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【研究成果】地下2900kmで起こる水と鉄の反応が鍵!水が引き起こすマントル最深部の地震波速度低下

本研究成果のポイント

  • 地下2900km地点の核-マントル境界※1に存在する、地震波が極端に遅く伝わる「地震波超低速度領域※2」について、その形成メカニズムを解明。
  • 水が鉄と反応することで新たな鉱物を作り出し、鉄元素がその鉱物内を高速で移動することで地震波超低速度領域を形成することを明らかに。
  • 地球表層からマントル、そして核に至る地球内部の水の大循環を示唆。

概要

 大阪大学大学院理学研究科の西真之准教授、大学院生(研究当時)の河野克俊さんを中心とする研究グループは、大阪大学大学院理学研究科の近藤忠教授、高輝度光科学研究センターの柿澤翔テニュアトラック研究員、広島大学の井上徹教授、愛媛大学の桑原秀治講師との共同研究により、地球内部の水がマントル最深部の地震波の速度を低下させる新たなメカニズムを発見しました。
 地球の中心部にある核(液体の鉄)とその外側のマントル(鉱物)が接する「核―マントル境界(深さ2900キロメートル)」には、地震波が極端に遅く伝わる「地震波超低速度領域(以下、低速度域)」と呼ばれる特殊な領域が存在します(図1)。これまで、核からマントルに移動する鉄元素が、この速度低下を引き起こしているという説が提唱されていましたが、鉄元素がどのようにしてマントル内を移動するのか、そのメカニズムは大きな謎でした。

図1. 地球内部の断面図と地震波超低速度領域(低速度域)

 今回の研究では、地球内部の高温・高圧の環境を再現する実験により、水が鉄と反応することで新たな鉱物を作り出し、鉄元素がその鉱物内を高速で移動することを確認しました。これにより、マントルに水が存在することで低速度域の形成につながることが示唆されました。また、この領域の大きさを形成するには、約30京トンの水(地球全体の海水の約20%に相当)が必要であると推定されました。この発見は、地球表層の水がマントル、そして核にまで循環している可能性を強く示唆しており、地球の成り立ちや内部構造の理解に新たな視点を提供することが期待されます。
 本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に、10月15日(火)18時(日本時間)に公開されました。

研究の背景

 地震波の伝わり方は、地球内部の構造に関する情報をもたらします。地表からの深さ2900キロメートルは、液体の鉄でできた核と、鉱物でできたマントルが接する「核-マントル境界」です。地震観測データによると、この境界のマントル側には、地震波が極端に遅く伝わる領域「低速度域」と呼ばれる数十キロメートルにわたる厚さの領域が存在します(図1)。この低速度域の成り立ちは地球科学の大きな謎の一つであり、長年にわたり議論が続いています。
 一つの有力な仮説として、核からマントルへの鉄元素の移動が提案されています。しかし、これまでの研究で明らかになったのは、マントルを構成するケイ酸塩鉱物※3内を鉄元素が移動する速度は非常に遅いという事実でした。46億年という地球の歴史を経ても、鉄元素の移動はわずか数メートルと見積もられ、低速度域の広がり(数十キロメートル)を説明することはできませんでした。

研究の内容

 今回の研究では、鉄元素の移動を促進する要因として「水」に注目しました。水成分を含む鉱物※4 (含水鉱物など)はマントルに存在しています。近年の研究によると、地球内部には、海水の数倍にも及ぶ水が存在する可能性が示されており、低速度域の謎を解く鍵になると考えました。
 研究グループは、高温・高圧の環境を再現するマルチアンビル装置※5を使用し、液体の鉄と鉱物が接する核―マントル境界を模擬しました。実験の結果、鉱物が水を含む場合にのみ、鉄元素が鉱物側に高速移動することが初めて確認されました(図2)。さらに、鉄の移動距離は試料に含まれる水の量に応じて増加し、水が鉄元素の移動に不可欠であることが明らかになりました。

図2. 実験回収試料の電子顕微鏡像

 では、水がなぜ鉄元素の移動と関係するのでしょうか。今回の実験では、水と鉄が化学反応して新たに「フェロペリクレース※6」という鉱物が生成されました。フェロペリクレース中の鉄元素の移動速度は、マントルを主に構成するケイ酸塩鉱物と比べ、数桁速いことが知られています。実際のマントルにおいても(図3)、水により生成されたフェロペリクレースが鉄元素の移動経路となることで、数十キロメートルの鉄元素の移動が可能となり、低速度域を形成したと考えられます。

図3.水循環と低速度層の形成

本研究成果の意義

 本研究の結果は、水がマントル最下部の構造に重要な役割を果たしていることを示唆しています。同時に、地球内部の水の循環が、地球表層からマントル全体、さらに核にまで及ぶことを支持するものです(図1)。実験結果に基づく推定では、約30京トンの水(地球全体の海水の約20%に相当)により低速度域が形成されています(図4)。今後、実験や数値モデル計算などにより、地震波速度と水循環の関係がさらに検証され、地球の運動や進化に関する議論に大きな影響を与えると期待されます。

