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【研究成果】ツチガエルの異なる性決定様式間で同じ方向に進化する遺伝子の平行進化を解明

本研究成果のポイント

  • 性染色体上の766個の遺伝子を同定し、XY型とZW型の性決定様式のもとで遺伝子がどのように進化するのか、ツチガエルを用いて直接の比較解析を世界で初めて行いました。
  • 異なる性決定様式の間で同じような方向に進化する、遺伝子の平行進化を明らかにしました。
  • 一方、遺伝子の発現がXY型とZW型の性染色体間で大きく異なる、短いゲノム領域を特定しました。

 

概要

 雌雄の性を決定する様式には、ヒト(哺乳類)に見られるXX-XY型と鳥類に見られるZZ-ZW型が存在します。産業技術総合研究所、北里大学、横浜市繁殖センター、九州大学および広島大学両生類研究センターの共同チームは、日本に生息し、XX-XY型とZZ-ZW型の2つの異なる性決定様式を備えるツチガエルを用いて、性染色体上に位置する766個の遺伝子を同定し、塩基置換率や遺伝子発現について比較解析を行いました。その結果、遺伝子突然変異率1はオスで高い「オス駆動進化2」を示し、同義置換3に対する非同義置換4の比率はXやW遺伝子で高いことからメスに偏り、そして、遺伝子発現はYやW遺伝子で高いことから、ヘテロの性(XYオスおよびZWメス)への偏りが確認されました。以上から、ツチガエルの比較的若い性染色体上の766個の遺伝子が、2つの異なる性決定様式の環境において、同じような進化の方向性を示す性連鎖遺伝子の平行進化の実態が明らかとなりました。一方、染色体の末端領域には、Y遺伝子がX遺伝子よりも発現が極端に高い一方、W遺伝子とZ遺伝子の発現量が変わらないという、性染色体間で遺伝子発現が大きく異なるゲノム領域を特定しました。本成果は、XY型とZW型の性決定様式における遺伝子進化を直接比較した世界で初めての研究であり、両者間における遺伝子進化の共通点と相違点を明らかにしました。

本研究成果は、2023年1月31日に「Genes」オンライン版に掲載されました。

論文情報

  • 論文タイトル
    Parallel evolution of sex-linked genes across XX/XY and ZZ/ZW sex chromosome systems in the frog Glandirana rugosa
  • 著者
    回渕修治1*, 伊藤道彦2, 尾形光昭3, 吉村友理4, 三浦郁夫5,6*
    1産業技術総合研究所
    2北里大学
    3横浜市繁殖センター
    4九州大学
    5広島大学両生類研究センター
    6キャンベラ大学
    *責任著者
  • 掲載雑誌
    Genes
    DOI番号 https://doi.org/10.3390/genes14020257

 

 

発表内容

【背景】
 雌雄の性を決定する様式には、ヒト(哺乳類)に見られるXX-XY型と鳥類に見られるZZ-ZW型が存在します。そして、それぞれの性染色体上には1000個程度の遺伝子(性連鎖遺伝子)が存在しますが、性染色体の起源が哺乳類と鳥類では異なることから性連鎖遺伝子は相互に異なり、両者を直接比較することは不可能とされてきました。しかし、我が国に生息するツチガエル(Glandirana rugosa)は、種内にXY型とZW型の性決定様式をもち、それぞれの性染色体は起源が同じで、共通の染色体から進化した極めてユニークな特徴を持っています。そこで本研究では、異なる性決定様式のもとで性連鎖遺伝子がどのように進化するのか、その進化機構を解明するため、ツチガエルを用いて性連鎖遺伝子を同定し、2つの異なる性決定様式の間で性連鎖遺伝子の突然変異率や発現について、直接の比較解析を世界で初めて行いました。

【研究成果の内容】
 本研究で同定した766個の性連鎖遺伝子は、突然変異率がY染色体やZ染色体で高いことから他の動物と同様、オス駆動進化を支持しました。一方、自然淘汰圧の指標となる同義置換に対する非同義置換の比率はX染色体やW染色体で高く、メスに偏りがあることがわかりました。これは哺乳類や鳥類とは逆の結果でした。そして、遺伝子発現はY染色体とW染色体の遺伝子で高く、これも哺乳類や鳥類とは逆の結果でした。以上のように、本成果は、哺乳類や鳥類とは異なる、進化的に若い性染色体における遺伝子進化の特徴を明らかにしました。そして、2つの異なる性決定様式の間で同じ方向に進化する遺伝子の平行進化の実態が明らかになりました。さらに、染色体の末端領域には、Y遺伝子がX遺伝子よりも発現が極端に高い一方、W遺伝子とZ遺伝子の発現量が変わらないという、性染色体間で遺伝子発現が大きく異なるゲノム領域を特定しました。この領域に性を決める遺伝子が存在する可能性も示しました。本成果は、これまでの研究者が知り得なかった、2つの異なる性決定様式間における遺伝子進化の共通点と相違点を解明したものであり、性分野の研究に大きく貢献することが期待されます。

【今後の展開】
 1つの種に2つの異なる性決定様式を持つ脊椎動物は、世界でも我が国のツチガエルに限られます。よって、この利点を活かした、性決定や性染色体の進化、そして種分化との関係を解明するための研究はまだ尽きず、これまで誰も知り得なかった研究成果が今後も期待されます。

【参考資料】

用語解説

1遺伝子突然変異
遺伝子DNAの塩基配列が、細胞分裂時のDNA複製ミスや化学物質・紫外線などによる損傷により変異すること。DNAの塩基にはアデニン(A)とグアニン(G)、シトシン(C)とチミン(T)の4種類がある。

2突然変異のオス駆動進化
オスの精子の形成過程ではメスの卵子よりも多くの細胞分裂を伴う。遺伝子突然変異は細胞分裂時のDNA複製ミスによるため、オスではメスよりも多くの変異を生じ、遺伝子進化の原動力となっていること。

3同義置換
DNAの3つの塩基配列の並びは1つのアミノ酸を指定しており、その塩基の変異がアミノ酸を変えない置換であること。

4非同義置換
DNAの塩基の変異がアミノ酸を変える置換であること。

5ヘテロの性
性決定様式がXX/XY型の場合、XXメスをホモ(同質)の性、XYオスをヘテロ(異質)の性という。ZZ/ZW型の場合は、ZWメスをヘテロの性という。

6平行進化
異なる生物で、たがいによく似た機能や形態をもつように進化していく現象のこと。

7コドン
1つのアミノ酸を指定する3つの塩基の並びのこと

【お問い合わせ先】

 両生類研究センター 准教授 三浦郁夫

 Tel:082-424-7323 FAX:082-424-0739

 E-mail:imiura*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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