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【研究成果】Buffonの針問題を発展させ、落ち葉の画像から円周率πの値を近似する方法を考案

本研究成果のポイント

  • Buffonの針問題を発展させ、落ち葉のような複雑な図形から円周率πの値を近似する方法(Buffon’s Leaf Problem)を新しく考案しました。
  • 落ち葉のような凹多角形が平行線に交差することは、凹多角形の凸包が平行線に交差することの必要十分条件であることを証明しました。
  • 落ち葉の凸包の分布に周長の逆数をかけることで、落ち葉の大きさの違いに対応することができる独自の計算方法を作成しました。
  • この計算方法をもとに、大きさが違う落ち葉を平行線上に投げる実験を再現するコンピュータシミュレーションを行い、計算方法の妥当性を検証しました。
  • 実際に落ち葉を投げ円周率πの値を近似する実験を行い、最終的に街で撮影した落ち葉の画像から円周率πの値を近似することに成功しました。
     

概要

 2023年11月7日、アメリカ数学協会(Mathematical Association of America)の学術誌「Mathematics Magazine」に、広島大学附属高等学校3年(投稿当時)井口瑠花さん、小野実紀さん、柴田美羽さん、髙野はるかさん、大阪大学大学院生命機能研究科パターン形成教室(投稿当時、博士課程4年)の松田佳祐さん、広島大学附属高等学校喜田英昭教諭ら6人の共著論文「Buffon’s Leaf Problem」が掲載されました。
 広島大学附属高等学校は2003年度よりスーパーサイエンスハイスクールの指定を受けており、学校設定科目「AS科学探究Ⅱ」の授業において、井口さんら4人はBuffonの針問題を発展させ、落ち葉のような複雑な図形から円周率πの値を近似することをテーマとして担当の喜田教諭とともに課題研究を行いました。
 この研究では当初より広島大学附属高等学校卒業生(2012年卒業)でもある松田さん(2023年11月現在、学振特別研究員(PD))の指導を受け、2つの新しい成果が得られました。1つは、落ち葉のような凹多角形が平行線に交差することは、凹多角形の凸包が平行線に交差することの必要十分条件であることを証明したことです。もう1つは、落ち葉の凸包の分布に周長の逆数をかけることで、落ち葉の大きさの違いに対応することができる独自の計算方法を考案したことです。この計算方法をもとに、大きさが違う落ち葉を平行線上に投げる実験を再現するコンピュータシミュレーションを行い、計算方法の妥当性を検証し、次に実際に落ち葉を投げる実験を行い、円周率πの値を近似することに成功しました。
 そして、研究成果を論文にまとめ、高校3年次(2021年)の9月21日に6人で共著論文を投稿し、2022年1月23日に論文がアクセプトされ、約2年後に掲載されることになりました。
 

研究の背景

 Buffonの針問題とは、18世紀にフランスの学者ジョルジュ=ルイ・ルクレールド・ビュフォンによって提起された有名な数学の問題です。間隔がdの平行線に長さlの針を無作為に投げたとき、それらの針が平行線に交差する確率は2l/πdであることが証明されています。この証明により、無数の針を投げ平行線に交差する針を数えることで、円周率πの値を実験的に近似することができます。また、先行研究により、針ではなく凸多角形を用いて円周率πの値を近似する方法も明らかになっています。しかし、これらの方法は「平行線の上に図形を投げる」という実験的状況を前提としており、現実の生活の中でこの興味深さを味わうことは難しいと思いました。そこで、そのような実験的状況を設定せずとも普段の生活の中のありふれた状況から円周率πの値を近似できれば、この問題をより手軽に楽しむことができるのではないかと考え、地面に散らばった落ち葉の画像から円周率πの値を近似する方法について研究しました。

