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  • 【研究成果】西アフリカ・ブルキナファソの農村地域では、妊婦の15人に1人がB型肝炎ウイルス(HBV)に 感染しており、その2割は血中ウイルス量が多くHBV母子感染リスクが高い状態であることが判明

【研究成果】西アフリカ・ブルキナファソの農村地域では、妊婦の15人に1人がB型肝炎ウイルス(HBV)に 感染しており、その2割は血中ウイルス量が多くHBV母子感染リスクが高い状態であることが判明

研究成果のポイント

  • B型肝炎ウイルス(HBV)の主な感染経路の一つに母子感染があり、WHOをはじめ世界ではHBVの母子感染防止に取り組んでいます。
  • アフリカはHBV感染率が高い地域ですが、妊娠中の女性のHBV感染に関する疫学資料が不足しています。
  • 今回、広島大学の国際共同研究グループは、大規模な疫学調査を西アフリカ・ブルキナファソの現地医療機関において実施し、同国の妊婦の15人に1人がHBVに感染しており、その2割は血中ウイルス量(※1)が多くHBV母子感染リスクが高い状態であることが判明しました。また、治療が必要なHBV妊婦を判断する基準について、更なる検討が必要あることを指摘しました。
  • 研究チームでは、妊婦への抗ウイルス治療および児へのワクチン接種によって母子感染を防止できたかどうかを含め、今後解析する予定です。

概要

  • 広島大学大学院医系科学研究科 OUOBA Serge氏(博士課程)、Ko Ko育成助教、杉山文講師、田中純子特任教授らの国際共同研究グループは、西アフリカに位置するブルキナファソの研究機関であるInstitute of Research in Health Sciences Regional Directory of Centre-West(IRSS)と協力し、現地の医療機関(3施設)において、妊婦およびその出生児を対象としたHBV感染状況に関する血清疫学調査研究を実施し、1,622人の妊婦が調査に参加しました。乾燥濾紙血法(Dried Blood Spot: DBS)(※2)を用いて血液サンプルを採取し、広島大学において解析しました。
  • その結果、妊婦の6.5%(106/1,622)がHBVに感染しており、その約2割は血中ウイルス量が多く、HBV母子感染のリスクが高い状態であることが明らかになりました。
  • 世界保健機関(WHO)のHBV母子感染防止ガイドライン1では、HBV感染妊婦の血中ウイルス量が高値(> 200,000 IU / mL)であった場合、抗ウイルス療法が推奨されています。しかし、ウイルス量は設備や技術的な制限により測定できない場合があり、HBe抗原(※3)を代替指標として用いることも可能とされています。本研究では、西アフリカの主要感染株であるHBV 遺伝子型 E(※4)においては、HBe抗原を治療適応判定に用いた場合、約半数の治療適応者を除外する可能性があることを初めて示唆しました。
  • 本研究成果は、ブルキナファソにおけるHBV母子感染防止戦略立案のための基礎資料として、役立てられることが期待されます。
  • 本研究は、厚生労働科学研究費補助金肝炎等克服政策研究事業「肝炎ウイルス感染状況の把握及び肝炎ウイルス排除への方策に資する疫学研究」、日本学術振興会研究拠点形成事業Bアジア・アフリカ学術基盤形成型「SDGs目標B型肝炎ウイルス排除を目指す若手疫学研究者国際連携ネットワーク形成」の支援を得て行われました。
  • 本研究成果は、2023年4月14日に国際科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

論文情報

  • 掲載誌:Scientific Reports
    論文タイトル:Intermediate hepatitis B virus infection prevalence among 1622 pregnant women in rural Burkina Faso and implications for mother-to-child transmission
    著者名: Serge Ouoba1,2, Ko Ko1, Moussa Lingani2, Shintaro Nagashima1, Alice N. Guingané3, E. Bunthen1,4, Md Razeen Ashraf Hussain1, Aya Sugiyama1, Tomoyuki Akita1, Masayuki Ohisa1, Moussa Abdel Sanou2, Ousmane Traore2, Job Wilfried Nassa2, Maimouna Sanou2, Kazuaki Takahashi1, Halidou Tinto2, Junko Tanaka1*
     1. 広島大学大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学 
     2. Unité de Recherche Clinique de Nanoro (URCN), Institut de Recherche en Science de la Santé (IRSS), Nanoro, Burkina Faso 
     3. Unite de Formation Et de Recherche en Sciences de la Sante, Universite Joseph Ki-Zerbo, Ouagadougou, Burkina Faso 
     4. Payment Certification Agency (PCA), Ministry of Health, Phnom Penh, Cambodia 
     *  Corresponding author(責任著者)
    ・DOI : https://doi.org/10.1038/s41598-023-32766-3

背景

 B型肝炎ウイルス(HBV)の慢性感染は、肝硬変や肝癌の原因となります。HBV高浸淫地域では、母子感染が主なHBVの伝播経路となるため、その実態把握と対策が求められます。
 われわれの国際共同研究グループでは、ブルキナファソ農村部における5歳未満の子どもを持つ母親のHBV感染率が6.3%と高値であり、母子感染の潜在的なリスクを有することを、これまでの研究から明らかにしています2。しかし、同国では妊婦のHBVスクリーニング検査は未導入であり、また、ウイルス遺伝子解析を含むHBV研究の資源も限られていることから、妊娠中の女性のHBV感染に関する疫学資料が不足しています。
 本研究では、発展途上国における血清疫学研究に有用な乾燥濾紙血法(Dried Blood Spot: DBS)(※2)2,3,4を利用し、同国農村部の妊婦集団を対象にHBV感染状況とHBV母子感染の高リスク妊婦(高ウイルス量)の割合、および治療適応となるウイルス量の代替指標としてのHBe抗原(※3)の有用性について検討することを目的としました。

