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【研究成果】ゲノム編集技術により、ニワトリを利用した組換えタンパク質生産系を迅速に評価するin vitroモデルを構築

本研究成果のポイント

  • ゲノム編集技術(※1)を利用して、これまで樹立されていなかった卵白成分(オボアルブミン:OVA ※2)を分泌する培養細胞株を樹立しました。
  • この培養細胞株を使用することで、2-3年を要するニワトリを利用した有用物質生産系の評価を、試験管内で短期間に実施することができました。
  • 本研究で得られた手法により、ゲノム編集ニワトリを利用した有用物質の生産系の迅速な構築が期待されます。
     

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科の堀内浩幸教授らの研究グループは、ゲノム編集により、OVAを恒常的に分泌する細胞株の樹立に成功し、さらに、樹立した細胞株を利用して、ニワトリを利用した組換えタンパク質生産の評価系を構築しました。
 ニワトリは、年に約300個の卵を産み、鶏卵には豊富なタンパク質が含まれます。従ってニワトリは、その優れた生産性から、抗体、サイトカイン等の組換えタンパク質(※3)を高効率に生産する「生物工場」(※4)としての利用が期待されています。しかし、ゲノム編集ニワトリを利用した組換えタンパク質の生産系の構築には、2-3年の時間がかかります。そのため、生産系において重要である、生産される組換えタンパク質の生産量、活性等の評価を迅速に実施することができません。これらを試験管内で、迅速に評価するためには、卵白成分を分泌する卵管内の細胞が必要ですが、安定的な培養は困難とされています。これらは、ゲノム編集ニワトリを用いた生産系を構築していく上で、課題の1つとなっています。
 本研究では、ニワトリの培養細胞株にゲノム編集を施すことにより、これまで樹立されていない、OVAを分泌する細胞株を樹立しました。また、OVA遺伝子座に組換えタンパク質の遺伝子を導入し、有用物質を生産するゲノム編集ニワトリのin vitroモデルを作製しました。in vitroモデルを利用した評価の結果、高効率な生産を可能にする、遺伝子の導入箇所を予測することができました。この知見は、ゲノム編集ニワトリを利用した、医薬品等の有用物質生産を促進することが期待されます。

 なお、本研究成果は2023年10月19日にWiley社が発刊する専門誌「Biotechnology journal」に電子版として公開されました。
 

発表論文

  • 論文タイトル
    Evaluation of expression systems for recombinant protein production in chicken egg bioreacto
  • 著者
    Ryota Kajihara1、 Ryo Ezaki1、 Kennosuke Ichikawa1、2、 Tenkai Watanabe1、 Mei Matsuzaki1、 Hiroyuki Horiuchi1、2、*
    1:広島大学大学院統合生命科学研究科
    2:広島大学ゲノム編集イノベーションセンター
    *:責任著者
  • 掲載誌
    Biotechnology journal
  • DOI 番号
    https://doi.org/10.1002/biot.202300316

背景

 近年、抗体やタンパク質製剤等のバイオ医薬品(※5)の需要が高まっています。バイオ医薬品は、培養細胞を利用して生産されますが、その高額な生産コストが課題となっています。ニワトリは、高い生産性からバイオ医薬品の生産系として有用であると考えられます。近年、ゲノム編集技術の利用により、鶏卵中に組換えタンパク質を蓄積するゲノム編集ニワトリが報告され、技術的にニワトリを利用した生産系の構築が可能であることが報告されました。
 ゲノム編集ニワトリを利用して、組換えタンパク質を生産するためには2-3年もの時間がかかります。従って、ニワトリを利用した生産系を社会実装していくためには、生産系の構築をスムーズに進める必要があります。それには、試験管内で生産系を評価するシステムが有用ですが、卵白成分を分泌する細胞株が樹立されていないことから、試験管内での評価は不可能でした。

研究成果の内容

 本研究では、ニワトリ培養細胞において不活性化状態であるOVAをゲノム編集技術により活性化状態にし、OVAを分泌する細胞株を樹立しました(図1)。また、OVAタンパク質をより多く分泌させるためには、OVA遺伝子座の一部の非翻訳領域(※6)が重要であることが示唆されました(図2)。さらに、OVA分泌細胞株を利用して、組換えタンパク質遺伝子の導入箇所を評価したところ、OVAの上流部分が導入箇所として適していることが示唆されました(図3)。

研究成果の社会的意義

 バイオ医薬品や研究用のタンパク質試薬は、分子サイズが大きく、構造が複雑であることから微生物、培養細胞を利用して生産されます。特に培養細胞を利用した生産は培養や設備投資にコストがかかってしまいます。一方、ニワトリを利用した生産系は低コストでの医薬品等の組換えタンパク質の生産が可能と考えられます。本研究成果は、ニワトリを利用した生産系の迅速な評価を可能にすることで、より安価な医薬品の生産に繋がると期待されます。

今後の展開

 今後は、複数の医薬品タンパク質を標的に評価を実施する予定です。そこで得られた知見をもとに、ゲノム編集ニワトリを作出することで、さまざまな有用物質を生産できる生産系の確立を目指します。

参考資料

研究プロジェクトについて

 本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(19H03107と19K22286)ならびに国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) のCOI-NEXT (JPMJPF 2010) の支援により行われ、得られた成果である。

用語説明

※1    ゲノム編集技術:ゲノムDNAの狙った場所に、二本鎖切断を誘導し、変異を導入する技術。遺伝子の機能を欠損させたり、外来の遺伝子を導入したりすることができる。
※2    オボアルブミン:卵白中に含まれる主要なタンパク質の1つ。 卵白タンパク質の約60%を占める。
※3    組換えタンパク質:遺伝子工学的手法を利用して、人工的に作製されたタンパク質。 
※4    生物工場:生物の生体反応を利用することで、有用物質を生産するシステム。 
※5    バイオ医薬品:バイオテクノロジー技術を利用して作られる医薬品。抗体やホルモンなど複雑な構造をもつ生体分子が利用される。
※6    非翻訳領域:mRNA配列の中で、タンパク質へと翻訳されない部分。mRNAの安定性やタンパク質への翻訳効率に関与していることが知られている。 
※7    プロモーター:遺伝子の発現を制御する領域。

【お問い合わせ先】

 大学院統合生命科学研究科 教授 堀内 浩幸
 Tel:082-424-7970 FAX:082-424-7970
 E-mail:hhori10*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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