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【研究成果】自然豊かな広大東広島キャンパスで世界新発見!

本研究成果のポイント

  •  広島大学東広島キャンパスに生える木の“かたち”を調べました。一本の植物にはふつう、たくさんの葉がついています。植物は、光を有効活用するため、自身の葉の重なりが少なくなるように工夫しながら葉を配置します。上に位置する葉が、下に位置する葉の日陰を作ってしまうと、下の葉は光不足で光合成ができなくなるからです。
  • 一本の幹に直接葉をつける樹木では、葉柄※1の長さとたわみ角※2を上の葉から下の葉に向かって徐々に増加させることで、葉の重なりを少なくすることが知られていました(図1・図2)。
  • 今回、上述のパターンとは真逆の配置で、上下の葉の重なりを減少させる植物を東広島キャンパス内で発見しました。ウコギ科※3のコシアブラ※3とタカノツメ※3は、葉柄の長さとたわみ角のどちらも、上から下の葉に向かって徐々に減少させることで、互いの葉の重なりを少なくするよう調節していたのです(図3)。こうした葉の配置はこれまで、どの植物からも報告がなく、全く知られていませんでした。
  • 今回の発見は、私たちの身近な自然にも、未知の知見が潜んでいることを示しています。また、私たちは植物の形の多様性と、その機能についての知識が不十分で、もっと理解を深めなければならないことも示唆しています。

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科大学院生の青栁仁士と山田俊弘教授、中林雅准教授の研究チームは、植物の形の多様性を理解するため、広島大学東広島キャンパスに生える樹木の形を調べています。この研究の中で、これまで誰にも知られていなかった葉の配置パターンを世界に先駆けて発見しました。
 植物は、自分の葉の間での重なりが少なくなるよう、葉の配置の工夫をしていることが知られています。重なってしまうと、上の葉が下の葉に日陰を作ることになるので、下の葉の光合成ができなくなるからです。例えば、一本の幹に直接葉をつける樹木では、葉柄※1の長さとたわみ角※2を上の葉から下の葉に向かって徐々に増加させることで、葉の重なりを少なくしています(図1)。実際に、このパターンは多くの植物に見ることができます(図2)。
 

図1 カクレミノ(Dendropanax trifidus)・ヤツデ(Fatsia japonica)の葉の配置パターンの概念図

垂直面;数字は葉の幹の位置での上からの順番:幹の一番上についている葉は1となる。この配置では、葉柄※1の長さとたわみ角※2を上の葉から下の葉に向かって徐々に増加させることで、葉の重なりを少なくする。
 

図2 ボルネオ島の熱帯雨林に生えるフネミノキ(Scaphium macropodum)の樹形

フネミノキも、葉柄※1の長さとたわみ角※2を上の葉から下の葉に向かって徐々に増加させる、図1で示された通りの配置をもつことがわかる。こういった配置をもつ植物は、フネミノキ以外にもよく知られている。
 

 今回調査したウコギ科※3のコシアブラ※3とタカノツメ※3は、葉柄の長さとたわみ角のどちらも、上の葉から下の葉に向かって徐々に減少させてました(図3)。これは、上のパターンと真逆な葉の配置で、世界初の発見になります。

図3 コシアブラ(Chengiopanax sciadophylloides)・タカノツメ(Gamblea innovans)の葉の配置パターンの概念図

垂直面;数字は葉の幹の位置での上からの順番:幹の一番上についている葉は1となる。この配置では、葉柄※1の長さとたわみ角※2を上の葉から下の葉に向かって徐々に減少させることで、葉の重なりを少なくする。
 

 

 今まで知られていた配置も、今回新たに見つかった配置も、出来上がる樹形はとても似ていて、葉の重なりを減少させるためには同じような効果があります(図4・5)。では、両者の間になんらかの機能的な違いはあるのでしょうか?(実は全く違いはないのかもしれませんが)我々研究チームはこの課題に取り組んでいきます。
 今回の新発見は私たちに、身近な自然にも未知の知見が潜んでいるということ、つまり、自然の奥深さを教えてくれました。同時に、私たちは、植物の形の多様性と、その機能についての知識が不十分で、もっと理解を深めなければならないことも示唆しています。


 

