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【研究成果】AIによって遺伝子検査の負担を減らす!!~MRI画像から転移性脳腫瘍に重要な遺伝子を予測~

本研究成果のポイント

* 黒色腫を伴う転移性脳腫瘍は脳転移において3番目に多く、死亡する可能性が95%、生存期間の中央値も7カ月程度と非常に予後不良な疾患です。
* 近年では遺伝子検査を行い、患者個々の特徴を正確に捉え適切な治療を行う、個別化医療に注目が集まっています。しかし、遺伝子検査は時間と費用が大きいです。
* 本研究では、広島大学とミネソタ大学との共同研究で脳転移患者が治療前に撮影するMRI画像を使用して、AIにより画像特徴と遺伝子(BRAF変異)を結び付ける解析を行い、画像から遺伝子を予測することに成功しました。
* 本研究は医用画像の可能性を広げる画期的な研究開発であり、今後ますます発展する個別化医療において適切な医療を迅速に提供する上で欠かせない技術となることが期待されます。
 

概要

 広島大学大学院医系科学研究科 河原大輔助教、永田靖名誉教授、ミネソタ大学放射線腫瘍学のYoichi Watanabe教授、Jinling Yuan教授らの研究グループは、人工知能の技術を活用しMRI画像から患者予後に関わる遺伝子変異(BRAF変異)を高精度に予測することに成功しました。
 本研究成果は、2023年9月1日に英国科学誌「Clinical Radiology」に掲載されました。

論文情報

論文タイトル
Predicting the BRAF mutation with pretreatment MRI radiomics features for melanoma brain metastases receiving Gamma Knife radiosurgery

著書
Daisuke Kawahara, Ph.D.1, Andrew Jensen, MS2, Jinling Yuan, MD, PhD.3, Yasushi Nagata, MD, Ph.D.1
and Yoichi Watanabe, Ph.D.3*. watan016@umn.edu
1. Department of Radiation Oncology, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan
2. RADformation, New York, NY, USA
3. Department of Radiation Oncology, University of Minnesota-Twin Cities, Minneapolis, MN, USA
* corresponding author  

掲載雑誌
Clinical Radiology

DOI番号
10.1016/j.crad.2023.08.012

背景

 転移性脳腫瘍は成人にみられる最も一般的な頭蓋内腫瘍であり、さらに全身転移の一つでがん患者の10-40%が罹患している可能性があると言われています。黒色腫を伴う転移性脳腫瘍は脳転移において肺癌、乳癌に続き3番目に多く、死亡する可能性が95%、生存期間の中央値も7カ月程度と非常に予後不良な疾患です。
 我々(広島大学)はミネソタ大学との共同研究により、脳転移患者の治療効果改善について人工知能(AI)による研究開発に取り組んでいます。過去の我々の研究で、遺伝子変異であるBRAF変異を有する患者は、治療予後(局所制御)が優れていることを発見しました。このように、近年では遺伝子検査を行うことで患者個々の特徴を正確に捉えて個々に合った治療を行う、個別化医療に注目が集まっています。しかし、遺伝子検査は4-6週間程度の時間、さらに50万円(自由診療)以上と費用がかかるため、患者やスタッフの負担も大きく、普及には時間がかかります。一般的に撮影される医用画像(MRI画像)から遺伝子検査結果を予測できれば迅速かつ適切な治療を実施でき、個別化医療の実現が近づきます。

研究成果の内容

 今回、研究グループは放射線治療を行ったⅢ期肺がん症例に対しRadiomics解析と呼ばれる医用画像から目に見える形状や色合いの情報に加えて、画像の質感など定量評価が難しい画像情報や目に見えない画像情報を解析する手法を用いて、脳転移患者のMRI画像より1962個の膨大な画像特徴を抽出しました。この画像特徴に対して遺伝子変異(BRAF変異)との関連をAIで学習させることよって、遺伝子変異予測に重要な画像特徴を絞り、これらを組み合わせてBRAF変異の存在の有無を予測するモデル構築に成功しました。予測結果よりBRAF遺伝子を表現する画像特徴として、腫瘍の形状がコンパクトであり、さらに均一に造影されている特徴であることが初めて明らかとなりました。
 過去の研究では予測精度は80%以下で充分ではありませんでしたが、本研究では、新たな人工知能(データ不均衡補正Radiomics解析)を用いた手法で83%の精度でMRI画像からBRAF変異を予測可能であることを示しました。
 

今後の展開

 本研究は医用画像の可能性を広げる画期的な研究開発であり、今後ますます発展する個別化医療において適切な医療を迅速に提供する上で欠かせない技術となることが期待されます。ミネソタ大学での実証実験など臨床活用に向けた研究を進めています。また、今後はさらに他の疾患、遺伝子予測へ拡張していく予定です。

参考資料

図1.予測モデル構築までの流れを示す。①ではMRI画像に対してRadiomics解析を行い、1962個の膨大な画像特徴を抽出します。この膨大な特徴から②でAIにより冗長な画像特徴を減らし、これらの画像特徴を組み合わせてBRAF遺伝子の有無の予測を行っている。

図2.BRAF変異の予測精度、ROCの結果を示す。過去研究(画質解析手法)では予測精度は80%以下であったが本研究では83.1%と大きく改善している。

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科 助教 河原大輔
Tel:082-257-1545 FAX:082-257-1546
E-mail:daika99*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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