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【研究成果】放射線治療による免疫反応への期待~細胞シミュレーションによる免疫メカニズム解明~

研究成果のポイント

* 放射線治療では近年薬剤治療である免疫療法と組み合わせた治療により治療効果が改善することが報告されています。さらに放射線治療のみでも一定の免疫効果を強化することが報告されています。
* 我々の研究グループはミネソタ大学との共同研究を行い、細胞シミュレーション(Cellular Automata)によりこれまで放射線治療におけるがん微小環境の影響(酸素量や血管損傷)による治療効果への影響と最適な治療条件の探索を行ってきました。
* 本研究では高線量で単回照射した場合に起こる免疫効果のシミュレーションに成功し、さらにがん微小環境の変化により免疫反応を促進する、抑制する機構の解明に成功し、治療効果への影響に関しても非免疫反応と比較して4倍の体積減少を引き起こすことを示しました。

概要

 広島大学病院放射線部 河原大輔助教、ミネソタ大学Yoichi Watanabe教授らの研究グループは、単回高線量の放射線治療を行うことによる免疫反応モデルを構築し、これによる治療効果を細胞シミュレーションの開発に成功しました。
本研究成果は、2024年1月18日に欧州科学誌「Physica Medica」に掲載されました。

※細胞シミュレーション:数値シミュレーションを使用して腫瘍細胞の増殖、損傷や腫瘍細胞の血管の損傷、血管新生を確率的反応としてシミュレート可能なシステム

論文情報

論文タイトル
A simulation study on the radiation-induced immune response of tumors after single fraction high-dose irradiation

著者
河原大輔a※, Yoichi Watanabeb

a 広島大学病院放射線部
b ミネソタ大学病院放射線腫瘍学
※責任著者

掲載雑誌
Physica Medica

DOI番号
10.1016/j.ejmp.2023.103205.

背景

 近年、放射線治療では腫瘍へ直接ダメージを与えるとともに免疫応答を強化する免疫調節効果も持ち合わせています。しかし、免疫効果を誘発する条件は様々でそのメカニズムと治療効果については解明しきれていません。通常の放射線治療では低線量単回照射(2Gy/回)するが、本研究で対象とした転移性脳腫瘍では高線量単回照射(10Gy/回以上)を行う場合が多い。これまでの我々の研究で高線量単回照射により腫瘍に大きな直接的損傷を与えることができるとともに周囲の血管損傷により栄養が腫瘍に供給されないことで間接的な損傷を与えることが可能であることを明らかにしてきました。本研究では単回高線量の放射線治療を行った際に低酸素状態が活性化することで誘発する低酸素誘導因子であるHIF-1αに注目し、これによる免疫反応に関して細胞シミュレーションでの解析システムを開発し、治療効果とメカニズム解明に取り組みました。

研究成果の内容

 図1に本研究におけるがん微小環境を考慮した細胞シミュレーションにおけるの概念図を示します。図2にシミュレーションによって得られた照射前後の腫瘍量の変化を図示して示しています。1回高線量の放射線によるダメージによって血管が損傷し、低酸素化することでHIF-1αが活性化します。HIF-1αが増加は抗腫瘍免疫の誘導と抑制を同時に果たします。この影響を様々な条件下で調べており、その結果の一例を図3に示します。図3ではHIF-1αの産生に関わるエフェクターの確率による腫瘍量の変化を時系列に解析しています。免疫効果を誘導するエフェクターの確率によって大きく腫瘍量が変化することがわかります。放射線による免疫効果については個体差ふぁあるため、エフェクターを誘導しやすい場合には腫瘍を制御しやすくなることを示唆しています。さらに、表1では15Gy単回照射におけるHIF-1αが生成される酸素レベルの閾値(ThHIF)を変化させることによる腫瘍体積比(照射1年後の腫瘍体積に対する照射直前の腫瘍体積)を解析しています。ThHIFが低い場合はエフェクターの産生が大きく、これが免疫反応を誘導するため腫瘍体積比も小さくなることを示しています。照射によって低酸素化することで免疫反応が誘発され、腫瘍増殖が抑えられることを示され、さらに数か月免疫効果が持続する可能性が示されました。

今後の展開

 本研究は高線量単回照射によって免疫反応が誘発されるメカニズムを解明しました。今後は個々の患者における免疫反応の違いを検証し、治療効果を高められるような条件探索をシミュレーションで行い、臨床へ導入できるようなシステム開発を継続していきます。

参考資料

図1.細胞シミュレーションに組み込んだがん微小環境モデルの概要

図2.シミュレーション上の照射前後における腫瘍量の変化の。照射直後にDoomed cellへ変化し、アポトーシスによりApoptotic cell、照射によるダメージにより死細胞(Dead cell)などへ変化し、一部の残存腫瘍が再増殖を始めます。

図3.HIF-1αの産生に関わるエフェクターの確率による腫瘍量の変化を時系列に解析。免疫効果を誘導するエフェクターの確率によって大きく腫瘍量が変化することがわかります。

表1.15Gy単回照射におけるHIF-1αが生成される酸素レベルの閾値(ThHIF)の違いによる腫瘍体積比(rTV)の関係。

【お問い合わせ先】

病院放射線部 助教 河原大輔
Tel:082-257-1545 FAX:082-257-1546
E-mail:daika99*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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