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【研究成果】ガンマ線と可視光偏光の同時観測で迫るブラックホールからの光速ジェット噴出の謎

論文掲載

 金沢大学理工研究域先端宇宙理工学研究センター/数物科学系の有元誠准教授および東京大学宇宙線研究所高エネルギー宇宙線研究部門の浅野勝晃教授、広島大学宇宙科学センターの川端弘治教授、東北大学学際科学フロンティア研究所の當真賢二教授、メキシコ国立自治大学、イスラエル・オープン大学を含む国際共同研究グループは、フェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡衛星(フェルミ衛星)(※1)と東広島天文台かなた望遠鏡(※2)を用いて、宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストからのガンマ線と可視光偏光の同時観測に成功しました。ガンマ線バーストは、光速に近い速さでブラックホールからジェットが噴き出し、そのジェットからガンマ線が放射されると考えられているものの、その放射メカニズムやジェット駆動機構は謎に包まれていました。本研究ではガンマ線と可視光の同時観測により、ジェット内部を逆方向に進む衝撃波(※3)がガンマ線放射に大きく寄与していることが初めて分かりました。さらに、本研究では、光の向きの偏りを調べることができる偏光観測を爆発発生から80秒後という極めて早い時間帯で観測できました。このことは、「ガンマ線バーストのジェット内部に2種類の衝撃波が存在し、それぞれの衝撃波の磁場構造が全く異なる」ことも新たに明らかにしました。ジェット内部で作られる衝撃波によって高エネルギー粒子が誕生し、その粒子が磁場と作用することでガンマ線が生じると考えられています。つまり、ガンマ線の放射起源を知る上で、磁場はなくてはならない情報であり、ガンマ線を放つジェット内部の磁場構造を明らかにできたのは本研究が初めてです。また、ジェットを光速近くまで加速する機構として、磁場駆動モデルが提案されていますが、そうしたモデルに制限を与える重要な結果となります。
 本研究により、ガンマ線バーストの放射メカニズムやジェットの組成・生成の理解が大きく進展しました。光速まで加速されたジェットはガンマ線バーストだけでなく、さまざまな天体現象でも存在しており、本研究の成果が多くの謎に満ちたジェットの解明にも繋がる可能性があります。さらに今回のような広い波長での同時観測が、今後のマルチメッセンジャー天文学においても大きな役割を果たすことが期待されます。


本研究成果は、2023年11月23日16時(英国時間)に英国科学誌Nature Astronomyのオンライン版に掲載されました。

研究の背景

 ガンマ線バーストは、数秒から数百秒の短い時間で爆発的にガンマ線を放つ天体現象です。宇宙のあらゆる天体現象より明るく輝く爆発現象でありながら、いつどこでガンマ線バーストが起きるか分からないため、事前に予測して観測することが難しくその正体はよく分かっていませんでした。これまでの多くの観測や理論研究によって、太陽よりもずっと重い星が自身の重力で潰れて崩壊するときに、ガンマ線バーストが起きると考えられています。星が崩壊し、中心部にブラックホールが生まれた瞬間に、プラズマのジェットが光速に近い速度で噴き出し、ジェットの内部で衝撃波が形成されます。そして、その衝撃波の中で高エネルギー粒子が加速され、磁場と相互作用することでガンマ線を放射すると考えられています。しかし、このガンマ線バーストのジェットを万物の速度の極限ともいえる光速に近い速度までどのように加速し、衝撃波の内部にどのような磁場が形成されてガンマ線が生まれるのかよく分かっていませんでした。

ガンマ線バーストのイメージ図
(Copyright: 2023 金沢大学、イラスト制作:武重隆之介・髙橋壮一)

