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【研究成果】電力システムの分散発電を実現する分散制御アルゴリズム 〜発電だけでなく計算も分散化〜

研究成果のポイント

  • 小規模な発電設備を大量に併用する分散発電方式の実現に寄与
  • 計算を分散化することで、設備数に依存せず低計算コストで運用可能
  • プライバシー情報である電力使用量を保護
     

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の河野佑准教授、イタリア・パヴィア大学・工学部のMichele Cucuzzella助教、オランダ・フローニンゲン大学理工学部のJacquelien M.A. Scherpen教授からなる研究グループは、次世代電力システムの分散発電を実現する制御アルゴリズムの開発に成功しました。小規模な発電設備を大量に併用する分散発電方式は災害に強いという利点がありますが、運用には各発電設備の情報を1箇所に集約してから個々に指令を返す必要があり、運用には莫大な計算が要求されます。これを解決するために、個々の発電設備が近隣の情報から発電量を自律分散的に計算する運用方法を提案しました。
 本研究成果は、IEEE Control Systems Lettersのオンライン版に2023年6月5日付で掲載されました。
 

背景

 従来の電力システムでは、大きな発電所が需要者に電力を供給する集中発電方式を採用していましたが、その脆弱性が東日本大震災で浮き彫りとなりました。一方、近年では太陽光発電、蓄電池、電気自動車などによって、需要者側でも電力の発電・管理が可能となりつつあります。これらの設備を利用し、需要者も電力供給に協力する「分散発電方式」が新たな発電方式として世界的にも注目されています。しかしながら、その導入には、各需要者の需要量と発電量を1箇所に集約して発電量を管理する必要が出てきます。協力する需要者数が増えると発電所の負荷をより低減できますが、集約する情報が増大になり、計算が追いつかないという問題が出てきます。
 

図1:従来の発電方式

図2. 将来の発電方式

研究成果の内容

 近くの需要者と発電量を共有するだけで、個々の需要者が自律分散的に発電できる制御アルゴリズムを開発しました。システム制御分野の専門用語を用いますと、電力システムが持つ受動性と呼ばれる性質を利活用し、未知の需要量下で全発電機の発電量を一致させる分散制御アルゴリズムを設計したことになります。発電機の規模に応じて、発電比率を調整することも可能です。提案アルゴリズムでは各需要者の情報を一箇所に集約する必要がありませんので、協力する需要者数が増えても計算量はさほど増加しません。さらに、需要量を発電所に伝える必要がなくなりますので、電力の使用状況から在宅状況や生活リズムなどのプライバシー情報が漏洩するリスクを防ぐことにもつながります。
 

図3. 数値シミュレーションによる検証
(左)交流発電では決められた周波数(東側は50Hz、西側は60Hz)で電力を供給する必要があります。発電量を増やす時には発電機の性質上、上の図のように周波数が基準値からずれますが、その後に基準値に戻すことに成功し、発電機を安全に運用できています。また、下の図より、4つの発電機で均等に発電することで、必要な電力を補うことに成功しています。
(右)直流発電では決められた電圧(今回の場合は380ボルト)で電力を供給する必要があります。上の図のように発電量を増やすときには電圧が基準値からずれますが、平均的には規格電圧を守ることができていますし、個々の誤差も非常に小さく、発電機を安全に運用できています。また、下の図のように2つの発電機で均等に発電することで、必要な電力を補うことに成功しています。
 

今後の展開

 数値シミュレーションによって提案アルゴリズムの有効性は確認できましたので、実証実験を進めていく段階にきています。他方、提案アルゴリズムの基礎理論は受動性と呼ばれる様々な物理システムが有する性質に基づいています。そのため、上下水道や次世代型ヒートポンプシステムなど、その応用範囲のさらなる拡大が期待されます。
 

論文情報

タイトル:Krasovskii and shifted passivity based approaches to mixed input/output consensus
著者: Yu Kawano, Michele Cucuzzella, and Jacquelien M.A. Scherpen
掲載誌:IEEE Control Systems Letters
DOI:10.1109/LCSYS.2023.3282887
 

【お問い合わせ先】

河野 佑(かわの ゆう)
広島大学大学院先進理工系科学研究科 准教授
TEL: 082-424-7582
E-mail: ykawano*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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