大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
講師 杉山 文
特任教授 田中 純子
Tel:082-257-5160 FAX:082-257-5164
E-mail:jun-tanaka*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
1 広島大学大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
2 広島市立舟入市民病院
3 Department of Hepatology, Scientific Research Institute of Virology, Ministry of Health of Uzbekistan, Tashkent, Uzbekistan
4 広島大学大学院医系科学研究科公衆衛生学
* 責任著者
COVID-19では治癒後にも罹患後症状(いわゆる後遺症)が認められる場合があり、後遺症症状によって生活の質が低下しうると報告されています。しかし、厚生労働省が作成した『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント』において、「COVID-19罹患後症状の国内における定義は現時点では定まっていない」、「その病態についてはいまだ不明な点が多い」と記されているように、その原因や病態はいまだ明らかになっていない現状です。
新型コロナウイルスでは、遺伝子の変異によって、元のウイルス(野生株)とは異なる性質をもつ変異株が多数出現しています。そのうち、VOC*1に指定されている一部の変異株は、感染性や病原性の増大、予防や治療手段の有効性の低下を引き起こすことが報告されていますが、変異株別の後遺症症状の特徴については十分明らかになっていません。COVID-19後遺症症状の特徴を明らかにすることは、疾患の理解を深め、後遺症を有する人々に対する医療および社会的支援の向上に寄与すると期待されます。
- 野生株流行期感染群:2020年3月-2021年2月に発症(67人)
- アルファ株流行期感染群:2021年3月-同年6月に発症(43人)
- デルタ株流行期感染群:2021年7月-同年11月に発症(100人)
- オミクロン株流行期感染群:2021年12月-2022年3月に発症(39人)
本研究の結果、COVID-19治癒後早期における後遺症症状は、感染時期や重症度によって異なることが明らかとなりました。この研究によって得られた知見は、COVID-19の疫学的特性を理解するための有用な資料となると期待されます。また、治癒後も後遺症症状を有する人々に対する理解を深め、学校や職場への円滑な復帰の支援に役立つと考えます。なお、本研究グループはCOVID-19治癒後の長期的な追跡調査も実施中であり、今後公表予定です。
図1 広島県におけるCOVID-19感染者数の推移と各株の流行時期
広島県におけるSARS-CoV-2流行株の月別分布1を参考に、COVID-19感染時期を4つに分類しました。
図2 アンケート回答時に何らかの症状を有する患者における各症状の頻度(感染時期別)
アンケート回答時(COVID-19発症から中央値23.5日経過時点)の各症状の頻度を感染時期別に比較した結果、咳嗽、喀痰、咽頭痛、嗅覚障害、味覚障害の頻度は感染時期によって異なっていました。
*1:VOC(Variant of Concern; 懸念される変異株)
新型コロナウイルスを含め、一般的にウイルスは増殖を繰り返す中で遺伝子に変異が生じる。ほとんどの変異はウイルスの特性に影響を与えないが、一部の変異は感染性や病原性、ワクチンや治療薬の効果に影響を与える。2020年後半、公衆衛生上の問題となる新型コロナウイルスの変異株が出現したため、世界保健機関はそのような変異株をVOCに分類し、モニタリングや研究の優先的実施、情報提供、対策を行った。
*2:K6(6-item Kessler Psychological Distress Scale)
うつ病や不安障害などの精神疾患をスクリーニングするための調査票。6つの質問(例:神経過敏に感じましたか)に対し「全くない」、「少しだけ」、「ときどき」、「たいてい」、「いつも」の5段階から回答する。合計得点8点未満を軽度うつ・不安障害、8~12点を中等度うつ・不安障害、13~24点を高度のうつ・不安障害と分類した。
*3:WFun(Work Functioning Impairment Scale)
健康問題による労働機能障害の程度を測定するための調査票。7つの質問(例:社交的に振る舞えなかった)に対し、「全くない」、「月に1日程度」、「週に1日程度」、「週に2日以上」、「ほぼ毎日あった」の5段階から回答する。合計得点14点未満を正常、14~20点を軽度労働機能障害、21~27点を中等度労働機能障害、28~35点を高度労働機能障害と分類した。
*4:オッズ比
各グループにおいて事象の起こりやすさを比較する指標。オッズ比が1の時はその事象の発生割合が各グループで同じであることを示し、オッズ比が1よりも大きいと発生割合が高い、1よりも小さいと発生割合が低いことを示す。多変量解析では、他の説明変数の影響を取り除いた調整オッズ比を算出することができる。
大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
講師 杉山 文
特任教授 田中 純子
Tel:082-257-5160 FAX:082-257-5164
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(注: *は半角@に置き換えてください)
掲載日 : 2023年10月10日
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