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【研究成果】居眠り運転事故直前でのマイクロスリープ(瞬眠)を検知~トラックドライバーのドライブレコーダー映像研究~

本研究のポイント

  • 実際にあったトラックドライバーによる居眠り運転事故のドライブレコーダー映像分析から、衝突直前の居眠りの実態はマイクロスリープ(別名;瞬眠)であることを明らかにしました。
  • トラックドライバーの居眠り運転事故は、一般道路では追突事故、高速道路では側面衝突事故が多く、年齢的には若年層、時間帯的には夕方・深夜・早朝に多い傾向がありました。
  • 今後、トラックドライバーの居眠り運転事故を防止するために、産学連携により得られたマイクロスリープ関連行動に関する今回の研究成果の活用が期待されます。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科睡眠医学講座・塩見利明寄附講座教授、熊谷元寄附講座准教授、川口健吾研究員及び同大学院人間社会科学研究科・林光緒教授らの研究グループは、実際にあった52件のトラックドライバーの居眠り運転事故を研究し、特に居眠り運転事故直前のドライブレコーダー映像の詳細な分析から、衝突直前の運転中の居眠りの実態がマイクロスリープであることを突き止め、その特徴を明らかにしました。
 1)居眠り運転事故直前1分間のトラックドライバーの行動および車両挙動を、2つのトラック車載カメラからドライブレコーダーに録画された車内と車外の映像を同時に1秒ごとに分析した結果、マイクロスリープはトラックドライバーの居眠り運転事故直前に頻発していました。
 2)ドライブレコーダー映像分析からマイクロスリープ関連行動は、①抗眠気行動、②マイクロスリープ行動兆候、③車両挙動異常の3種類に分類され、それらが衝突事故に至るまで経時的に変化する過程が明らかになりました。
 3)トラックドライバーの居眠り運転事故は、一般道路では追突事故、高速道路では側面衝突事故が多く、年齢的には若年層、時間帯的には夕方・深夜・早朝に多い傾向がありました。
 本研究から、トラックドライバーの運転中の居眠りの実態はマイクロスリープであることが判明しました。実際の居眠り運転事故に関してドライバーとトラックをドライブレコーダー映像で同時に分析した研究論文は未だにありません。そのため、マイクロスリープについては更なる学際的研究を必要としますが、将来的には、トラックドライバーの居眠り運転事故を防止するために、産学連携により得られたマイクロスリープ関連行動に関する今回の研究成果の活用が期待されます。
本研究の成果は、2023年4月12日に国際学術雑誌「Accident Analysis and Prevention」に掲載されました。

論文情報

<発表論文タイトル>
Dashcam video footage-based analysis of microsleep-related behaviors in truck collisions attributed to falling asleep at the wheel

<著者>
Hajime Kumagai1,*, Kengo Kawaguchi1, Hiroyuki Sawatari1, Yuka Kiyohara1, Mitsuo Hayashi1, and Toshiaki Shiomi1 
1:広島大学大学院医系科学研究科
*: 責任著者

<掲載雑誌>
Accident Analysis and Prevention 187 (2023) 107070
https://doi.org/10.1016/j.aap.2023.107070

背景

 トラックドライバーの居眠り運転による事故は、人的・物的被害が甚大なことが多く、その事故の深刻さと死亡リスクから社会的に大きな関心事となっています。トラックにおいても衝突被害軽減ブレーキ(AEB)、車線逸脱抑制装置などの安全支援装置は年々進化していますが、居眠り運転事故の防止には至っていません。
 マイクロスリープ(別名:瞬眠)とは15秒未満の短い睡眠です。マイクロスリープの評価において、実際の運転中に脳波電極を装着しマイクロスリープを評価することは困難であり、運転シミュレーションでは実際にあった衝突事故での運転パフォーマンスに対するマイクロスリープの影響を正確に反映しない可能性があるなどの課題があります。また、これまでの研究の多くは、運転シミュレーションや顔のサンプル映像等を用いて眠気を評価、あるいはドライバーの目や顔のような局所や車両挙動のみを映像で評価しており、私たちの研究で行ったような実際にあった衝突事故のドライブレコーダー映像を用いて居眠り運転事故を包括的に分析した研究論文は未だにありません。
 そこで私たちは、トラックドライバーの居眠り運転事故の実態を解明するため、実際に起こった衝突事故直前のドライブレコーダー映像を用いて睡眠医学及び行動科学の立場から学際的な研究を行いました。

研究成果の内容

 2016年4月から2021年3月までにA社で発生したトラックによる居眠り運転事故のうち、車載カメラからドライブレコーダーに記録された衝突事故直前1分間の映像(車内カメラ[ドライバー全身像]及び車外カメラ[車両前方映像])が残存していた52件を対象としました。52件の事故は、全例男性ドライバー、一般道路での事故33件、高速道路での事故19件、日勤帯での事故24件、夜勤帯での事故28件でした。それらのドライブレコーダー映像からドライバーの行動と車両挙動を同時に1秒ごとに分析したところ、マイクロスリープは居眠り運転事故直前に頻発していました。さらにマイクロスリープ関連行動は、①抗眠気行動、②マイクロスリープ行動兆候、③車両挙動異常の3つに分類され、それらは一般道路でも高速道路でも、「ドライバーの抗眠気行動の増加(第1段階)」、「眠気が強まり抗眠気行動が減少(第2段階)」、「マイクロスリープ行動兆候の増加(第3段階)」、「車両挙動異常の急増(第4段階)」、そして「衝突(第5段階)」と段階的に変化する過程が明らかになりました(表1、図1)。また、トラックドライバーの居眠り運転事故は、一般道路では追突事故、高速道路では側面衝突事故(特に左側)が多く、年齢的には若年層、時間帯的には夕方・深夜・早朝に多い傾向がありました。

今後の展開

 本研究から、マイクロスリープは居眠り運転事故直前に頻発することが判明しました。マイクロスリープ関連行動は段階的に変化する特徴があることから、トラックドライバーの全身像と車両挙動を同時にモニタリングすることが重要です。今後、トラックドライバーの居眠り運転事故を防止するために、産学連携により得られたマイクロスリープ関連行動に関する今回の研究成果の活用が期待されます。

研究支援

 当睡眠医学講座は、福山通運株式会社による寄附講座です。

用語解説

1.マイクロスリープ(瞬眠):15秒未満の短い睡眠

表1:衝突事故直前1分間のマイクロスリープ関連行動の分類と頻度

図1:一般道路、高速道路におけるマイクロスリープ(瞬眠)関連行動の経時的変化

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科 睡眠医学講座 片山絵美子 熊谷元
Tel:082-257-1922 FAX:082-257-1922
E-mail:emikok*hiroshima-u.ac.jp(片山)
kumaguy88*hiroshima-u.ac.jp(熊谷)

 (*は半角@に置き換えてください)

 


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