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【研究成果】超音波を用いて肝臓病を診断する新たな検査方法を発見 ~従来の方法より正確な診断に期待~

本研究成果のポイント

  • 代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD)患者の肝線維化(肝臓の硬さ)と炎症の診断において、超音波を用いた方法が有用であることを明らかにしました。
  • 痛みがなく繰り返し検査できる測定方法において、より正確な評価を行うための一助となることが期待されます。

概要

  • 広島大学病院 診療支援部 生体検査部門 上田直幸,同検査部 茂久田翔准教授,同消化器代謝内科河岡友和講師らのグループはMASLD患者を対象とした研究で肝線維化と炎症の評価において超音波を用いたせん断波(shear waves:SW)と分散勾配(dispersion slope:DS)が有用であることを明らかにしました。
    SWに影響を与える因子として炎症やうっ血が挙げられます。今回の研究でSWに影響を与える炎症のレベルを明らかにし,それに相当するDSの算出に成功しました。

論文情報

  • 掲載雑誌:Hepatology Research
  • 論文タイトル:Influence of Dispersion Slope on the Diagnosis of Liver Fibrosis by the Shear Wave in Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease
  • 著者名:Naoyuki Ueda1,2, Sho Mokuda1, Tomokazu Kawaoka3*, Shinsuke Uchikawa3, Kei Amioka3, Masataka Tsuge3, Kana Asada1,2, Yuri Okada1,2, Yui Kobayashi1,2, Mai Ishikawa1,2, Takashi Arase1,2, Koji Arihiro4, Shiro Oka3
    1Division of Laboratory Medicine, Hiroshima University Hospital
    2Division of Clinical Support, Hiroshima University Hospital
    3Department of Gastroenterology, Hiroshima University Hospital
    4Department of Anatomical Pathology, Hiroshima University Hospital
    * Corresponding author(責任著者) 
  • DOI番号:10.1111/hepr.14061
     

背景

 MASLDは、肝臓の細胞に脂肪が異常に蓄積することによって引き起こされ、進行すると肝線維化や肝硬変、さらには肝細胞癌(HCC)に至る可能性があります。初期段階では症状がほとんど現れませんが、進行するとだるさや、食欲低下、黄疸、腹痛のような症状が出ることがあります。最終的には肝不全(※1)や肝性脳症(※2)、転移をきたし,結果的に死に至る病気です。
 従来、肝線維化の評価には肝生検と呼ばれる、針を刺して肝臓の組織を採取する検査が用いられてきました。しかし検査を行うために入院をすることが多く、検査時には痛みや出血を伴います。そのリスクや困難さから痛みがなく繰り返し検査できる評価方法が求められています。
 そこで今では超音波を用いたせん断波(shear waves:SW)(※3)と分散勾配(dispersion slope:DS)(※4)を用いた方法が注目されています。肝臓線維化と炎症を測定するSWは肝臓の硬さ(線維化の程度)を反映し、DSは肝臓の粘性(炎症の程度)を反映します。
 また、過去の報告ではSWに影響を与える因子として炎症やうっ血(※5)が挙げられています。そのため、SWの値に影響を与える炎症のレベルを把握することは、正確な評価を行う上で重要です。今回の研究では、SWとDSを肝生検の結果と比較することで検査の精度について検討し、SWに影響を与えると思われる炎症のレベルとそのDSについても検討しました。

研究成果の内容

 本研究では、2019年9月から2022年12月までの間に肝生検を受けたMASLD疑いの患者159人を対象に、SWとDSを測定しました。肝生検によって肝臓の線維化はF0~F4、炎症にはA0~A3に分類されます。それぞれのステージとSW、DSの比較解析を行い、病理診断と超音波診断の一致度を調査しました。その結果、SWは肝線維化を、DSは炎症を正確に反映することが確認されました。次に炎症がSW値に与える影響を検討するため、肝生検結果とSWの結果が一致しない患者を検索しました。そのうち肝生検の結果がF0-1の肝線維化が進行していない患者を対象としました(91名)。肝生検とSWの結果が一致した群を“Correct Diagnosis group”、肝生検とSWの結果が異なった群を“Incorrect Diagnosis group”としました。両群間でDS値を比較し、DSのカットオフ値を算出しました。その結果、カットオフ値は13.2 m/s/kHzとなり、この値を超える場合は、炎症によりSW値に影響を与えることがわかりました。
 

今後の展開

 本研究により、超音波を用いたSWとDSがMASLD患者の肝線維化と炎症の評価において有用であることが示され、従来の肝生検に代わる有用な方法となることが示されました。特に、DS値が13.2 m/s/kHzを超える場合、炎症による影響を考慮する必要があることが明らかになりました。これにより、痛みがなく繰り返し検査できる方法でより正確な診断が可能となり、患者の治療方針の決定に役立つと期待されます。

用語解説

(※1)肝不全:肝臓の機能が失われた状態で、ウイルス感染やアルコール摂取などが主な原因。
(※2)肝性脳症:肝臓の機能障害によって引き起こされる脳の異常症状。この症状は、肝不全に伴うアンモニアなどの毒性物質が脳に影響を及ぼすことで発生する。
(※3)せん断波(shear waves:SW):超音波検査装置からビームを出し、組織を非常に小さく振動させる。その振動の伝わる波のこと。この波の速さを測定することで組織の硬さを推定する。組織が固くなるほどSWは早くなる。
(※4)分散勾配(dispersion slope:DS):肝臓のような組織はSWの種類(周波数)によってSWの速度が変化するという性質がある。その種類ごとの速度をグラフにした際の傾きのこと。
(※5)うっ血:肝臓内の血液の流れが滞り、血液が肝臓に過剰に溜まる状態。主な原因は心不全や肝静脈の閉塞。
 

【お問い合わせ先】

広島大学病院 消化器内科 河岡 友和
Tel:082-257-5555 FAX:082-257-1728
E-mail:kawaokatomo@hiroshima-u.ac.jp


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