研究成果

 2018年7月20日に、フェルミ衛星やその他のガンマ線バースト観測衛星が、うお座の近くの方向の61億光年(※4)の彼方より到来するガンマ線を検出しました。このガンマ線バーストは GRB 180720B(※5)と名付けられ、このガンマ線バーストを検出した観測衛星が直ちにその位置をアラート情報として地上望遠鏡に知らせました。この時、フェルミ衛星は高エネルギーのガンマ線をおよそ1,000秒にわたって検出することに成功しました。そして、衛星からのアラートを受けて、地上で最初に観測できたのが、かなた望遠鏡でした。かなた望遠鏡は、ガンマ線バーストが発生してから、80秒後という極めて早い時間帯で可視光観測することに成功しました。ガンマ線バーストは爆発した後にすぐに暗くなってしまうため、早く観測できたことで極めて良質のデータを得ることができました。さらに特筆すべきは、かなた望遠鏡は他の地上望遠鏡では観測が難しい「偏光」情報も得られたことであり、高エネルギーガンマ線の発生と同時に偏光検出に成功した観測は本研究が初めてです。
 かなた望遠鏡が観測したガンマ線バーストからの可視光放射は、シンクロトロン放射(※6)によって起きると考えられており、偏光という光の偏りを見ることで放射が起きている現場の磁場構造を知ることができます。そして、得られたデータを詳細に解析したところ、光速に近い速度で噴き出しているジェットの内部に、ジェットの進む方向とは反対方向に進む衝撃波が発生し、そこから可視光やガンマ線が強く出ていることが分かりました(図の①部分)。この放射はガンマ線バーストが発生してから数百秒しか発生していなかったため、フェルミ衛星とかなた望遠鏡がガンマ線バースト発生直後からすぐに観測に成功したことがこの研究成果に繋がっています。さらに偏光情報を用いることで、逆方向に進む衝撃波の中の磁場構造がトロイダル磁場(※7)と呼ばれるドーナツの形をしており(以下、ドーナツ型の磁場)、さらに磁場の向きが綺麗に揃っておらず、乱流(※8)と呼ばれる非常に乱れた構造をしていることも分かりました。そして、逆方向の衝撃波の放射が終わった後、ジェットの進行方向と同じ向きに進む衝撃波からガンマ線が観測されました。このジェットと同じ向きに進む衝撃波の磁場構造はドーナツ型ではなく放射状の構造(図の②部分)を持っており、2種類の衝撃波でまったく異なる磁場構造をしていることが分かりました。特に逆方向に進む衝撃波は、ガンマ線バーストのジェット内部の情報を持っており、我々人類に光速ジェットの起源に関するヒントを与えてくれます。
 ここで、ガンマ線バーストのジェットを光速近くまで加速するメカニズムの一つとして、ブラックホールを貫く磁場(※9)を介し、ブラックホールの回転エネルギーでジェットを加速する磁場駆動モデル(図の③部分)が理論的に提案されています。この磁場駆動モデルでは、ブラックホールの回転によって磁場がねじれ、ジェットの内部にはドーナツ型の磁場が作られることが予言されていました。本研究によって、逆方向に進む衝撃波の中でドーナツ型の磁場が観測されたことは、この磁場駆動モデルを支持する結果となっており、爆発的エネルギーを生み出すジェットの謎を解明する大きな一助と言えます。 また磁場の乱流が観測されたことも非常に重要であり、衝撃波の内部でガンマ線を生み出す粒子を、高いエネルギーまで効率よく加速するために、磁場の乱流が必要と考えられてきました。今回の研究で得られた結果は、これらの理論モデルの妥当性を示す直接的な証拠であると言えます。
 本研究により、これまで未解明だったガンマ線バーストの光速近くまで加速されたジェットや、高エネルギーのガンマ線を生み出す衝撃波の生成機構に大きく迫ることができました。

