本研究成果は、2024年5月27日(月)に英国科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」(オンライン)に掲載されました。本研究成果について、6月21日(金)11時からオンラインにて記者発表を行います。
是非ともご取材くださいますよう、よろしくお願いいたします。
タンパク質上の糖鎖合成はタンパク質の機能に必須です。これまで、ゴルジ体は糖鎖をタンパク質上に合成するための細胞小器官であることが知られていました。しかし、糖鎖を合成する酵素がゴルジ体のどこに位置するかについては正確に知るための手段がなく、これまでほとんど解明されていませんでした。
研究グループでは、最先端の遺伝子導入法(CRISPR/Cas9法)と高い空間・時間分解能を持つ超解像顕微鏡を用いてゴルジ体が以下の性質を持つことを明らかにしました。
①ゴルジ体が小さな単位「ゴルジユニット」から構成され、それらのゴルジユニットが切断、融合、変形などダイナミックに変化しながらゴルジ体全体を構成すること
②ゴルジユニットの中を、糖鎖合成酵素が、更に小さい集まり「ゾーン」となって動き回ること
③ゾーンの大きさや分布は糖鎖合成酵素の種類によって異なること
④小さなゾーンはゴルジユニット同士がくっついていると、その間を移動できるが、大きなゾーンは移動できないこと
⑤ゴルジユニット同士が離れると、小さなゾーンがユニット間を移動できなくなり、糖鎖合成に異常をきたすこと。
これらの知見は全く新しいゴルジ体の姿を示すもので、今後の生物学研究へ大きなインパクトを与えるものと期待されます。
本研究成果により、これまで不明だったタンパク質の糖鎖修飾のメカニズムが明らかになり、糖鎖異常による疾患への応用が期待されます。今回、特に、ゴルジ体のユニットがバラバラになると糖鎖合成に異常をきたし骨や軟骨の形成の異常につながる可能性を示しました。そのような病気の原因解明や治療への応用が期待されます。
本研究成果は、2024年5月27日(月)に英国科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Dynamic movement of the Golgi unit and its glycosylation enzyme zones”
著者名:Akihiro Harada1*(責任著者), Masataka Kunii1*, Kazuo Kurokawa2*†, Takuya Sumi1*(*第一共著者), Satoshi Kanda1, Yu Zhang1, Satomi Nadanaka3, Koichiro M Hirosawa4, Kazuaki Tokunaga5, Takuro Tojima2, Manabu Taniguchi1, Kenta Moriwaki1, Shin-ichiro Yoshimura1, Miki-Yamamoto Hino6, Satoshi Goto6, Toyomasa Katagiri7, Satoshi Kume8, Mitsuko Hayashi-Nishino9, Miyako Nakano10, Eiji Miyoshi11, Kenichi G N Suzuki4,12, Hiroshi Kitagawa3, Akihiko Nakano2
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 細胞生物学
2. 理化学研究所 光量子工学研究センター
3. 神戸薬科大学 生化学研究室
4. 岐阜大学 細胞生物物理学教室
5. ニコンイメージングセンター
6. 立教大学理学部 生命理学科分子生物学
7. 医薬基盤・栄養・健康研究所 創薬デザイン研究センター 生体機能分子制御プロジェクト
8. 理化学研究所 生命機能科学研究センター
9. 大阪大学 産業科学研究所
10. 広島大学 統合生命科学研究科
11. 大阪大学 大学院医学系研究科 保健学専攻分子生化学
12. 国立がん研究センター研究所 先端バイオイメージング研究分野
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-024-48901-1
本研究は、科研費(重点領域研究「オルガネラゾーン」及び基盤研究B)の一環として行われ、前頁に記した多くの共同研究者の協力を得て行われました。
※1 ゴルジ体
真核生物の細胞の主な細胞小器官の1つ。扁平な袋状の膜構造(槽と呼ばれる)が重なって出来ており、細胞外へ分泌されるタンパク質に糖を結合させ(糖鎖修飾)、タンパク質の目的の場所への分別・輸送が行われ、タンパク質の移動の起点となる。
※2 糖鎖合成酵素
糖鎖とはグルコース(ブドウ糖)などの糖が鎖状につながったものを指し、糖鎖合成酵素は糖転移酵素とも呼ばれ、細胞内でタンパク質などの上に糖鎖を結合させたり、伸ばしたりする酵素である。
※3 超解像顕微鏡
従来の光学顕微鏡が持つ限界を超えた分解能(計測できる一番小さな長さ)を発揮する光学的手法全てを指す。本研究では主に、理化学研究所光量子工学研究センター生細胞超解像イメージング研究チームで開発されたSCLIMという高速超解像顕微鏡を使用して、生きた細胞を高い“時間・空間解像能”で解析している。