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【研究成果】ネガティブな考えは短期的には頭痛をやわらげ、長期的には悪化させる~心理的要因の効果に関する実証的な知見~

研究成果のポイント

  • 心配のようなネガティブな考えが続くこと(ネガティブな反復思考)の傾向の強い人に、片頭痛が多いことがわかりました。
  • ネガティブな反復思考は、短期的には頭痛を和らげる効果もあることがわかりました。同時に、長期的には頭痛を悪化させていました。

 

概要

 広島大学大学院人間社会科学研究科の杉浦義典准教授は、心配のようなネガティブな考えが続くこと(ネガティブな反復思考)と頭痛の関連を明らかにしました。大学生239名を対象とした調査の結果、ネガティブな反復思考の傾向が強いと、片頭痛を患うリスクが2.48倍に高まることが示されました。また、ネガティブな反復思考が悪化するプロセスに注目して検討すると、初期の段階ではネガティブな反復思考が頭痛を和らげることもある一方、より慢性化すると頭痛を悪化させることも示されました。
 本研究成果は、2023年3月30日(木)に科学誌「International Journal of Cognitive Therapy」にオンライン掲載されました。

発表論文

  • 論文タイトル:
    Longitudinal relationships between anxiety, depression, repetitive negative thinking and headache among non-clinical students after one week and one month
  • 著 者:広島大学大学院人間社会科学研究科 杉浦義典
  • 掲載雑誌:International Journal of Cognitive Therapy
  • DOI: https://doi.org/10.1007/s41811-023-00161-5

発表内容

【背景】
 片頭痛や緊張性頭痛といった一次性頭痛は多くの人が経験します。不安や抑うつなどの心理的な問題が一次性頭痛と関連することをしめす研究はありましたが、ネガティブな反復思考(心配のようなネガティブな考えが長く続く傾向)が、非臨床群において頭痛の度合いを強めるのか、は明らかではありませんでした。ネガティブな反復思考は、不安や抑うつなどの多くの心理的な問題に共通の要因として近年注目されています。この反復思考が頭痛に影響することが分かれば、頭痛に対する心理療法にもつながると期待できます。

【研究成果の内容】
 大学生426名(女性220名、男性204名、無回答2名)を対象に、アンケート調査を行いました。頭痛の程度は、頻度、重症度、頭痛による生活への支障というように多面的に測定しました。同時に、その人が片頭痛を患っているかどうかのスクリーニングの質問にも回答してもらいました。アンケート調査は約1カ月をあけて2回実施しました。この研究では、反復思考が頭痛に影響すると予想しています。2回測定することで、最初に測定した反復思考が、1か月後の頭痛に影響するという時間的な関係も明らかになります。
 分析の結果、以下のことが分かりました。

1.反復思考の傾向の高い人は、片頭痛を「発症」するリスクが高い
 1回目に測定した反復思考の傾向の高い人は、1回目には片頭痛ではなくても、1か月後に片頭痛と判定されるリスクが2.48倍、高いことが分かりました。片頭痛の場合、本人の自己申告と医師の診断とは一致することが知られています。つまり、反復思考の傾向の高い人は、その後片頭痛を「発症」するリスクが高いことが分かります。

2.反復思考は、短期的には頭痛の程度を和らげるが、長期的には悪化させる
 これまでの研究で、反復思考がどのようなプロセスで重症になるかが明らかになっています(図1)。日常生活では、色々な困った問題にであうものですが、そのような時に放っておくことができずに「考え続けなくてはいけない」と思うことで反復思考が始まります。このように粘り強い人は、柔軟に考えることが苦手なので、そのうちに行き詰まってしまい、解決策が見出せないという状態(問題が解決できないという不全感)に陥ってしまうことが多いのです。そして、解決できないならもっと考えなければいけない、と思うことで反復思考がさらに悪化します。

考え続ける義務感→問題が解決できないという不全感→ネガティブな反復思考

 

図1 ネガティブな反復思考が悪化・持続するプロセス

 

 

