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【研究成果】微生物培養液からミズクラゲのストロビレーション阻害物質を発見

本研究成果のポイント

  • 放線菌は抗生物質など多様な生理活性物質(生体の生命活動に微量で影響を与える化学物質の総称)を生産し、それらの格好の探索源です。一方、ミズクラゲは瀬戸内海を含めた世界中の海域に幅広く見いだされ、その異常発生は漁業の悩みの種です。本研究において、38株の放線菌ライブラリーからミズクラゲのストロビレーション(ポリプからクラゲへの変態過程)阻害物質を探索したところ、Streptomyces albus HUT6047株に顕著な活性を見いだし、活性本体が4-methoxy-2,2’-bipyrrole-5-carbaldehyde(MBC)であることを明らかにしました。
  • 本化合物は、最小有効濃度6.3μMでストロビレーション阻害活性を呈し、水質安全性に優れたミズクラゲの生育制御分子を発見しました。

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科(旧 大学院先端物質科学研究科)・広島大学健康長寿研究拠点の荒川賢治准教授の研究グループは、広島大学大学院統合生命科学研究科・国吉久人准教授、広島大学自然科学研究支援開発センター・稲田晋宣助教、東京海洋大学・小山寛喜助教、東京農業大学・鈴木敏弘准教授の研究グループとの共同研究により、38株の放線菌ライブラリーからミズクラゲのストロビレーション阻害物質を探索したところ、Streptomyces albus HUT6047株に顕著な活性を見いだし、活性本体が4-methoxy-2,2’-bipyrrole-5-carbaldehyde (MBC)であることを明らかにしました。

本研究成果は、2023年8月24日に学術誌「Frontiers in Marine Science」に掲載されました。

論文情報

  • 掲載雑誌:Frontiers in Marine Science
  • URL
    https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmars.2023.1198136 
  • DOI:10.3389/fmars.2023.1198136 
  • 論文題目:4-Methoxy-2,2’-bipyrrole-5-carbaldehyde, a biosynthetic intermediate of bipyrrole-containing natural products from the Streptomyces culture, arrests the strobilation of moon jellyfish Aurelia coerulea 
  • 著者:著者名:見崎裕也1,2, 平嶋友美3, 藤井夏鈴4,  星野有太郞5, 住吉美保6, 真崎祥子7, 鈴木敏弘7,  稲田晋宣8, 小山寛喜5, 国吉久人3,4*, 荒川賢治1,2,6*
    1 : 広島大学大学院統合生命科学研究科生物工学プログラム
    2 : 広島大学健康長寿研究拠点
    3 : 広島大学生物生産学部
    4 : 広島大学大学院統合生命科学研究科食品生命科学プログラム
    5 : 東京海洋大学学術研究院食品生産科学部門
    6:広島大学大学院先端物質科学研究科(現 大学院統合生命科学研究科)
    7 : 東京農業大学応用生物科学部醸造科学科
    8 : 広島大学自然科学研究支援開発センター
    *:責任著者

背景

 Streptomyces属放線菌は、抗生物質をはじめとする多種多様な生理活性物質を二次代謝産物として生産することが知られており、ヒト・動物などにおける生理作用調節機能を有する物質も多く見出されています。
 ミズクラゲは瀬戸内海を含めた世界中の海域に幅広く見いだされ、その異常発生は漁業の悩みの種です。ミズクラゲのストロビレーション(ポリプからクラゲへの変態過程)阻害物質は、ミズクラゲの異常発生を制御することが期待されますが、今までに効果的な化合物は見いだされていませんでした。我々は、Streptomyces培養液の酢酸エチル抽出物ライブラリーを用いて、ミズクラゲAurelia auritaのストロビレーション阻害活性物質を探索しました。

研究成果の内容

 放線菌38株の菌株抽出物を検証したところ、Streptomyces albus HUT6047に顕著なストロビレーション阻害活性を見出しました。そこでHUT6047株を26L培養し、Sephadex LH-20ゲル濾過クロマトグラフィー、およびシリカゲルクロマトグラフィーによる精製を行いました。活性成分をESI-MS解析に賦したところ、C10H10N2O2の分子式であることが分かりました。二次元NMRによる構造解析を行い、4-methoxy-2,2’-bipyrrole-5-carbaldehyde (MBC)であることを明らかにしました。
 活性本体MBCの構造は有機合成でも確認し、さらに最小有効濃度6.3μMでストロビレーション阻害活性を呈し、異所性触手(通常と異なる場所に出現する触手)も認められました。MBCに関する生物活性の報告は、本研究が初めてです。
 

今後の展開

 MBCは顕著なストロビレーション阻害活性を持つものの、ミズクラゲおよびブラインシュリンプに対しても細胞毒性は認められず、水質安全性に優れたミズクラゲの生育制御分子の発見を達成しました。また、本研究で用いた放線菌培養抽出ライブラリーは、二次代謝産物のみならずそれら生合成中間体や基質も含んでおり、多様な生物活性に対する、様々な天然有機化合物の潜在能力を調べることが可能となります。

用語説明

  • 放線菌 抗生物質・抗がん剤など我々の健康長寿に役立つ生理活性物質を生産する微生物の総称。
  • 生理活性物質 生体の生命活動に微量で影響を与える化学物質の総称。
  • ミズクラゲ 日本近海で普通に観察されるクラゲであり、本研究で用いたミズクラゲはAurelia auritaである。
  • ストロビレーション ポリプからストロビラを経てエフィラに形態変化する過程のこと。その過程を阻害することでクラゲの大量発生を抑制することが出来る。
  • 触手 ミズクラゲの場合、傘の縁にある細かい糸状の組織。これを使って動物プランクトンなどのエサを捕まえる。

参考資料

図 ミズクラゲのストロビレーション過程におけるMBCの効果 (A)ストロビレーション過程の模式図 (B–I) ミズクラゲのストロビレーション過程; 通常のストロビレーション (B–I; 1時間、1日、2日、6日経過後の形態) (F,G) 放線菌培養液投与後3日、6日経過後の形態 (H,I) 化学合成MBC(12.5 μM)投与後3日、6日経過後の形態. スケールバー1mm.

SDGs目標

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>             
 大学院統合生命科学研究科 准教授 荒川賢治  
 Tel:082-424-7767              
 E-mail:karakawa*hiroshima-u.ac.jp    

 大学院統合生命科学研究科 准教授 国吉久人
 Tel:082-424-7948
 E-mail:hkuni*hiroshima-u.ac.jp

<報道に関すること>
 広島大学 広報室
 Tel:082-424-6762
 Email:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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