大学院人間社会科学研究科 准教授 杉浦 義典
Tel:082-424-6573 FAX:082-424-0759
E-mail:ysugiura*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
広島大学大学院人間社会科学研究科の杉浦義典准教授と日本学術振興会の杉浦知子特別研究員の研究グループは、「若者の消費離れ」と幸福感の関連を明らかにしました。大学生269人を対象とした調査の結果、パチンコやゴルフなど昔ながらの活動にお金をかけない大学生ほど幸福感が高いことが示されました。一方で、映画や旅行など、若者にも魅力的な活動にお金をかけない大学生ほど幸福感が低いことが分かりました。
本研究成果は、2023年4月1日に科学誌「Psychological Studies」にオンライン掲載されました。
【背景】
若者の消費離れという言葉が、2010年頃から聞かれるようになりました。2017年に消費者庁の公表した「消費者白書」によれば、1984年から2014年にかけて若者の消費は減少しています。一方、早稲田大学の小塩真司教授らの研究チームは、1980年から2013年にかけて、日本の若者の自尊心が低下していることを報告しました。これをみると、消費が低下すると幸福も低下するようにもみえます。しかし、消費離れと幸福との関連を直接検証した研究はありませんでした。
この研究では、大学生を対象に、消費離れと幸福感の関連を調べました。消費行動に関する理論からは、消費離れと幸福感の関連について相反する仮説が導けます。
【研究成果の内容】
その人がどのようなものにお金をかけているかを測定するアンケートを作成し、269人(女性171名、男性98名)の大学生を対象とした調査を行いました。若者という集団全体の幸福感ではなく、若者の中でも消費をする人としない人とで幸福の度合いを比較することで、例えば少子高齢化のような若者をとりまく他の要因ではなく、消費そのものと幸福感との関連が明確になると考えたためです。
日本の若者が消費しなくなったとされる対象を53項目提示して、それぞれにお金を使っている度合いを、1:「全くお金を使っていない」から7「非常に多くのお金を使っている」の7段階で答えてもらいました。得点を出す時には、高得点になるほどお金を使わないこと(消費離れ)を示すように換算しました。
調査に参加した大学生の回答を因子分析という統計手法を用いて解析したところ、消費離れの対象は、パチンコやゴルフなど「昔ながら」の活動と、映画や旅行など「若者にも魅力的」な活動とに分かれることが分かりました。この2種類について、消費離れと幸福感との関連をみると次のことが分かりました。
今回の研究では、「若者にも魅力的」な活動にお金をかけない人は、他の人が何を考えているかに興味が低いことも分かりました。これも、好奇心の低さが幸福感を低下させるという解釈と整合しています。
幸福には、楽しい気分というだけでなく、自分の可能性を最大限発揮しつつある実感という側面もあります。今回、消費離れは、主に後者の幸福感と関連が見られました。例えば、「昔ながらの」活動への支出の少ない人は、「私は、新しい経験を積み重ねるのが、楽しみである(人格的成長)」、「私は、あたたかく信頼できる友人関係を築いている(積極的な他者関係)」といった質問で測定されるような幸福感が高いことが分かりました。
【今後の展開】
この研究の結果から、色々工夫したり、DIYをしながら、楽しんで倹約することは幸福感を高めると言えるでしょう。一方、好奇心や興味を満たすことには、お金をかけることが有益でしょう。今回のデータでは、昨今の「Z世代」と呼ばれる若者の特徴は調べられていませんが、好奇心が幸福を高めるというメカニズムは時代を経ても変わらない傾向だと思われます。
図1 2種類の消費離れと幸福感(人格的な成長)の関連
「昔ながらの」活動への支出が少ないほど(横軸で右に行くほど)、幸福感が高い。「若者にも魅力的」な活動への支出が多い(グラフの実線)、幸福感が高い。
大学院人間社会科学研究科 准教授 杉浦 義典
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掲載日 : 2023年04月05日
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