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【研究成果】植物由来乳酸菌Lactobacillus plantarum SN13Tによるハッカエキス発酵液に新生する抗酸化物質と抗炎症物質の構造

本研究成果のポイント

  • 漢方薬の原料である薬用植物には、生体に機能的変化をもたらす配糖体、フェノール酸、フラボノイド、タンニンなどが含まれています。これらの生物活性物質の含有量を増やす方法として、安全性の担保された乳酸菌を利用しました。
  • バナナの葉から分離された乳酸菌Lactobacillus plantarum SN13Tを用いてハッカ(Mentha arvensis Linné var. piperascens Malinvaud)の熱水抽出液を発酵させると、抗酸化物質が新生することを見出し、その活性物質の化学構造を解析した結果、ジヒドロカフェ酸(Dihydrocaffeic acid:DHCA)であることが判明しました。
  • マクロファージ細胞RAW264.7をリポ多糖(lipopolysaccharide : LPS)で刺激する際に、1%になるようにハッカ発酵液を添加すると、細胞から放出される炎症性マーカーの発現量が強く抑制され、かつ、炎症性サイトカインをコードする遺伝子の発現も強く阻害されました。今回の研究によって、ハッカに含まれる抗酸化物質として知られるロスマリン酸からDHCAに変換される機序として、Lactobacillus plantarum SN13Tが産生する酵素であるcinnamoyl ester hydrolase及びhydroxycinnamate reductasesが重要な役割を果たすことを発見しました。

概要

 薬用植物は、漢方薬(生薬)の素材として広く使われています。大学院医系科学研究科 杉山 政則 未病・予防医学共同研究講座教授は、薬用植物が本来持つ薬効の機能を高めるとともに、新しい薬効を付与する発酵技術の開発を推進しています。その一貫として、各種薬用植物の抽出液にて植物由来乳酸菌(植物乳酸菌)を培養し、得られた発酵液の生物活性を評価しました。その成果として、ハッカ抽出液をSN13T株で発酵すると、抗酸化活性が著しく増強されたほか、LPSで刺激したRAW264.7マクロファージの産生する炎症性サイトカインの発現に対する阻害物質の存在が確認されました。ちなみに、ハッカには解熱,健胃(胃を丈夫にすること)のほか,鎮痛作用があります。炎症性サイトカインとは生体に炎症反応を引き起こす因子(タンパク質)のことです。
 本研究成果は、6月23日(金)に学術雑誌「Probiotics and Antimicrobial Proteins」に公開されました。

掲載論文

論文タイトル
Role of Phenolic Acid Metabolism in Enhancing Bioactivity of Mentha Extract Fermented with Plant-Derived Lactobacillus plantarum SN13T 

著者
Shakya Shrijana, Danshiitsoodol Narandalai, Masafumi Noda and Masanori Sugiyama*        
*: corresponding author

掲載雑誌
 Springer Nature の学術雑誌 Probiotics and Antimicrobial Proteins 電子版
https://doi.org/10.1007/s12602-023-10103-4 (IF=5.265) 

背景

 大学院医系科学研究科 杉山政則 未病・予防医学共同研究講座教授は、薬用植物、果物、野菜、花などから乳酸菌を探索分離し、既に1,200株を超える植物乳酸菌株保有しています。そして、興味深い生物活性物質を産生する乳酸菌株は全ゲノムを決定しています。
 薬用植物は未病および病気の治療薬として、太古の時代から使われています。薬用植物は、ポリフェノール、食物繊維、配糖体などの化合物を含んでいます。動物由来の乳酸菌は生薬エキス中で増殖できませんが、植物乳酸菌は良好に増殖します。また、同じ植物乳酸菌株でも、属(genus)や種(species)が違うと、二次代謝系遺伝子が異なることから、植物乳酸菌株を各種生薬エキスで培養し、その中で最も高い生物活性を示す乳酸菌と生薬エキスとの組み合わせを選び、その活性物質本体の化学構造を解析しました。

研究成果の内容

 Lactobacillus plantarum SN13Tを5%ハッカの水抽出液で培養し、得られた発酵液の機能性に関して重要な知見が得られました。具体的には、LPSで刺激したRAW264.7マクロファージにおける炎症性サイトカインの発現を誘導する際、未発酵薄荷エキスもしくは発酵エキスのいずれかを最終濃度0.5%または1%になるよう添加した結果、未発酵と比べ、発酵液の添加によって炎症性サイトカイン IL-1β, IL-6, TNF-αの発現量は有意に抑制されました。
 ハッカエキスには、配糖体、タンニン、ロスマリン酸などが豊富に含まれていますが、今回の研究成果として、Lactobacillus plantarum SN13Tを用いて得られたハッカエキス発酵液の総フェノール含量が明らかに増加しました。また、抗酸化物質の化学構造を解析した結果、「Dihydrocaffeic acid(DHCA)」であることが判明しました。加えて、ロスマリン酸からDHCAが産生されるメカニズムとして、SN13T株が産生する酵素cinnamoyl ester hydrolaseとhydroxycinnamate reductasesが重要であることを発見しました。

今後の展開

 薬用植物の中には、抗酸化機能や抗炎症作用が報告されているものがあります。これら物質の生物活性を高め、また新規機能性を持った分子を新生させるため、安全性の担保された植物乳酸菌を用いた生薬発酵技術は、創薬分野で注目される技術となり得ます。今後は病原性細菌やウィルスの感染によって誘発される炎症性疾患やサイトカインストームなどをターゲットとして、サイトカインストームを阻害する治療薬を開発することを目指します。

参考資料

図1. Lactobacillus plantarum SN13Tが産生する酵素が薄荷エキスに含まれるロースマリン酸をDHCAに変換する。
MA: 未発酵エキス;fMA+SN13T: Lactobacillus plantarum SN13T発酵系; fMA+LP28: Pediococcus pentosaceus LP28発酵液

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科 

未病・予防医学共同研究講座教授 杉山 政則

Tel:082-257-5280 FAX:082-257-5284

E-mail:sugi*hiroshima-u.ac.jp



(注: *は半角@に置き換えてください)


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