship Between Periodontitis and Atrial Fibrosis in Atrial Fibrillation: Histological Evaluation of Left Atrial Appendages
  • DOI:10.1016/j.jacep.2022.08.018

発表内容

【研究の背景】
 心房細動は最も頻度の高い不整脈で、心不全や脳梗塞の原因となり、健康寿命を著しく毀損します。心房細動には加齢や遺伝的な要因も関与しますが、肥満、高血圧、糖尿病、飲酒、喫煙など、修正可能なリスク因子を同定し、介入することが重要です。心房組織の線維化は心房細動のトリガーおよび、心房細動を維持する基質となり、心房細動の発症、重症化に重要な役割を果たします。一方で歯周炎は世界で最も有病率の高い感染症であり、軽微な炎症が長期間持続することで、動脈硬化、糖尿病、リウマチ、脂肪肝などの全身疾患に影響することが知られています。しかしながら、歯周炎と心房細動の関係は解明されておらず、歯周炎は心房細動の修正可能なリスク因子として位置づけられていません。今回我々は、心臓手術時に切除した左心耳組織を組織学的に解析し、臨床的な歯周炎の指標と心房組織線維化との関連を検討しました。

【研究成果の内容】
 広島大学病院で左心耳切除を実施した心房細動患者76名の左心耳組織を組織学的に解析し、線維化の割合を定量化しました。心房組織線維化と術前に検査した臨床的な歯周炎指標を比較検討し、1) 歯周炎症表面積、プロービング時の出血、歯周ポケットの深さは心房線維化と相関する 2) 年齢、心房細動持続期間、BMI、僧帽弁閉鎖不全症の有無、CHADS2スコア(注3)を調整した多変量解析でも歯周炎症表面積、プロービング時の出血、歯周ポケットの深さは心房線維化に関連することを明らかにしました。今回の研究結果から、歯周炎が心房線維化に関連することが明らかになり、歯周炎が心房細動患者の重症化、予後に影響する可能性が示唆されます。

【図】歯周炎と心房線維化の関連(論文中の図を改編)

【今後の展開】
 今回の研究結果は歯周炎が心房細動の修正可能な危険因子であることを明らかにするための重要なデータとなります。今後は歯周炎が心房線維化に関与する機序を明らかにしたいと考えています。私たちは以前の研究で、歯周病原細菌の血漿抗体価(注4)が心房細動に対するカテーテルアブレーション治療後の心房細動再発に関与することを明らかにしています。今後の臨床研究で歯周炎治療が心房線維化を抑制し、心房細動患者の予後を改善することを明らかにしていく必要があります。広島大学では口腔感染症プロジェクト研究センターを中心とした医科歯科連携チームで引き続き本研究テーマに取り組んで参ります。

 

用語解説

(注1) 左心耳
 原始左心房に由来する構造物で左心房に連続し、先端は盲端となっている。心房細動患者で脳梗塞の原因となる血栓の90%は左心耳由来とされ、心臓手術時に脳梗塞予防のため切除または閉鎖される。

(注2) 歯周炎症表面積
 歯周組織の炎症部位の面積を示し、歯周炎の活動性を定量的に評価できる臨床指標となる。近年では糖尿病や血液中の炎症マーカーとの関連が報告されている。

(注3) CHADS2スコア
 心房細動患者の脳梗塞発症リスク評価法として確立したスコアで、C:うっ血性心不全、H:高血圧、A:年齢75歳以上、D:糖尿病、S:脳梗塞または一過性脳虚血発作の既往からなる。

(注4) 歯周病原細菌の血漿抗体価
 主要な歯周病原細菌の血漿抗体価は臨床的な歯周炎の重要度を反映するとされる。

研究支援

 本研究の遂行にあたり、文部科学省・JSPS 科研費 研究活動スタート支援:21K20924の助成を受けました。

【お問い合わせ先】

広島大学保健管理センター 助教 宮内俊介
Tel:082-424-6191
E-mail:smiyauchi*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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