• ホームHome
  • 【研究成果】画像生成AIで診断精度が大幅に改善、眼底疾患診断トレーニングの新手法

【研究成果】画像生成AIで診断精度が大幅に改善、眼底疾患診断トレーニングの新手法

研究成果のポイント

・画像生成系人工知能(AI)による合成画像を用いたわずか53分のWeb診断トレーニングで、医療系学生の診断能力が有意に改善し、その性能は最新AIモデルを超えました。
・AI合成画像はプライバシー保護に優れ医療教育に適しており、最新生成系AI技術がその大量生成を簡単にしたことで今手法が現実化しました。
・今手法がWebを通じて世界中の医療画像読影ラーニングカーブ(*1)短縮に診療科に関わらず寄与することが期待されます。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科・田淵仁志寄附講座教授らの研究グループは、AIを活用した網膜疾患の画像診断トレーニング方法を開発しました。今回、画像生成系AIモデルであるStable Diffusion 1.0(Stability AI)を活用して生成した600枚の合成網膜画像を用いたe-learningコースを161人の視能訓練士過程全4学年を対象に実施した結果、平均53分で診断精度が全学年で大幅に向上し、最新のAIモデルと同等以上の診断性能を獲得しました。さらに学生の診断能力は未学習撮影画像でAIモデルよりも大幅に高く保たれ、汎化性能(*2)はAIより優れていることが示唆されました。
本研究成果は2024年3月14日(木)にBritish Journal of Ophthalmologyオンライン版に掲載されました。

論文情報

論文タイトル:Using AI to Improve Human Performance: Efficient Retinal Disease Detection Training with Synthetic Images
著者: 田淵仁志*(1), Justin Engelmann(2), 前田史篤 (3), 西川遼 (4), 長澤利彦 (4), 山内知房 (4), 田邉真生 (4), 赤田真啓 (4), 木原慧太 (4), 中江奏之 (4), 木内良明 (5), Miguel Bernabeu(2)
1:広島大学大学院医系科学研究科 医療のためのテクノロジーとデザインシンキング講座
2: Centre for Medical Informatics, Usher Institute, The University of Edinburgh
3: 新潟医療福祉大学視機能科学科
4: 社会医療法人三栄会ツカザキ病院眼科
*:責任著者:田淵仁志  広島大学大学院医系科学研究科 医療のためのテクノロジーとデザインシンキング講座(眼科寄附講座)教授
掲載誌:British Journal of Ophthalmology

背景

 AI診断は大きな可能性を秘めているものの、安全の観点から専門医診断の併用が必要です。AIによる見落としや、正常のものを異常とする偽陽性率の高さは医療提供サイドの責任上どうしても無視できないからです。一方でAIによる医療の効率化については医療提供サイドも期待しているところで、AI診断の欠点を補完する役割の人材養成のニーズが存在しています。これまでの人工知能技術でも画像合成は可能でしたが、その生成には非常に時間がかかり、大量の画像を利用した今教育手法は現実的ではありませんでした。最近になって画像生成が非常に効率化された最新の画像生成系AIが登場し、懸案であった画像読影者養成の効率化手法の効果検証が可能になりました。

研究成果の内容

 AI合成画像は5つの網膜疾患(網膜剥離,緑内障,加齢黄斑変性,血管閉塞症,糖尿病網膜症)及び正常眼底の計6状態各100枚で構成し、Web上の学習コースを対象に実施しました。性能評価は実際の患者画像を用いて同上6状態各20枚計120枚の画像で2種類の画角(学習された220度画像(眼底の8割を撮影範囲とする超広角画像)および未学習の50度画像(一般的な健康診断で用いられる眼底中心部を精査する標準画角画像)で2回実施しました。学習者は平均53分でコースを完了し、診断精度が有意に向上しました。超広角画像の平均診断正答率は学習前43.6%から学習後74.1%に、標準画角画像では学習前42.7%から学習後68.7%に向上しました。超広角画像で学習された最新AIモデル(イギリス エジンバラ大学)の正答率は73.3%、標準画角画像では40%であり、学習者の診断性能は最新AIモデルに匹敵する上に、応用能力(汎化性能)で大きく上回ることが示されました。本研究はAIが人間のスキルを代替するのではなく、強化してくれる可能性を示しました。

今後の展開

 現在、従来型の授業法を用いた場合との比較検討国際共同研究(イギリス(エジンバラ大学、グラスゴー大学)、日本(川崎医療福祉大学、がん研有明病院等))の準備中で、AI合成医療画像トレーニングの科学的効果をさらに精緻に分析する予定です。(参考資料参照)今後の研究によって、この手法が臨床教育をより推進し、非専門家にとって恩恵になるかについて明らかにしていきたいと考えています。私たちは、この研究成果が人間中心のAIの代表例として、眼科やその他の医療分野における臨床教育や医療レベルの向上に役立つことを願っています。

参考資料

 現在この研究はStable Diffusionの最新バージョンである、Stable Diffusion XL を用いた手法に移行して進行中です。現在進行中の研究でAI合成した、良性眼瞼腫瘍(左、霰粒腫)と悪性眼瞼腫瘍(右、脂腺癌)の画像を資料として下記に掲載します。両者ともに専門医でもAIによる合成画像であることを見抜くことは困難です。
 これら二つの疾患は眼科専門医でもしばしば混同し積年の眼科臨床上の課題の一つです。この二つの疾患においてもAI画像診断トレーンニング法が有効であることは既に確認済で、5月にシアトルで開催される国際学会ARVO(Association for Research in Vision and Ophthalmology年次総会)2024で発表予定です。

用語解説

(*1)ラーニングカーブ
  学習や訓練に費やした労力(時間や試行回数など)と、対象とする知識や能力の獲得、習熟度合いの関係を図示したグラフ。

(*2)汎化性能
  未知のデータに対応する能力。

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科 寄附講座教授 田淵 仁志
Tel:082-257-2015 
E-mail:htabuchi*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


up