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【研究成果】消費しない若者はむしろ幸福かもしれない-消費離れの個人差と幸福との関連を実証-

本研究成果のポイント

  • パチンコ、相撲、自動車などにお金をかけない(消費しない)大学生の方が、お金をかける(消費する)学生よりも幸福感が高いことが分かりました
  • 映画や旅行などにお金をかけない大学生の方では、逆に幸福感が低いことが分かりました

 

概要

 広島大学大学院人間社会科学研究科の杉浦義典准教授と日本学術振興会の杉浦知子特別研究員の研究グループは、「若者の消費離れ」と幸福感の関連を明らかにしました。大学生269人を対象とした調査の結果、パチンコやゴルフなど昔ながらの活動にお金をかけない大学生ほど幸福感が高いことが示されました。一方で、映画や旅行など、若者にも魅力的な活動にお金をかけない大学生ほど幸福感が低いことが分かりました。
 本研究成果は、2023年4月1日に科学誌「Psychological Studies」にオンライン掲載されました。

論文情報

  • 論文タイトル
    Consumption Aversion in Japanese Students: Factor Structure and Correlations with Well-being
  • 著 者
    杉浦義典1、杉浦知子2
    1. 広島大学大学院人間社会科学研究科
    2. 日本学術振興会
  • 掲載雑誌
    Psychological Studies
  • DOI 番号
    DOI: 10.1007/s12646-023-00717-7

発表内容

【背景】
 若者の消費離れという言葉が、2010年頃から聞かれるようになりました。2017年に消費者庁の公表した「消費者白書」によれば、1984年から2014年にかけて若者の消費は減少しています。一方、早稲田大学の小塩真司教授らの研究チームは、1980年から2013年にかけて、日本の若者の自尊心が低下していることを報告しました。これをみると、消費が低下すると幸福も低下するようにもみえます。しかし、消費離れと幸福との関連を直接検証した研究はありませんでした。
 この研究では、大学生を対象に、消費離れと幸福感の関連を調べました。消費行動に関する理論からは、消費離れと幸福感の関連について相反する仮説が導けます。

  • 仮説1:消費離れは幸福感を高める
    節約やシンプルライフといわれる生活スタイルは、倹約をしたり、持ち物を修理したり、自分のスキルを向上させることで幸福感を高めることが知られています。逆に、自分の持ち物でステータスを誇示する物質主義(マテリアリズム)という傾向は、幸福感を下げてしまうことが分かっています。消費離れは、節約やシンプルライフに近く、物質主義とは逆のものであれば、幸福感を高めるでしょう。
  • 仮説2:消費離れは幸福感を低める
    興味や好奇心は幸福感を高めることが知られています。消費離れが、色々なものへの興味の喪失を反映しているなら、幸福感は下がるでしょう。

【研究成果の内容】
 その人がどのようなものにお金をかけているかを測定するアンケートを作成し、269人(女性171名、男性98名)の大学生を対象とした調査を行いました。若者という集団全体の幸福感ではなく、若者の中でも消費をする人としない人とで幸福の度合いを比較することで、例えば少子高齢化のような若者をとりまく他の要因ではなく、消費そのものと幸福感との関連が明確になると考えたためです。
 日本の若者が消費しなくなったとされる対象を53項目提示して、それぞれにお金を使っている度合いを、1:「全くお金を使っていない」から7「非常に多くのお金を使っている」の7段階で答えてもらいました。得点を出す時には、高得点になるほどお金を使わないこと(消費離れ)を示すように換算しました。
 調査に参加した大学生の回答を因子分析という統計手法を用いて解析したところ、消費離れの対象は、パチンコやゴルフなど「昔ながら」の活動と、映画や旅行など「若者にも魅力的」な活動とに分かれることが分かりました。この2種類について、消費離れと幸福感との関連をみると次のことが分かりました。

  • 「昔ながらの」活動にお金をかけない大学生の幸福感は高かった
    これは、「消費離れは幸福感を高める」という仮説1を支持する結果でした。物質主義を測定するアンケートも同時に実施しましたが、「昔ながらの」活動を消費しない度合いと、物質主義には相関がみられませんでした。つまり、この結果は物質主義によっては説明できないものでした。倹約を楽しむことで生まれるゆとりによって、幸福感が高まっていると考えられます。
     
  • 「若者にも魅力的」な活動にお金をかけない大学生の幸福感は低かった
    これは、「消費離れは幸福感を低める」という仮説2を支持する結果でした。映画や旅行などにお金をかけない人は、色々なことに無関心、無気力なのかもしれません。この可能性を検討するため、消費離れを測定するアンケートを、お金を使った度合いではなく、興味の度合いを尋ねる形に修正して、新たに大学生178人(女性103名、男性75名)に回答してもらいました(1「全く興味ない」から7「非常に興味がある」までの7段階)。その結果、「若者にも魅力的」な活動への「消費離れ」と「興味喪失」はどちらも同じように幸福感の低さと関連していました。やはり、「若者にも魅力的」な活動にお金をかけない人の幸福感が低いのは、色々なことに興味を失ったためと考えられます。

 今回の研究では、「若者にも魅力的」な活動にお金をかけない人は、他の人が何を考えているかに興味が低いことも分かりました。これも、好奇心の低さが幸福感を低下させるという解釈と整合しています。

 幸福には、楽しい気分というだけでなく、自分の可能性を最大限発揮しつつある実感という側面もあります。今回、消費離れは、主に後者の幸福感と関連が見られました。例えば、「昔ながらの」活動への支出の少ない人は、「私は、新しい経験を積み重ねるのが、楽しみである(人格的成長)」、「私は、あたたかく信頼できる友人関係を築いている(積極的な他者関係)」といった質問で測定されるような幸福感が高いことが分かりました。

【今後の展開】
 この研究の結果から、色々工夫したり、DIYをしながら、楽しんで倹約することは幸福感を高めると言えるでしょう。一方、好奇心や興味を満たすことには、お金をかけることが有益でしょう。今回のデータでは、昨今の「Z世代」と呼ばれる若者の特徴は調べられていませんが、好奇心が幸福を高めるというメカニズムは時代を経ても変わらない傾向だと思われます。

 

参考資料

図1 2種類の消費離れと幸福感(人格的な成長)の関連
「昔ながらの」活動への支出が少ないほど(横軸で右に行くほど)、幸福感が高い。「若者にも魅力的」な活動への支出が多い(グラフの実線)、幸福感が高い。

【お問い合わせ先】

 大学院人間社会科学研究科 准教授 杉浦 義典
 Tel:082-424-6573 FAX:082-424-0759
 E-mail:ysugiura*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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