図4 カクレミノ※3 (Dendropanax trifidus)の樹形。数字は葉の幹の位置を示し、上からの順番である:幹の一番上についている葉は1となる

図5 タカノツメ※3 (Gamblea innovans)の樹形。数字は葉の幹の位置を示し、上からの順番である:幹の一番上についている葉は1となる

<発表論文>

論文タイトル
Newly found leaf arrangement to reduce self-shading within a crown in Japanese monoaxial tree species

著者
Aoyagi, H.1, *, Nakabayashi, M.1, Yamada, T.1,
1:広島大学 大学院統合生命科学研究科
*:Corresponding Author

掲載雑誌
Journal of Plant Research
DOI:https://doi.org/10.1007/s10265-024-01524-5
 

背景

 植物の形は、その植物が生き延び、子孫を残すうえで最適となるように進化してきたと考えられています。一度根付くと動くことができない植物は、“かたち(樹形や葉の配置)”を工夫することで、根付いたその場所で光合成量を最大化します。
 我々研究チームは、東広島キャンパスに生える植物を対象に、その工夫を具体的に理解するための研究を進めています。そして、その研究の中で、世界初の葉の配置パターンの発見に至りました。
 

研究成果の内容

 今回調査したウコギ科※3のコシアブラ※3とタカノツメ※3は、葉柄※1の長さとたわみ角※2のどちらも、上の葉から下の葉に向かって徐々に減少させていました(図3・5)。これは、これまでとは真逆な葉の配置で、世界初の発見になります。

 世界は未知なことであふれています。特に生物学にはこれがよく当てはまります。世界にいるはずの生き物の種のうち、人類に発見され、名前がついているのは、わずか10%程度だと言われています。生物多様性のほとんどは、分かっていないわけですから、毎年たくさんの新種が見つかることもうなずけますね。
 生物多様性の謎の部分は種の数だけではありません。形態的な多様性(かたちの多様性)についての知見はまだまだ乏しく、人類は理解を進める努力を進めなければなりません。私たちはこの研究で、その一端を担うことができました。
 

今後の展開

 葉柄の長さとたわみ角を上の葉から下の葉に向かって徐々に増加させる配置も、葉柄の長さとたわみ角を上の葉から下の葉に向かって徐々に減少させる配置も、出来上がる樹形はほとんど同じで、どちらも葉の重なりがうまく回避できています(図4・5)。
 それでは、なぜ二つの配置が存在するのでしょうか? 
 最終的にはほぼ同じに見える樹形を作り出す二つの配置ですが、何らかの条件下では、どちらかの配置が、もう一方の配置より有利になるのかもしれません。我々研究チームは、葉の配置パターンの違いが、植物個体の生存や繁殖にあたえる影響について、さらなる生態学的調査を進めています。
 

※1 葉柄:葉を支えている部分 (図6a参照)
※2 たわみ角:幹と葉柄のなす角 (図6b参照)
 

図6a 葉柄と葉身の概念図

図6b たわみ角の概念図。たわみ角は幹と葉柄のなす角で、Φ1は小さな、Φ2は大きなたわみ角を示す。

※3 ウコギ科には、特有の香りを発する種類が多く、薬用のオタネニンジン(チョウセンニンジンとかコウライニンジンと呼ばれることもあります)や山菜として賞味されるタラノキが含まれます。
 コシアブラとタカノツメは落葉高木で、直径50cmくらいまで育ち、東広島キャンパス内に多く自生しています。どちらも、若芽が食べられます。
 ヤツデは常緑の低木で、日陰によく耐えるので庭木として植えられます。
 カクレミノは、常緑の小高木です。地域によっては神聖な樹木とされ、神社の庭に植えられことも多いです。
 

【参考資料】

図7-a カクレミノ(Dendropanax trifidus)についていた葉。
数字は葉の幹の位置を示し、上からの順番である:幹の一番上についている葉は1となる
 

図7-b タカノツメ(Gamblea innovans) についていた葉。
数字は葉の幹の位置を示し、上からの順番である:幹の一番上についている葉は1となる
 

【お問い合わせ先】

大学院統合生命科学研究科生命環境総合科学プログラム
 山田 俊弘 教授
Tel:082-424-6508 FAX:082-424-0758
E-mail:yamada07*hiroshima-u.ac.jp
 (注: *は半角@に置き換えてください)


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