図4. 核(液体の鉄)と反応する水(H2O)の量と地震波速度の関係

特記事項

 本研究成果は、2024年10月15日(火)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。
 

  • タイトル:“Extensive iron–water exchange at Earth's core–mantle boundary can explain seismic anomalies”
  • 著者名:Katsutoshi Kawano, Masayuki Nishi, Hideharu Kuwahara, Sho Kakizawa, Toru Inoue and Tadashi Kondo
  • DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-024-52677-9

    なお、本研究は、JSPS科研費(JP 22H01322)の支援により実施されました。

用語説明

※1 核―マントル境界 
地球内部における核とマントルの間の境界を指し、136万気圧、4000ケルビンの超高温・高圧の環境である。地球は、地殻(深さ約30キロメートルまで)、マントル(深さ30~2900キロメートル)、核(深さ2900~6400キロメートル)から構成されている。マントルは主にケイ酸塩鉱物からなる複数種類の鉱物で構成されている。一方、核の外側半分(深さ2900~5200キロメートル)は主に液体の鉄で構成されている。

※2 地震波超低速度領域 
核―マントル境界付近にある、地震波の伝わる速さが非常に遅い領域。成因として、核からマントルへの鉄元素の移動や、沈み込んだ古いプレートの残骸、初期地球からの形成残留物など複数の仮説があり、地球内部の謎として長年にわたり議論が続けられている。

※3 ケイ酸塩鉱物
ケイ素 (Si) と酸素 (O) を主成分とした鉱物群で、地球のマントルや地殻に広く分布する。マントルは主にかんらん石やブリッジマナイトなどのケイ酸塩鉱物で構成される。これらの鉱物は鉄元素を含むが、鉄元素の動きは非常に遅く、長い時間が経ってもマントル内でわずか数メートルしか移動しない。

※4 水成分を含む鉱物 
マントルには、結晶構造中に水成分(H2OやOH基)を含む鉱物(含水鉱物など)が存在する。これらの鉱物は、地球内部に大量の水成分を貯蔵することができる。このようにして地球内部に貯蔵される水の質量は、海水の数倍に及ぶと推定されており、マグマの生成やマントルの対流など、地球の進化に大きな影響を与えている。特に、プレートの沈み込みに伴うマントルの下降流によって、水がマントル内を循環することが、近年の研究で盛んに議論されている。
参考: すぐにわかる地球深部水の謎
https://www.youtube.com/watch?v=1Kxj9jQJbPE

※5 マルチアンビル装置 
高温・高圧の環境を人工的に再現するための実験装置。8個の立方体状のアンビルを大型プレスで加圧し、中心に置かれた試料に力を集中することにより高い圧力を発生させる。地球深部のような極端な温度・圧力環境下での鉱物や物質の性質を研究することに使用される。
参考: すぐにわかる世界一硬いダイヤモンドの作り方
https://www.youtube.com/watch?v=HyNKfuxqzIo&t=6s

※6 フェロペリクレース 
マグネシウム (Mg) と酸素 (O)、鉄 (Fe) からなる鉱物。フェロペリクレース中の鉄元素の移動 (拡散) 速度は、ケイ酸塩鉱物に比べて数桁速い。
 

【西准教授のコメント】水は地球の表層だけでなく、地球内部においても重要な成分の一つであり、地球の進化に大きな影響を与えています。しかし、地球内部での水の具体的な存在量や分布については、まだよくわかっていません。今回の発見は、水が地震波異常を説明するだけでなく、地球内部の水循環がマントルを超えて核にまで及んでいる可能性を示唆しています。今後、この水循環モデルに基づく議論が進展し、地球内部の運動や進化、構造に対する理解がさらに深まることが期待されます。

参考URL

西真之准教授 研究者総覧
URL:https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/9ad08a86cef66c9a.html
 

【お問い合わせ先】

<研究に関するお問い合わせ>
 大阪大学 大学院理学研究科 准教授 西真之(にしまさゆき)
 TEL:06-6850-5489/090-9579-5653    FAX: 06-6850-5480
 E-mail:nishimasa*ess.sci.osaka-u.ac.jp

 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 教授 井上徹(いのうえとおる)
 TEL:082-424-7460    FAX: 082-424-0735
 E-mail:toinoue*hiroshima-u.ac.jp

 愛媛大学先端研究院地球深部ダイナミクス研究センター 講師 桑原 秀治(くわはら ひではる)
 TEL:089-927-8153
 E-mail:kuwahara.hideharu.vd*ehime-u.ac.jp

<広報・報道に関するお問い合わせ>
 大阪大学 理学研究科 庶務係
 TEL:06-6850-5280    FAX:06-6850-5288
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 広島大学 広報室
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