この研究では、図1の3つのプロセスそれぞれを測定しました。その結果、反復思考の3つのプロセスは、1か月後の頭痛の程度と異なった関係を示しました。また、片頭痛の人とそうでない人とでパターンは異なっていました。

a.片頭痛でない人の場合
 データをみると、このグループの中にも、頭痛の程度の個人差があることが分かりました。このグループの人の経験する頭痛は、主に緊張性頭痛と考えられます。このグループでは、「考え続ける義務感」が高いと、1か月後の頭痛の重症度が低く、「問題が解決できないという不全感」が高い場合には、1か月後の頭痛の重症度が高いことが分かりました(図2aの青い実線)。この結果を、図1のプロセスと統合して書いたものが図3になります。「考え続ける義務感」は、反復思考のはじまりの段階といえます。まだあまり「こじれて」いないため、頭痛から気をそらす働きがあると考えられます。しかし、問題が解決できないという不全感が出てきてしまうと、肩に力が入ったりして、頭痛がひどくなると考えられます。

b.片頭痛の人の場合
 片頭痛の人の中でも、頭痛の程度には個人差がありました。片頭痛の人の中では、「問題が解決できないという不全感」が高い人ほど、1か月後の頭痛による日常生活への支障が低いことが分かりました。一方、ネガティブな反復思考の程度が強いと、1か月後に頭痛が日常生活に支障をきたすほどになることが分かりました(図2bの赤い破線)。図3をみると、片頭痛の人の場合は、反復思考が頭痛の緩和から増強に転じるポイントが(片頭痛でない人と比べると)より右側、つまり反復思考のプロセスのより重度な側に移動していることが分かります。上記の1.の結果にもあるように、片頭痛の人は、反復思考の程度が高い人たちです。図1でいえば、右よりの、より反復思考の悪化しているレベルの人たちと考えられます。「問題が解決できないという不全感」はかなりつらい状態だと考えられますが、まだなんとか頑張ろうとしているとも言えるでしょう。そのため、頭痛の重度を低下させる働きを保っていると考えられます。しかし、ネガティブな反復思考として本当に手に負えなくなると、頭痛による支障の程度を高めてしまうと考えられます。
 さらに今回の研究では、新たに92名(女性69名、男性22名、無回答1名)を対象に、1週間の間隔で同じ内容の調査を行いました。その結果、片頭痛の人の中では、ネガティブな反復思考の傾向の高い人ほど1週間後の頭痛の程度が弱まっていました。反復思考は短期的には頭痛を緩和するようです(ただし、この追加データは参加者数が少ないため、解釈には慎重になる必要があります)。

a.片頭痛でない人の場合

b.片頭痛の人の場合

図2 反復思考のプロセスと頭痛の程度の関連(片頭痛の有無に分けた結果)

a.片頭痛でない人の場合(青い実線)、考え続ける義務感は1か月後の頭痛による支障を低下させ、問題が解決しないという不全感は1か月後の頭痛による支障を増強している。
b.片頭痛の人の場合(赤い破線)、問題が解決しないという不全感は1か月後の頭痛の重症度を低下させ、ネガティブな反復思考は1か月後の頭痛の重症度を増強している。

図3 反復思考が重度化、慢性化するプロセスと頭痛との関連

 今回の研究から、ネガティブな思考が持続する人ほど、片頭痛を患う人が多いことがわかりました。また、ネガティブな反復思考は、初期の段階では頭痛の程度を緩和することも分かりました。短期的に頭痛を緩和する効果があるために、ネガティブな反復思考はさらに持続するようになり、長期的にはより頭痛の程度を悪化させるというメカニズムが考えられます。

 

今後の展開

 ネガティブな反復思考は、頭痛を悪化させることが分かったため、反復思考を低減させる心理療法(例:向井・杉浦、2022)は、頭痛の緩和にも有効であろうと考えられます。繰り返し鎮痛薬を用いることで頭痛が慢性化することも知られているため、薬物を用いない治療は有望です。さらに、反復思考が少なくとも短期的には頭痛を緩和することが見いだされたことから、「考えごと」をうまく用いることで頭痛に対処するという可能性も考えられます。人は起きている時間の約半分は「心ここにあらず」の状態で、何らかの考えごとにふけっていることが知られています(反復思考も考えごとの一種です)。考えごとがうまくはたらく条件も見いだされつつあるため(Sugiura & Sugiura, 2020)、手軽な頭痛への対処につながるかもしれません。

参考資料

向井秀文・杉浦義典 (2022). 考え続ける義務感の低減をターゲットとしたメタ認知療法の効果検証 パーソナリティ研究、 31, 137-147.

Sugiura, Y., & Sugiura, T. (2020). Relation between daydreaming and well-being: Moderating effects of otaku contents and mindfulness. Journal of Happiness Studies, 21, 1199-1223.

【お問い合わせ先】

 大学院人間社会科学研究科 准教授 杉浦義典
 Tel:082-424-6573
 E-mail:ysugiura*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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