研究成果の内容

  • 2021年2月から11月の期間に、ヤコ地域の3医療機関で妊婦健診を受けた全妊婦のうち同意を得た1,622人を対象に、HBs抗原(※5)迅速診断検査を実施し、陽性の場合には乾燥濾紙法(DBS)を用いた血液検体採取を行いました。
  • 迅速診断血液検査の結果、妊婦の6.5%(106/1,622)がHBVに感染していることがわかりました。これは、2018年に実施した調査結果(6.3%)2と同水準でした。
  • DBS検体の分析は106検体中102検体で実施可能でした。HBs抗原陽性例のうちHBe抗原陽性は22.6%であり、年齢が高いほどHBe抗原陽性率は低い傾向がみられました(図1)。
  • HBVウイルス量を定量化できた妊婦94人のうち、18人(19.1%)は200,000IU/mL以上の高ウイルス量を有しており、HBV母子感染の潜在リスクが高い状態であることが明らかになりました(図2)。
  • HBV遺伝子分析の結果、遺伝子型はE型(58.7%)とA型(36.5%)が主流であり、アフリカにおける過去の報告2と同様でした。
  • 世界保健機関(WHO)が定めた抗ウイルス剤予防投与のカットオフ値である200,000 IU/mL以上のウイルス量を判定するために、HBe抗原測定系を代替で用いた場合の精度をHBV遺伝子型別にみたところ、ブルキナファソを含む地域等において主流の遺伝子型Eではその感度が53.8%にとどまっており、治療対象とすべきウイルス量の多い妊婦を除外する可能性があることを、初めて示唆しました。 

今後の展開

 本研究は、HBVの主要流行株が遺伝子型Eである国・地域では、ウイルス量定量検査の代替としてHBe抗原を使用すると、治療対象とすべき妊婦を除外してしまう可能性があることを明らかにしました。ウイルス量定量検査は発展途上国においては実施できない場合があり、妊婦に対する抗ウイルス治療の必要性を判断するための新たな基準の検討が必要です。
 本研究では、HBVに感染している妊婦に対し、ブルキナファソの診療ガイドラインに従って出産3か月前から出産後3か月までの期間抗ウイルス治療を受けられるよう、支援しました。出生した児に対しては、WHOが推奨する感染予防策として出生24時間以内のHBワクチン接種が行われています。
 研究チームでは、HBV感染妊婦とその児に対し、出産後6か月まで追跡調査を行っています。妊婦への抗ウイルス治療および児へのワクチン接種によって母子感染を防止できたかどうかを含め、今後解析する予定です。

用語説明

※1 ウイルス量:血液中のHBVウイルス量を測定する。妊婦のHBVウイルス量が200,000 IU/mL以上の場合には、母子感染のリスクが高いとされる。
※2 乾燥濾紙血法(Dried Blood Spot: DBS):濾紙に数滴の血液を吸収させ、その後乾燥させることによって検体を取得し、分析する方法。検体採取が簡便で、ウイルス遺伝子解析などが可能であることから、発展途上国での血清疫学調査研究において特に有用性が高い。 
※3 HBe抗原: 陽性であれば一般にHBVの増殖力が強いことを示す
※4 ウイルス遺伝子型:遺伝子レベルでの分類。HBVはA型からJ型まで10種類の遺伝子型が同定されており、地域特異性や、臨床経過に違いがあることが知られている。
※5  HBs抗原: 陽性であればB型肝炎ウイルス(HBV)に感染している

<脚注>
1. World Health Organization. Prevention of Mother-to-Child Transmission of Hepatitis B Virus: Guidelines on Antiviral Prophylaxis in Pregnancy. 1-58, 2020
2. Lingani M, Akita T, Ouoba S, Nagashima S, Boua PR, Takahashi K, Kam B, Sugiyama A, Nikiema T, Yamamoto C, Somé A, Derra K, Ko K, Sorgho H, Tarnagda Z, Tinto H, Tanaka J. The Changing Epidemiology of Hepatitis B and C Infections in Nanoro, Rural Burkina Faso : A Random Sampling Survey. BMC Infectious Diseases, 20:46, 2019
3. Yamamoto C, Nagashima S, Isomura M, Ko K, Chuon C, Akita T, Katayama K, Woodring J, Hossain MS, Takahashi K, Tanaka J. Evaluation of the efficiency of dried blood spot-based measurement of hepatitis B and hepatitis C virus seromarkers. Scientific Reports, 10:3857, 2020
4. E B, Ko K, Nagashima S, Ouoba S, Hussain MRA, Sugiyama A, Akita T, Ohisa M, Chuon C, Mao B, Hossain MS, Ork V, Tanaka J. Dried blood spot‐based detection of serological profiles of hepatitis B and C infections and their prevalence in Cambodia. GastroHep, 3(4):247-253, 2021

【お問い合わせ先】

広島大学 大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学

Tel:082-257-5160 FAX:082-257-5164

E-mail:eidcp *hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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