今後の展開

 近年では超高エネルギーガンマ線の観測により、従来の定説であったシンクロトロン放射では説明できない高エネルギーのガンマ線放射が見つかり、ガンマ線が生まれるメカニズムの理解が徐々に進みつつあります。そして、このガンマ線の生成に、必要な磁場を直接観測できる偏光観測はとても貴重であり、本研究はその先駆けとなる研究成果と言えます。また、ガンマ線バーストから生み出される光速近くまで加速されたジェットは、銀河などさまざまな天体でも観測されており、その起源はいまだに分かっておらず、宇宙最大の謎の一つとも言われています。本研究の成果が、多くの謎に満ちたジェットの解明にも繋がる可能性があります。
 さらに、近年では重力波やニュートリノと言った電磁波ではない信号が注目を浴びており、これらの信号が、我々人類に全く新しい次元の物理情報を提供してくれます。そこで、本研究で行ったような広いエネルギー帯域での電磁波観測に加えて、重力波やニュートリノ観測を融合した「マルチメッセンジャー天文学」を推進することが、近年の天文学の大きなトレンドになっており、本研究に参画しているメンバーはこのマルチメッセンジャー天文学を推進しています。
 

<研究者のコメント>

  • ガンマ線バーストはいつどこで起きるか分からない現象であり、今後多くの人工衛星を使って観測していく必要があります。一方で、現在稼働している多くの観測衛星は打ち上げから10年以上経っており老朽化しています。そこで、私たちのグループでは将来のガンマ線バースト観測を支える独自の人工衛星も開発しており、次世代のマルチメッセンジャー天文学を牽引していく試みを進めています。
    (金沢大学 有元 誠)
  • 今回の観測で、ジェット内部の磁場構造に大きなヒントが得られた一方、ジェット内部からのガンマ線放射は、ジェットの磁場が比較的弱いことを示唆しています。磁場でジェットを駆動・加速した後に、そこにあった磁場のエネルギーを減衰させる必要があるのですが、そのメカニズムは自明ではありません。今回の観測はジェットの物理に新たな謎を投げかけるものにもなっています。
    (東京大学 浅野 勝晃)
  • ガンマ線バーストのフェルミ衛星との多波長連携観測は、広島大学がかなた望遠鏡を設置するときに掲げた大目標の一つでした。偏光観測という特長を活かして、過去に例のない観測ができ、研究に貢献できたことは感慨深いです。
    (広島大学 川端 弘治)
  • ジェットの駆動や放射のメカニズムだけでなく、光速近くのジェットが作る衝撃波についても謎が多いです。今回の観測は衝撃波自体のメカニズムを知る上でも重要であり、ガンマ線と可視光の同時観測で非常に多くの貴重な情報を得ることができたと思います。
    (東北大学 當真 賢二)

ガンマ線バーストのイメージ図
(Copyright: 2023 金沢大学、イラスト制作:武重隆之介・髙橋壮一)

本研究は、日本学術振興会卓越研究員事業「X線・γ線で明らかにする重力波候補天体ガンマ線バーストの起源」、文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)「高エネルギー観測で探る重力波天体」(17H06362)、学術変革領域研究(A)「マルチメッセンジャー宇宙物理学:静的な宇宙から躍動する宇宙へ」(23H04898)、金沢大学超然プロジェクト「宇宙創成・極限時空研究拠点の形成」、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構、JAXA宇宙科学研究所等の支援を受けて実施されました。

掲載論文

  • 雑誌名:Nature Astronomy
  • 論文名:Gamma rays from a reverse shock with turbulent magnetic fields in GRB 180720B
    (ガンマ線バースト 180720Bの乱流磁場をもつ逆行衝撃波から観測されたガンマ線)
  • 著者名:Makoto Arimoto, Katsuaki Asano, Koji S. Kawabata, Kenji Toma, Ramandeep Gill, Jonathan Granot, Masanori Ohno, Shuta Takahashi, Naoki Ogino, Hatsune Goto, Kengo Nakamura, Tatsuya Nakaoka, Kengo Takagi, Miho Kawabata, Masayuki Yamanaka, Mahito Sasada and Soebur Razzaque
    (有元 誠,浅野 勝晃,川端 弘治,當真 賢二,ギル ラマンディープ,グラノー ジョナサン,大野 雅功,高橋 周汰,荻野 直樹,後藤 初音,中村 謙吾,中岡 竜也,高木 健吾,川端 美穂,山中 雅之,笹田 真人,ソエバ ラザック)
  • 掲載日時:2023年11月23日16時(英国時間)にオンライン版に掲載
  • DOI:10.1038/s41550-023-02119-1

