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【研究成果】パラリンピック競技大会のブラインドサッカー1試合あたり52件もの頭部接触が生じていることが判明~東京パラリンピック競技大会の映像分析による調査〜

本研究成果のポイント

  • 東京2020パラリンピック競技大会のブラインドサッカーの試合を対象として、頭部接触状況やヘッドギア装着状況を映像分析した結果、1試合あたり50件を超える頭部接触が生じているにも関わらず、ヘッドギア装着率はたったの26%であったことが明示されました。
  • パラスポーツの怪我の予防に関する報告は、世界をみても非常に少なく、今後ブラインドサッカー競技の普及を進めていくうえでも重要な知見です。
  • 頭部接触は、危険な頭頚部の怪我に繋がる可能性があります。本研究はブラインドサッカー競技中の危険な怪我を予防するためにどのような取り組みが必要なのかを検討していく際に、基礎となる有用な情報です。

概要

  • 東京パラリンピック大会時のブラインドサッカー競技の公式映像18試合を分析して、頭部接触がどの程度、またどのような状況で生じているのかを詳細に調査しました。
  • 主な調査内容は、頭部接触の発生件数、ヘッドギア装着状況、頭部接触曝露、頭部接触状況(ラウンド、攻守状況、プレー状況、発生エリア、転倒の有無、頭部接触部位、接触対象)に関するものでした。
  • 転倒を伴うほどの激しい頭部接触は、ラウンド、攻守状況、プレー状況と関連していることが分かりました。
  • また、接触対象と頭部の接触部位に関連がみられることが明らかとなりました。
  • 本研究成果は2023年1月6日に「American Journal of Physical Medicine and Rehabilitation」に掲載されました。

論文情報

論文名:Head impact in blind football during the Tokyo Paralympics: Video-based observational study
著者:堤 省吾1、笹代純平2、前田慶明1、清水怜有2、鈴木 章2、福井一輝1、有馬知志1、田城 翼1、金田和輝1、吉見光浩1、水田良実1、石原萌香1、江崎ひなた1、土田晃貴1、寺田大輝1、小宮 諒1、浦邉幸夫1*
1. 広島大学 大学院医系科学研究科 総合健康科学
2. 国立スポーツ科学センター スポーツメディカルセンター
* 責任著者
掲載雑誌:American Journal of Physical Medicine and Rehabilitation
DOI:10.1097/PHM.0000000000002187

研究成果の内容

 本研究では、東京パラリンピック大会中のブラインドサッカー競技の全18試合としました。本研究のアウトラインを図1に示します。試合映像を分析するにあたり、頭部接触は「頭部(顔面含む)と何らかとの突発的な接触」と定義しました。本調査では、頭部接触件数のほかに、ヘッドギア装着率、頭部接触曝露(選手1名が1試合に出場する単位をAthlete-Exposure:AEとし、AEあたりどのくらい頭部接触が生じているのかを数値化したもの)、頭部接触状況の詳細を8項目から分析しました。
 まず、頭部接触件数は全試合を通じて940件も発生していました。ヘッドギア装着率は26.4%、頭部接触曝露は4.16/AEでした。ヘッドギアの装着は、頭部保護として重要な役割を担うとの報告もあります。それにもかかわらず約1/4に留まったことは、選手やコーチがヘッドギアの有効性を十分に知らない、もしくは期待していない可能性が考えられます。今後はヘッドギアの改良や効果検証を繰り返すと同時に、現場の方々への啓蒙活動が必要になると予測されます。また今回算出された頭部接触曝露は、健常のサッカー選手を対象とした先行研究より高い結果となりました。 
 また、転倒を伴うか否かで頭部接触の状況を比較したところ、転倒を伴うほどの頭部接触は、予選ラウンド、攻撃時、ドリブル中に多いことが示されました(表1)。さらに、頭部接触部位と接触対象の間にも関連があり、敵との接触では顔面が、味方とは前頭部を、設備とは後頭部を接触する割合が高いことが明らかとなりました(表2)。
 これらの結果から、ブラインドサッカーの試合中に生じる度重なる頭部接触を見過ごすことなく、防げる接触は防ぎ、可能な限り怪我の予防のために対策を講じる必要性が考えられました。

今後の展開

 本研究によってブラインドサッカー競技中に、頭部接触は1試合あたり52回、1分あたり1.3回もの頻度で生じており、我々の当初の予想を遥かに超える現状が浮き彫りになりました。この知見が今後頭部傷害の予防策を講じる際に、役立ててもらえることを期待します。そして我々は、ブラインドサッカーは勿論のこと、パラアスリートがスポーツによって怪我をしにくい環境や医療を提供すべく、研究を続けていきます。

調査実施の背景

 ブラインドサッカーは視覚障がいを持つアスリートが行うパラリンピック競技です。ブラインドサッカーは、視覚障がいによる見えにくさが最も強いクラスに該当するアスリートが、アイマスクを装着した状態で行います(ゴールキーパーは除く)。視覚情報が完全に断たれた状態でサッカーを実施するため、パラスポーツのなかでも怪我の発生が多い競技として知られています。頭部接触の予防策を検討する情報を得るため、実際の試合映像を分析し、試合中に発生する頭部接触にどのような特徴があるのか、調査しました。

参考資料

図1 本研究のアウトライン

表1 転倒の有無別の頭部接触の特徴の違い

表2 頭部接触部位と接触対象の関係について

【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 大学院生 堤 省吾
Tel:082-257-5413
E-mail:shogo-tutumi*hiroshima-u.ac.jp

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 准教授 前田慶明
Tel:082-257-5410
E-mail:norimmi*hiroshima-u.ac.jp

広島大学大学院医系科学研究科 スポーツリハビリテーション学 教授 浦邉幸夫
Tel:082-257-5405
E-mail:yurabe*hiroshima-u.ac.jp

 (*は半角@に置き換えてください)

 


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