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【研究成果】「COVID-19に関連した小児突然死の背景にある希少疾患の診断に成功」 ― 世界初の分子剖検によるLZTR1変異を有するNoonan症候群の診断例 ―

本研究成果のポイント

  • 基礎疾患が指摘されていなかったSARS-CoV-2 PCR陽性の未成年患者の剖検により、稀な冠動脈起始異常、小児B前駆細胞性急性リンパ性白血病の合併症を有するNoonan症候群が明らかになりました。
  • 分子剖検により、LZTR1遺伝子変異を有するNoonan症候群患者であることを特定しました。
  • LZTR1遺伝子変異を有するNoonan症候群の報告は少なく、今回の報告がこの遺伝子変異を有するNoonan症候群患者の病態解明の一助となることが期待されます。
  • 本報告は、突然死における分子剖検の意義を強調するものであり、剖検で全エクソームシークエンスを用いることにより、突然死の診断や予防などへの応用が期待できます。

 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 法医学分野の鵜沼香奈准教授ら、小児地域成育医療学講座の金兼弘和教授ら、人体病理学分野の山本浩平講師ら、広島大学 大学院医系科学研究科 小児科学の岡田賢教授らの研究グループは、昭和大学、東京大学、東京薬科大学、浜松医科大学、大阪母子医療センターとの共同研究で、分子剖検によりCOVID-19に関連した小児突然死の背景に、稀なLZTR1遺伝子変異を有するNoonan症候群があることをつきとめました。この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Frontiers in Immunologyに、2023年4月18日午前6時(英国夏時間)にオンライン版で発表されます。

発表内容

【研究の背景】
 Noonan症候群は、Ras/MAPKシグナル伝達経路※1にかかわる遺伝子の先天的な変異により、特徴的な顔貌、翼状頸、先天性心疾患、血液増殖性疾患、固形腫瘍などを示す先天症候群です。出生頻度は1,000〜2,500人に一人程度と比較的高い頻度と推定されていますが、臨床症状が多彩であり、診断されていない患者さんもおられると考えられ、実態は不明なところが多いことが指摘されています。
最近、全エクソーム検査(whole exome sequence; WES)※2によりユビキチン修飾関連分子であるLZTR1 (Leucine Zipper Like Transcription Regulator 1)変異※3がNoonan症候群と関連することが判明しましたが、現在までこの変異によるNoonan症候群患者は国内外で50例未満しか報告されておらず、遺伝子変異と臨床症状との関連などについては不明な点が多くあります。したがって、本遺伝子変異を有するNoonan症候群患者の正確な診断が、病態との関連性を知る上で重要な手がかりとなることが期待されています。また、臨床的にはWESによる網羅的遺伝子解析による診断が進んでいますが、剖検実務で導入している施設は皆無に等しいのが現状です。

【研究成果の概要】
 2019 年に始まった SARS-CoV-2によるCOVID-19感染症は瞬く間に全世界に拡大し、未成年も含め多くの感染者が発生しました。今回、これまで基礎疾患が指摘されていなかったSARS-CoV-2 PCR 陽性の未成年患者さんを剖検したところ、稀な冠動脈起始異常(図1)、小児B前駆細胞性急性リンパ性白血病(図2)を呈していました。WESによりユビキチン修飾関連分子であるLZTR1の変異が認められ、さらに専門医により、指定難病であるNoonan症候群の特徴的な外観が指摘されました。本研究では、LZTR1遺伝子変異を伴うNoonan症候群患者において、COVID-19感染、稀な冠動脈の起始異常、白血病という病態が複雑に絡み合っていることが明らかになりました。

図1 冠動脈分岐異常は無冠尖から左冠動脈起始がみられ、非常に稀なタイプでした(左)。左冠動脈の起始直後の血管は扁平化し、半周程の内膜肥厚を伴い内腔は狭窄傾向でした(右)。

図2 病理学的検索でB前駆細胞性急性リンパ性白血病と診断しました。

【研究成果の意義】
 今回、 LZTR1 遺伝子変異が同定され、白血病、稀な先天性心奇形を合併するNoonan症候群患者の法医剖検診断に世界で初めて成功しました。まだこの遺伝子変異を有するNoonan症候群患者の報告数は少ないですが、今回の報告が本遺伝子変異を有するNoonan症候群患者における病態との関連性を知る上で重要な手がかりとなることが期待されます。また、法医実務においてWESを導入している施設は皆無に等しいのが現状です。本件においても、多施設連携による分子剖検でNoonan症候群を疑うことができなければ、全く別個の複数病変を有する患者さんの死亡で片づけられ、本研究成果が世界に発信されることはありませんでした。本報告が、分子剖検の重要性に光が当たるきっかけになればと願っております。さらに、WESによる精度の高い剖検診断の結果は、同じ病に苦しむ患者さんの突然死の予防や生前の正確な診断にも発展できる可能性が示唆されると考えています。

用語解説

※1 Ras/MAPKシグナル伝達経路・・・・・・・・細胞の増殖・分化などをコントロールする細胞内情報伝達の根幹をなす伝達経路
※2全エクソーム検査(whole exome sequence; WES)・・・・・・・・すべてのエクソン領域を含む範囲をシークエンスするゲノム解析
※3 LZTR1 (Leucine Zipper Like Transcription Regulator 1)・・・・・・・・BTB-Kelchスーパーファミリーに属するタンパクをコードするがん抑制遺伝子

発表情報

掲載誌:Frontiers in Immunology
論文タイトル:Molecular Autopsy Underlie COVID-19-Associated Sudden, Unexplained Child Mortality

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
法医学分野 鵜沼 香奈(ウヌマ カナ)
E-mail:unumlegm*tmd.ac.jp

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
小児地域成育医療学講座 金兼 弘和(カネガネ ヒロカズ)
E-mail:hkanegane.ped*tmd.ac.jp

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
人体病理学分野 山本 浩平(ヤマモト コウヘイ)
E-mail:yamamoto.pth2*tmd.ac.jp

広島大学大学院医系科学研究科
小児科学 岡田賢(オカダ サトシ)
E-mail:sokada*hiroshima-u.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
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広島大学 広報室
〒739-8511 広島県東広島市鏡山1-3-2
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E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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