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【研究成果】加熱式たばこの長期使用が脳へ与える影響をアルツハイマー病モデルマウスで検証

研究成果のポイント

・加熱式たばこの長期使用が脳へ与える影響を、動物実験モデルで評価しました。
・アルツハイマー病(※1)の前駆期モデルマウスの脳内において、加熱式たばこ曝露により、非炎症性経路を介した影響が生じている可能性が明らかになりました。
・加熱式たばこ製品は喫煙者の新たな選択肢となっており、加熱式たばこが脳へ与える影響について、今後も検討を続ける必要性があると考えられます。

概要

・加熱式たばこ製品は、従来の紙巻きたばこ製品に代わる新たな選択肢です。その生体に対する影響、とりわけ加熱式たばこの長期使用が脳へ与える影響については、ほとんどわかっていません。
・そこで、アルツハイマー病の前駆期(※2)を模倣したマウスモデルを用いて、加熱式たばこの長期使用が脳へ与える影響を検証しました。
・アルツハイマー病モデルマウスであるAppノックインマウス(※3)を16週間、週5日加熱式たばこに曝露させました。ニコチン代謝産物である血中コチニン濃度が上昇していることを、このモデルが加熱式たばこに曝露されている根拠としました。
・加熱式たばこの長期使用がアミロイド病理(※4)に与える影響は限定的でした。一方、大脳皮質において探索的に行った遺伝子発現解析(非調整p値)(※5)では、加熱式たばこ曝露により非炎症性経路を介した影響(脳下垂体ホルモン活性、神経ペプチドホルモン活性、ガラニン受容体活性に関連する遺伝子)が生じている可能性が示されました。
 

論文情報

掲載誌: Scientific Reports (2024 年 1 月)
論文タイトル: The long-term effects of heated tobacco product exposure on the central nervous system in a mouse model of prodromal Alzheimer's disease
著者:Hidetada Yamada1(山田英忠), Yu Yamazaki1*(山崎 雄), Yoshiko Takebayashi1(竹林佳子), Kyosuke Yazawa1,2(矢澤恭介), Miwako Sasanishi1(笹西美和子), Atsuko Motoda1(元田敦子), Masahiro Nakamori1(中森正博), Hiroyuki Morino1,3(森野豊之), Tetsuya Takahashi4(高橋哲也), Hirofumi Maruyama1(丸山博文)
1.広島大学大学院医系科学研究科 脳神経内科学
2.広島大学大学院医系科学研究科 治療薬効学
3.徳島大学大学院医歯薬学研究部 遺伝情報医学分野
4.広島国際大学総合リハビリテーション学部 リハビリテーション学科
*責任著者

研究成果の内容

 まず、加熱式たばこの曝露環境(図1)を作り、それが喫煙モデルとして適切かどうか検討しました。15週齢のAppノックインマウスを、加熱式たばこに長期間(週5日間×16週間)曝露させ、血中コチニン値(ニコチンの主要な代謝産物。喫煙状態の指標として用いられています)を測定したところ、図2のように血中のコチニン値は加熱式たばこに暴露されたマウスにおいて確かに上昇していました。また、肺を摘出し、炎症性サイトカイン、酸化ストレス関連遺伝子、白血球遊走因子(※6)の遺伝子発現を、RT-qPCR法により解析したところ、白血球遊走因子の遺伝子発現が加熱式たばこに暴露されたマウスにおいて上昇していました(図2)。これらの結果は、本研究の曝露環境によって、マウスが適切に加熱式たばこに曝露され、実際に肺への影響が確認されたことを示しています。
 このように、本動物実験モデルはヒトでの加熱式たばこ曝露状態を首尾よく模倣していると考えられました。そこで、15週齢のAppノックインマウスをもちいて、加熱式たばこの長期曝露(週5日間×16週間)が脳へどのような影響を与えるかを検討しました。その結果、大脳におけるアミロイドプラーク沈着や神経炎症の程度は、図3のように加熱式たばこに暴露されたマウスと暴露されていないマウスの間で差はありませんでした。また、大脳皮質から抽出したRNAを用いた遺伝子発現解析(bulk RNA sequencing)においても調整p値(Benjamini-Hochberg法)を用いた解析においても、加熱式たばこに暴露されたマウスと暴露されていないマウスの間で遺伝子発現パターンに差はありませんでした。一方、探索的に行った非調整p値を用いた解析では図4のように282個の遺伝子(発現上昇95; 発現減少187)が加熱式たばこへの曝露によって変化していました。これらの遺伝子は、脳下垂体ホルモン活性、神経ペプチドホルモン活性、ガラニン受容体活性に関連していました。
 このことから、加熱式たばこの長期使用がアミロイド病理に与える影響は限定的と考えられましたが、アルツハイマー病の前駆期モデルマウスの脳内において、加熱式たばこ曝露により、非炎症性経路を介した影響が生じている可能性が明らかになりました。

今後の展開

 加熱式たばこ製品の使用にともなう複合化学物質の摂取が、生体にどのような影響を与えるのか(安全性、有効性、危険性)については、様々な角度から評価が必要です。今後は、今回得られた結果がアルツハイマー病の脳内のみに見られる現象なのかを明らかにするほか、ヒトで行うことが困難な研究(例えば、加熱式たばこの使用により生じる生体変化を鋭敏にとらえるための血液検査法の開発など)を行うため、本動物実験モデルを活用する予定です。

参考資料

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科 脳神経内科学
大学院生    山田 英忠
講師      山崎 雄
Tel:082-257-5201 FAX:082-505-0490
E-mail:yuyamazaki*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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