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【研究成果】カエルの樹上性の起源を、現在のカエルの指先にある特殊な骨の発生過程から検証

概要

 本学が実施していた「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)広島(※)」のプログラムとして、広島大学理学部4年生の中西 健介さん(2017年度の研究開始時は近畿大学附属広島高等学校東広島校に在籍)が広島大学両生類研究センター田澤 一朗助教の協力を得て始めたカエルの研究が、国際学術雑誌「Development, Growth & Differentiation」第65巻2号(2023年2月)に掲載されました。

 カエルの中には、すべての指の第1関節に「intercalary element」(IE) と呼ばれる独特の骨格要素を持つ種があります。IE は通常の指骨とは明らかに異なる形状をしており、指先に吸盤を持つことと相関があります。IE は現生のカエル類の系統に広く分布していますが、これら複数の系統に見られるIEが収斂進化によってもたらされたものか、共通の祖先組織に由来するかはこれまでに不明です。
 そこで本研究では、遠縁の2種の間でIEの発生過程を比較することで両者の相同性を考察することにしました。用いたのは、本邦産のニホンアマガエルとシュレーゲルアオガエルです。両種のIEはオタマジャクシ幼生の時期に形成され始め、そのときのIEが現れ始めた部位は同じであり、またその部位の周辺の組織の分化程度は同じでした。この結果は、両種の指において、同様のメカニズムでIEが形成されていることを示唆しており、IEが収斂的に進化したのではないという仮説を支持するものです。

(※)国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による支援を受けて実施

社会的背景及び今後の展開

 IEについては19世紀に最初の文献記載があり、多様なIEが広範な系統から発見されています。これらのIEがもし共通祖先に由来するなら、現生のカエルの9割の種は進化過程の初めは樹上性だったことになる可能性が高く、自然史学におけるインパクトは大きなものがあります。
 しかし、各系統のIEの相同性については、ほとんど研究されてきませんでした。多くのカエルはアマガエル上科か、アカガエル上科に属し、そのどちらにもIEを持つ種が存在します。ところが、IEを持つアカガエル上科の種は欧米には生息しておらず、そのことがアマガエル上科とアカガエル上科のIEの発生過程を比較するタイプの研究を妨げてきたと考えられます。
 一方、本研究グループの活動の中心である両生類研究センターのある地域は、アマガエル上科のニホンアマガエルとアカガエル上科のシュレーゲルアオガエル等の両系統が生息するため、この研究分野をリードするのに有利です。実際に本研究はアマガエル上科とアカガエル上科のIEの発生過程を世界で初めて比較したものです。
 IEの存在は、既存の骨と骨との間に全く新しい骨格要素を進化させるポテンシャルが脊椎動物に存在することを示すため、本研究は脊椎動物の過去未来の進化を考察する上での基礎研究であると同時に、骨間組織から自在な形状の硬組織を作り出す組織工学という応用分野創造に貢献する可能性があります。

論文情報

  • 掲載誌: Development, Growth & Differentiation
  • 論文タイトル: Osteological and histological comparison of the development of the interphalangeal intercalary skeletal element between hyloid and ranoid anurans
  • 著者名: Kensuke Nakanishi, Nao Hasegawa, Koichi Takeo, Keisuke Nakajima, Nobuaki Furuno, Ichiro Tazawa* 
    * Corresponding author(責任著者)
  • DOI: https://doi.org/10.1111/dgd.12844
【お問い合わせ先】

両生類研究センター
助教 田澤 一朗
Tel:082-424-4617
E-mail:itazawa*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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