大学院先進理工系科学研究科 教授 都留 稔了
Tel:082-424-7714 FAX:082-424-7714
E-mail:tsuru*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
広島大学大学院先進理工系科学研究科の森山教洋助教、長澤寛規助教、金指正言教授、都留稔了教授らの研究グループは、独自に開発したオルガノシリカ※1膜を用いて、燃焼排ガスから水蒸気を回収するシステムを提案しました。回収された高温の水蒸気は熱回収されたのちに水資源として利用されます。株式会社プランテックおよびイーセップ株式会社との共同研究によって、稼働中の廃棄物焼却施設において提案システムの有効性を実証しました。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に11月23日付で掲載されました。
水やエネルギーの有効利用は世界的な課題です。飲料であるだけでなく有用な熱媒体でもある水は、温水または水蒸気として大量に産業利用されています。特に、水蒸気の持つエネルギーは大きく、プロセスに存在するエネルギーロスの多くが煙道ガス※2に含まれる水蒸気に起因します。煙道ガスから水蒸気のみを回収し、熱と水を再利用することが期待されますが、現在は一部のプロセスで実現されるにとどまっています。
窒素や酸素は透過させず、水蒸気のみを透過させる分離膜は、これまでに知られていました。しかし、長期の水熱安定性(150-200℃程度)に技術的課題があり、高温での水蒸気回収技術としての応用は困難でした。
本研究グループで開発した水熱安定性に優れるオルガノシリカ膜を用いて、煙道ガスから水蒸気を回収するシステム(図1)を提案しました。本システムでは膜を介して極めて純度の高い水蒸気74 t/dが回収され、潜熱利用後に液体となった水が噴霧水として再利用されます。本システムの導入により、施設外部からの水供給が不要となるため、近くに大規模な水源がなくても運転することが可能となります。また、水蒸気回収後の煙道ガスは水分が少ないため、煙突から白煙(凝縮した水蒸気)が生じないという副次効果も期待されます。
模擬ガス(水蒸気、空気、塩化水素を含む)からの水蒸気回収試験をラボスケールで半年以上行い、オルガノシリカ膜の水熱安定性を確認しました。150℃以上の水蒸気に対する安定性としては世界で最長の報告になります。次いで、ベンチスケールのオルガノシリカ膜ユニットを稼働中の廃棄物焼却施設内で使用し、実ガス条件下で水蒸気回収を行えることを実証しました。ラボ、ベンチスケールでの実験データをもとにシミュレーションを行った結果、噴霧水に必要な74 t/dの水蒸気を回収した場合、システム動力を差し引いた正味の熱:約200 GJ/dを回収できることが明らかとなりました。これは廃棄物燃焼熱の約70%回収に相当します。
本研究は、新たな水源として水蒸気の可能性を明らかにするとともに、水蒸気の有するエネルギーを利用することで更なる省エネルギー化が可能となることを明らかにしました。水資源・エネルギー資源に関する世界的課題に対し、新たなソリューションを提供するものです。廃棄物焼却施設への導入は一例に過ぎず、火力発電所や化学プラントなど、水蒸気を大気に排出しているあらゆる排出源への導入も可能となります。工業地帯から白煙(凝縮した水蒸気)が立ち上る光景を目にする機会は少なくなるかもしれません。
図1 水蒸気回収システムを組み込んだ廃棄物焼却施設
本研究は、ERCA環境研究総合推進費「水蒸気回収膜を用いた新規な環境配慮型廃棄物処理システムの実証(JPMEERF20201G02)、JSPS科学研究費助成事業(19K22085、20H05227, 22H04551, 22K18922, 19J22400)の支援を受けました。
(※1)オルガノシリカ:シリカ(≡Si-O-Si≡結合のみで構成される)の一部を≡Si-CnHm-Si≡結合に置き替えた化合物。一般的なシリカはSi-O結合が加水分解されるため、水熱安定性に課題があるが、オルガノシリカはSi-C結合部分が加水分解されないために水熱安定性に優れる。
(※2)煙道ガス:パイプやチャンネルなどの煙道により大気中へ排出するガスのこと。例えば、発電所で発生する燃焼ガスなどがこれにあたる。通常、水蒸気のほかに窒素、酸素、二酸化炭素が含まれる。更に、粒子状物質 (すす等)、一酸化窒素等の汚染物質が少量含まれていることもある。
大学院先進理工系科学研究科 教授 都留 稔了
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掲載日 : 2023年12月26日
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