 Buffonの針問題を落ち葉に拡張するために考慮しなければならないことは2つあります。1つは、落ち葉が平行線に交差する条件です。先行研究では凸多角形が平行線に交差する確率は求められています、落ち葉は凸多角形だけではなく、もみじの葉のように凹多角形も存在します。そのため、このような複雑な形に対応する方法を考えなければなりません。もう1つは、落ち葉の大きさの違いです。Buffonの針問題では、一様な長さの針が使われています。しかし、自然界に存在する落ち葉は大きさが様々であり、大きな落ち葉の方がより平行線に交差しやすいことから、落ち葉の大きさの違いを考慮しなければなりません。
 落ち葉が平行線に交差する確率については、ある図形が平行線に交差するかどうかはその図形の最大値と最小値のみによって決まります。そこで、もみじの葉のような複雑な形でも計算可能な図形として凸包に着目しました。凸包とは、与えられた集合を含む最小の凸集合のことです。先行研究により、周長がLの凸多角形が平行線に交差する確率はL/πdであることが証明されているため、凸包の交わる確率は計算が可能です。そこで、本研究では、凹多角形とその凸包の任意の軸方向への最大値と最小値が常に一致することを証明し、落ち葉が平行線に交差する確率をその凸包の周長Lを用いてL/πdと表されることを示しました。
 落ち葉の大きさの違いについては、落ち葉の凸包の周長の分布をp(L)とすると、凸包の周長がLである落ち葉が平行線に交差する確率はp(L)L/πdとなります。したがって、p(L)L/πdを0から周長の最大値Lmaxまで積分すると、周長の分布がp(L)である凸包が平行線に交差する確率を計算できます。 

 このとき、上式の値はp(L)に依存します。そのため、p(L)L/πd1/Lを掛けると以下のように計算することができ、その計算結果は周長の分布に関わらず1/πdとなります。

 つまり、1/Lをかけることで、落ち葉の凸包の周長の分布に関わらず円周率πの値を近似することが可能となることが分かりました。
 この方法で円周率πの値が近似可能であることを確認するために、コンピュータシミュレーションを行いました。そして、様々な大きさの100万枚の落ち葉を平行線の上に投げ、円周率πの値を近似値は3.1476が得られました。以上のことにより、1/Lをかけると葉の周長の分布に関わらず円周率πの値を近似できることが確かめられました。
 この結果をふまえ、大きさや形が異なる5種類の落ち葉を利用して、落ち葉の画像から円周率πの値を近似しました。模造紙の上に落ち葉を落とし固定したカメラで撮影しました。この実験では50枚の落ち葉を投げる試行を複数人で20回繰り返し、全体で1000枚の落ち葉を投げました。実験後、画像を二値化した後画像の上に平行線を引き、さらに画像解析ソフトを利用して凸包を作成し、導いた式を利用して円周率πの値の近似値3.1569が得られました。
 

論文情報

  • 掲載誌:Mathematics Magazine
  • 論文タイトル:Buffon’s Leaf Problem
  • 著者名:Ruka Iguchi、 Hideaki Kida、 Keisuke Matsuda*、 Miki Ono、 Miu Shibata、 Haruka Takano 
     * Corresponding author(責任筆者) 
    DOI: https://doi.org/10.1080/0025570X.2023.2266352

研究者のコメント

  • Buffonの針を二次元に応用する方法の考案が難しく、喜田先生や松田さんの助言を頂きながら試行錯誤しました。英語論文の作成では論文に適した言葉選びや簡潔さを意識しました。(広島大学医学部医学科2回生 井口瑠花)
  • 行き詰まったり地道な作業で大変なこともありましたが、みんなで試行錯誤しながら進める課題研究はとても面白いものでした。仲間や先生方に支えられて成果を上げることができてとても嬉しく思います。(東京工業大学工学院機械系2年生 小野実紀)
  • 難しいプログラミングはやったことがなく、何度も調べながら作成をしていました。プログラミング担当ではありましたが、各担当の分野を超えてそれぞれのメンバーが協力してくれたからこそ最終的にプログラムを完成できたと思います。(東京大学教養学部文科一類2年生 柴田美羽)
  • 受験勉強と並行しながらの研究だったので大変なこともありましたが、他のメンバーや先生方の手厚いサポートのおかげで納得のいく結果を出せました。この場を借りて感謝申し上げます。(大阪大学薬学部薬学科先進研究コース2回生 髙野はるか)
     
【お問い合わせ先】

広島大学附属中学校・高等学校
喜田 英昭 教諭
Tel:082-251-0192
E-mail:fuzoku-midori*office.hiroshima-u.ac.jp (事務室)

(注: *は半角@に置き換えてください)


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