広島大学病院 眼科 准教授 廣岡 一行
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本研究成果のポイント
- 高血圧が重要な症状である原発性アルドステロン症(※1)の患者では正常眼圧
緑内障(※2)の有病率(※3)が非常に高いことが明らかになった。 - 通常の高血圧症患者に比べて原発性アルドステロン症患者では、3-4倍正常眼圧
緑内障になりやすいことが確かめられた。 - 正常眼圧緑内障の発症と高血圧は無関係ということも分かった。
概要
原発性アルドステロン症患者の11.8%が正常眼圧緑内障になっており、日本で以前に行われた住民調査では対象者の3.6%が正常眼圧緑内障であったことから、原発性アルドステロン症の患者では正常眼圧緑内障になる危険性が非常に高いことが明らかになった。また原発性アルドステロン症が否定された高血圧症患者では、その5.2%が正常眼圧緑内障であったことから、原発性アルドステロン症の患者が正常眼圧緑内障になりやすいのは、血圧とは無関係であることが明らかになった。本研究は、広島大学病院、金沢大学附属病院、香川大学医学部附属病院で2017年から2022年にかけて行われた。対象は内分泌内科医によって新規に診断された原発性アルドステロン症が原因の高血圧患者と原発性アルドステロン症が否定された高血圧症患者であり、これらの患者に対して眼科医(緑内障専門医)による診察がおこなわれた。
論文情報
- 論文のタイトル:Prevalence of normal-tension glaucoma in patients with primary aldosteronism
- 著者:Kazuyuki Hirooka, Tomomi Higashide, Kimikazu Sakaguchi, Sachiko Udagawa, Kazuhisa Sugiyama, Kenji Oki, Mitsuhiro Kometani, Takashi Yoneda, Kensaku Fukunaga, Tomoyuki Akita, Taro Baba, Yoshiaki Kiuchi
- 掲載雑誌名:American Journal of Ophthalmology (2024年9月14日掲載)
- DOI:10 1016/j.ajo.2024.09.014
- URL:http://dx.doi.org/10.1016/j.ajo.2024.09.014
背景
日本人における失明原因で一番多い疾患は緑内障であり、緑内障は治すことのできない病気であるため、いかにして進行を遅らせるかが治療をするうえで重要になってくる。通常、緑内障は眼圧を下げることにより進行を遅らせることができるが、日本人には眼圧が正常であるにもかかわらず緑内障を発症し、進行するタイプの緑内障(正常眼圧緑内障)が多い。そのため緑内障の発症・進行には眼圧だけでなく、それ以外の原因の存在が考えられているが、未だ明らかになっていない。従って、眼圧以外の原因を見つけることが緑内障による失明を少しでも少なくするためには重要になってくる。
日本には高血圧症患者が3500万人存在すると言われており、その5-10%は原発性アルドステロン症による高血圧と考えられている。つまり、日本では100万以上の原発性アルドステロン症患者の存在が推測されている。
20年程前から動物(ラット)を使って緑内障の研究を進めてきたが、今までの研究結果からラットの体内にアルドステロンを投与すると眼圧は上昇しないにも関わらず、緑内障を発症することを明らかにした。そのため、原発性アルドステロン症と正常眼圧緑内障の関係に着目するようになった。
研究成果の内容
原発性アルドステロン症が原因の高血圧患者の11.8%、原発性アルドステロン症が否定された高血圧症患者の5.2%が正常眼圧緑内障を発症していた。年齢や眼圧等で補正した結果、原発性アルドステロン症が否定された高血圧症患者に比べて原発性アルドステロン症が原因の高血圧症患者では約4倍の危険性で正常眼圧緑内障を発症することが明らかになった。従って、高血圧症患者で原発性アルドステロン症と診断された患者はその時点で眼科を受診し、検査をすることが緑内障の早期発見に繋がってくる。またこれとは逆に正常眼圧緑内障の患者で高血圧を有している場合には、内科を受診して原発性アルドステロン症に関する検査をすることが大切である。
原発性アルドステロン症では脳卒中や心不全、腎不全を発症する危険性が高いことが分かっているが、今回の結果で正常眼圧緑内障を発症する危険性も高いことが明らかになった。
今後の展開
原発性アルドステロン症を有する正常眼圧緑内障に対する最適な治療法を明らかにすることが重要になってくる。すなわち、原発性アルドステロン症の治療が正常眼圧緑内障の治療に相乗効果をもたらすのかどうかを今後の臨床研究で明らかにしていく必要がある。
原発性アルドステロン症の早期発見が重要であるとともに、正常眼圧緑内障の症例では原発性アルドステロン症の有無を調べることも重要である。また(内分泌)内科医と眼科医(緑内障専門医)との連携が求められる。そのためにも、今回の研究結果を広く眼科医だけでなく内科医、更には一般の方々にも知ってもらうことが、原発性アルドステロン症と正常眼圧緑内障双方の早期発見に繋がっていくと確信している。
用語説明
原発性アルドステロン症(※1):副腎からアルドステロンが過剰に分泌される病気。原発性アルドステロン症の重要な症状は高血圧であり、心臓や脳の血管の病気が生じる危険性が高いといわれている。
正常眼圧緑内障(※2):眼圧とは、眼の硬さを数値化したもの。眼圧が高い(眼が硬い)程、目の神経は圧迫されて傷みやすくなる(緑内障)。眼圧の正常値は10-21 mmHg。眼圧値が常に正常範囲内にあるにもかかわらず、緑内障が発症・進行する。日本人では緑内障のなかでも正常眼圧緑内障が最も多い。
有病率(※3):ある一時点において、病気を有している人の割合。