• ホームHome
  • 【研究成果】早期の慢性腎臓病は1人あたり年間2.7~18.7万円の医療費増加と関連

【研究成果】早期の慢性腎臓病は1人あたり年間2.7~18.7万円の医療費増加と関連

研究成果のポイント

・早期慢性腎臓病において、どの様な所見がある場合に、どの程度、医療費増加が認められるのかについては今まで検討されていませんでした。
・本研究は全国規模の大規模健康医療データベース*1を用いて、就労世代8万人の健診データを分析し5.3%の健診受診者が早期慢性腎臓病を持つことが分かりました。
・早期慢性腎臓病*2の指標となる軽度の腎機能低下や尿蛋白の所見、およびそれらの組み合わせは、慢性腎臓病が無い(いずれの指標も無い)場合と比較して、それぞれ一人当たり年間2.7万円(尿蛋白)、9.1万円(腎機能低下)、18.7万円(腎機能低下と尿蛋白)の医療費増加(超過医療費*3)と関連していました。
・医療費増加は、その後5年間にわたって継続して認められました。
・健診は、早期慢性腎臓病を発見し、関連する医療費増加のリスクを評価できる機会となります。

概要

・健診制度の発達した我が国では、健診データベースを活用して、無症状の早期慢性腎臓病を発見することが可能です。さらに医療費請求に用いられるレセプトデータを連結して解析することで、早期慢性腎臓病と医療費増加の関連について検討を行う事が可能です。
・早期慢性腎臓病は一人当たり年間2.7万円~18.7万円の医療費増加と関連していました。医療費増加はその後5年間にわたって継続していました。

論文情報

掲載誌:JAMA Network Open (2024年1月)
論文タイトル:Early-Stage Chronic Kidney Disease and Related Healthcare Spending: A Health Checkup Cohort Study in Japan
早期慢性腎臓病と関連する医療費:日本における健診コホート
著者名:Naomi Sakoi1,2(迫井直深), Yuichiro Mori2 (森雄一郎), Yusuke Tsugawa3,4(津川友介), Junko Tanaka1(田中純子), and Shingo Fukuma2*(福間真悟).

1.   広島大学大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
2.   京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻
3.   Division of General Internal Medicine and Health Services Research, David Geffen School of Medicine at UCLA.
4.   Department of Health Policy and Management, UCLA Fielding School of Public Health. 
* Corresponding author(責任著者)
広島大学医学部学生 迫井直深氏は医学科5年次の医学研究実習派遣制度により京都大学医学研究科に所属し福間真悟准教授と共同で、大規模健康医療データ分析についての研究成果をまとめました。
 

背景

 慢性腎臓病は世界で5~15%の人がもつ頻度の高い慢性疾患です。1慢性腎臓病が存在すると心筋梗塞や脳卒中などの合併症が増えます。2また、慢性腎臓病が進行すると透析治療や移植治療が必要となります。慢性腎臓病は、早期の段階から、様々な理由で医療の必要性が増加する可能性があります。しかし、早期慢性腎臓病において、どの様な所見がある場合に、どの程度、医療費増加が認められるのかについては検討されていませんでした。 

研究成果の内容

 就労世代8万人の健康医療データベースを分析し、5.3%の早期慢性腎臓病(軽度の腎機能低下や尿蛋白の陽性)が同定されました。早期慢性腎臓病の所見は、年間2.7万円(尿蛋白)、9.1万円(腎機能低下)、18.7万円(腎機能低下と尿蛋白)の医療費増加 と関連していました。医療費増加は5年間にわたって継続していました。

図:早期慢性腎臓病と医療費増加の関連
慢性腎臓病が無い状態と比較して、早期の慢性腎臓病所見(腎機能低下[推定糸球体濾過量30-59 mL/min/1.73m2]、尿蛋白陽性[試験紙1+以上])がある場合に、年間で、どれだけ医療費が増加するか(超過医療費)を推定。
 

今後の展開

 日本では、高齢化が進行し、人口が減少する中で、医療費の増加は社会にとって大きな課題です。健診で多く発見される早期の慢性腎臓病の段階から医療費が増加していることから、合併症や重症化の予防を介して、医療費負担の増加を止めるアクションが求められます。
私たちは、大規模な健康医療データを活用して、慢性腎臓病のリスクが高い集団に対して、行動経済学のナッジを活用し、適切な受療行動を促す行動変容介入にも取り組んでいます。3
将来にわたって健康を支える仕組みを持続可能にするために、大規模健康医療データを活用した研究とその成果の実装が強く求められており、私たちもチャレンジを続けます。

用語説明

*1:大規模健康医療データベース
保険者は被保険者の健診結果データ、医療機関での診療報酬請求情報(レセプト)をデータベース化して、健康支援のために活用しています。健診制度は日本に特徴的で、医療機関を受診する前の未診断の健康課題を捉えることができます。本研究では、保険者との共同研究によって、健診データとレセプトデータを紐づけることで、早期慢性腎臓病に対する検討が可能になりました。

*2:慢性腎臓病
慢性腎臓病は、早期には無症状であることが多く、健診で測定される検査所見によって定義されます。推定糸球体濾過量が60mL/min/1.73m2を下回ると腎機能低下があるとされます。腎機能低下、尿蛋白陽性(試験紙法で1+以上)のいずれかが存在すると慢性腎臓病が疑われます。

*3:超過医療費
特定の病気がある場合と、ない場合で、必要とされた年間医療費総額の差分が超過医療費と定義されます。Two-part modelというモデル式を利用して、年齢、性別、高血圧、糖尿病を調整した差分を推定しました。

【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
迫井直深(医学部医学科6年)
特任教授 田中 純子(引き受け教員)
Tel:082-257-5160 FAX:082-257-5164
E-mail:jun-tanaka*hiroshima-u.ac.jp

京都大学大学院医系研究科 人間健康科学系専攻
准教授 福間 真悟
Tel:075-366-7675
E-mail:fukuma.shingo.3m*kyoto-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


up