用語解説/補足

※1 フェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡衛星(フェルミ衛星)
日米欧の国際チームで開発された高エネルギーガンマ線観測用天文衛星であり、2008年に打ち上げられた。全天をサーベイしながら、広い天域を常に監視している。日本のフェルミ衛星チームは、金沢大学に加え、広島大学、東京大学、名古屋大学、早稲田大学、茨城大学、大阪大学、立教大学、青山学院大学、山形大学等の研究者で構成されている。
フェルミ衛星に搭載されたガンマ線大面積望遠鏡は、日本が開発に大きく貢献したものであり、打ち上げ後も日本人メンバーがデータモニター、突発天体監視、データ解析などで貢献を続けている。

※2 かなた望遠鏡
 広島大学宇宙科学センターが運用する口径1.5mの光学望遠鏡で、2006年に竣工した同センター附属東広島天文台に据えられている。ガンマ線バーストのアラートが届くと即座にその到来方向へ望遠鏡を向けて可視光偏光観測を開始するなど、宇宙の突発現象の観測的研究においてユニークな活躍を見せている。

※3 衝撃波
流体が音速の速度を超えて流れている時に、音速を超えた超音速の領域と低い速度の領域の境で、圧力などが急激に変化して生じる不連続面のことを言う。この衝撃波によって、運動エネルギーが熱エネルギーなどに変換され、高エネルギー粒子の加速に対して大きな役割を担っている。


※4 光年
光は有限の速度を持っており、光の速度で一年かけて進んだ距離のことを光年という。

※5 GRB180720B
 ガンマ線バースト(Gamma-Ray Burst, GRB)は、その爆発が起きた日にちを基に名付けられる。今回は、2018年7月20日に起きたため、GRB180720Bとなった。なお、文字列最後のBは、その日の2番目に起きたバーストであることから、アルファベットの2番目のBを用いるという規則から割り当てられている。

※6 シンクロトロン放射
 磁場中を運動する高エネルギーの荷電粒子が、磁場中で円運動またはらせん運動をするとき、軌道の中心方向に加速度を受けて電磁波が放射される現象。

※7 トロイダル磁場
回転軸などの軸周りに対称に作られる磁場。軸を真上から見ると磁場はドーナツ型の形状になる。

※8 乱流
流体中で不規則で乱れた状態の流れのこと。天体現象の多くで、乱流が大きく関連していると考えられている。

※9 ブラックホールを貫く磁場
ブラックホールは回転していると考えられており、その回転エネルギーを引き抜くことで莫大なエネルギーを得ることができる。そこでこのエネルギーを引き抜く方法として、磁場を用いた理論モデルが提唱されている。

【お問い合わせ先】

■研究内容に関すること
 金沢大学理工研究域先端宇宙理工学研究センター/数物科学系 准教授
 有元 誠(ありもと まこと)
 TEL:076-264-5737 
 E-mail:arimoto*se.kanazawa-u.ac.jp

 広島大学宇宙科学センター/センター長 教授
 川端 弘治(かわばた こうじ)
 TEL:082-424-7371 
 E-mail:kawabtkj*hiroshima-u.ac.jp

■広報担当
 金沢大学理工系事務部総務課総務係
 野口 美雪(のぐち みゆき)
 TEL:076-234-6957
 E-mail:s-somu*adm.kanazawa-u.ac.jp

 広島大学広報室
 権田 敏伸(ごんだ としのぶ)
 TEL:082-424-6762
 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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