広島大学 大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
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B型肝炎ウイルス(HBV)の慢性感染は、肝硬変や肝癌の原因となります。HBV高浸淫地域では、母子感染が主なHBVの伝播経路となるため、その実態把握と対策が求められます。
われわれの国際共同研究グループでは、ブルキナファソ農村部における5歳未満の子どもを持つ母親のHBV感染率が6.3%と高値であり、母子感染の潜在的なリスクを有することを、これまでの研究から明らかにしています2。しかし、同国では妊婦のHBVスクリーニング検査は未導入であり、また、ウイルス遺伝子解析を含むHBV研究の資源も限られていることから、妊娠中の女性のHBV感染に関する疫学資料が不足しています。
本研究では、発展途上国における血清疫学研究に有用な乾燥濾紙血法(Dried Blood Spot: DBS)(※2)2,3,4を利用し、同国農村部の妊婦集団を対象にHBV感染状況とHBV母子感染の高リスク妊婦(高ウイルス量)の割合、および治療適応となるウイルス量の代替指標としてのHBe抗原(※3)の有用性について検討することを目的としました。
本研究は、HBVの主要流行株が遺伝子型Eである国・地域では、ウイルス量定量検査の代替としてHBe抗原を使用すると、治療対象とすべき妊婦を除外してしまう可能性があることを明らかにしました。ウイルス量定量検査は発展途上国においては実施できない場合があり、妊婦に対する抗ウイルス治療の必要性を判断するための新たな基準の検討が必要です。
本研究では、HBVに感染している妊婦に対し、ブルキナファソの診療ガイドラインに従って出産3か月前から出産後3か月までの期間抗ウイルス治療を受けられるよう、支援しました。出生した児に対しては、WHOが推奨する感染予防策として出生24時間以内のHBワクチン接種が行われています。
研究チームでは、HBV感染妊婦とその児に対し、出産後6か月まで追跡調査を行っています。妊婦への抗ウイルス治療および児へのワクチン接種によって母子感染を防止できたかどうかを含め、今後解析する予定です。
※1 ウイルス量:血液中のHBVウイルス量を測定する。妊婦のHBVウイルス量が200,000 IU/mL以上の場合には、母子感染のリスクが高いとされる。
※2 乾燥濾紙血法(Dried Blood Spot: DBS):濾紙に数滴の血液を吸収させ、その後乾燥させることによって検体を取得し、分析する方法。検体採取が簡便で、ウイルス遺伝子解析などが可能であることから、発展途上国での血清疫学調査研究において特に有用性が高い。
※3 HBe抗原: 陽性であれば一般にHBVの増殖力が強いことを示す
※4 ウイルス遺伝子型:遺伝子レベルでの分類。HBVはA型からJ型まで10種類の遺伝子型が同定されており、地域特異性や、臨床経過に違いがあることが知られている。
※5 HBs抗原: 陽性であればB型肝炎ウイルス(HBV)に感染している
<脚注>
1. World Health Organization. Prevention of Mother-to-Child Transmission of Hepatitis B Virus: Guidelines on Antiviral Prophylaxis in Pregnancy. 1-58, 2020
2. Lingani M, Akita T, Ouoba S, Nagashima S, Boua PR, Takahashi K, Kam B, Sugiyama A, Nikiema T, Yamamoto C, Somé A, Derra K, Ko K, Sorgho H, Tarnagda Z, Tinto H, Tanaka J. The Changing Epidemiology of Hepatitis B and C Infections in Nanoro, Rural Burkina Faso : A Random Sampling Survey. BMC Infectious Diseases, 20:46, 2019
3. Yamamoto C, Nagashima S, Isomura M, Ko K, Chuon C, Akita T, Katayama K, Woodring J, Hossain MS, Takahashi K, Tanaka J. Evaluation of the efficiency of dried blood spot-based measurement of hepatitis B and hepatitis C virus seromarkers. Scientific Reports, 10:3857, 2020
4. E B, Ko K, Nagashima S, Ouoba S, Hussain MRA, Sugiyama A, Akita T, Ohisa M, Chuon C, Mao B, Hossain MS, Ork V, Tanaka J. Dried blood spot‐based detection of serological profiles of hepatitis B and C infections and their prevalence in Cambodia. GastroHep, 3(4):247-253, 2021
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掲載日 : 2023年06月02日
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